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鉄道再生のカギは誰の手に

JR西日本が線区ごとの収支状況を始めて公表する方針であることを明らかにし、ちょっとした話題になっています。公表の対象は輸送密度(1日1キロあたりの平均旅客輸送人員)が2,000人未満の線区であり、コロナ禍前の2019年度実績で計算すると、17路線30区間が該当するとのこと。それは運行路線全体の約3割であり、事態の深刻さを物語っています。公表が路線廃止を見据えたものであることは間違いないようです。

日本国有鉄道(国鉄)が分割民営化されたのが1987(昭和62)年4月。日本電信電話公社と日本専売公社を含む3公社が、中曽根内閣による行政改革の一環として民営化されました。まだ昭和だったのですね。当時私は大学生。個人的な影響はなかったものの、民営化で経済が活性化し、各社のサービスも向上するのではないかと、その動きについて関心を持って見つめていました。

分割か非分割かで激しい議論となったものの、民営化後の姿は、結局貨物が切り離され、6つの地域に分割されることになりました。ウィキペディアによれば、分割民営化の目的は「巨額債務の解消と政治介入の排除」「地域密着型経営による鉄道再生」「余剰人員整理」「国労の解体」とあります。

「政治介入の排除」を少し詳しく見てみると、運賃や予算、新線建設、人事などは国会の承認が必要で、経営改善に不可欠な運賃の値上げや他業種への参入などがなかなか認められず、また『我田引鉄』と呼ばれたような採算が見込みにくいローカル線の建設要求が相次ぐなど、民営化まで追い込まれた経営悪化の責任は政治に起因するというものでした。

目的そのものの評価はさておき、民営化によって当初の目的はほぼ達成されることになりました。ただ肝心の「地域密着型経営による鉄道再生」については、分割されたことで、地域によっては状況の悪化に拍車をかける結果となりました。

先ほどのJR西日本に先がけて、JR九州は2020年、不採算事業路線の公表に踏み切っています。JR西日本と同じ輸送密度で計算すると17線区、運行路線全体の約9割にあたるとのこと。JR四国は2019年に、JR北海道が2016年に公表済みで、経営状況が厳しい会社から順に公表されていく様子が伺えます。

これまでも不採算路線はJR各社から切り離され、熊本県内でも肥薩おれんじ鉄道や南阿蘇鉄道のように、第3セクターで運行を継続している路線は少なくありません。政治介入の排除を目的としていたはずが、まさに逆戻りです。先日は一昨年の水害で甚大な被害を受けた肥薩線をなんとか鉄道で復旧してほしいと、沿線自治体がJR九州に要望する様子がニュースで流れていました。

戦後間もない1949年に、国の鉄道省から分離され、独立採算性の公共企業体として国鉄が誕生しています。国から国鉄へ、国鉄からJRへ、そして今後は誰が鉄道事業を担うことになるのでしょうか。先日伺った銚子電気鉄道のように民間で頑張っている会社も存在します。民営化が行き詰まったから再び公営へ、という単純な問題ではありません。地域を支える移動手段としては、自動運転などの技術革新も含め、他の公共交通機関と合わせて考えることが不可欠な時代になっています。

国鉄民営化時の目的とされ、積み残されたままの「地域密着型経営による鉄道再生」に、35年の時を経ていよいよ本腰を入れて取り組まなければならない時代になりました。さて、あなたの身近な鉄道はいかがですか?


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