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令和5年予備試験論文式試験商法答案

第1、設問1
1、乙社としては、本件決議の取消訴訟において会社法(以下略)831条1項1号の事由が存在する旨主張すると考えられる。この主張は妥当か。
(1)「株主は、取締役に対し、一定の事項…を株主総会の目的とすることを請求することができる。」(303条1項)。また、株主は自らが提出しようとする議案の要領を株主総会の招集通知(299条)に記載するよう求めることができる(305条1項)。
 本件でDは甲社株主である乙社を代表して、甲社代表取締役Aに対して、Fを新たに取締役とする旨の議案要領の通知への記載を請求している。これは上述の303条1項、305条1項による適法なものであると考えられるものの、Aはこれを無視し、本件招集通知にもその旨の記載はなされなかった。
 よって「株主総会等の招集の手続…が法令…に違反」するといえる(831条1項1号)。
(2)また、Eは本件総会に乙社の代理人として出席しようとしたが、甲社はこれを拒絶した。
ア、総会屋等により総会の運営が円滑になされないような事態を防止すべき必要性及び、株主の権利行使を実質的に認めようとする趣旨からの規定である310条からして、株主総会議決権代理行使を株主に限定する旨の定款の定めは原則として有効であるが、株主総会の運営を乱さない者との関係では、この定めは適用されるべきではないと考える。
イ、Eはたしかに甲社株主ではないものの、乙社の唯一の従業員であり、乙社の唯一の株主かつ取締役であるDの子である。このような事情からしてEが自ら主体的に甲社株主総会を乱すとは考えにくく、乙社の代理人として従順に乙社の意向を反映すべく権利行使するにすぎないと考えられる。
 したがって甲社の代理人は甲社株主に限定する旨の定款の定めは有効ではあるが、特にEとの関係においてはその適用は排除されるべきで、Eに出席を認めなかった甲社の対応は310条1項前段に反する。
 このように考えても、Aは乙社とD、Eの上述の関係性につき知っていたのであり、Eが株主総会を乱すおそれが低いことはAもわかっていたはずであり、甲社株主総会の円滑な運営を害するものでもなく、妥当である。
ウ、したがって甲社は特定の株主を総会から不当に排除したものとして、831条1項1号に当たる。
 また、これによりEは動議を提出することもできておらず、甲社は304条に反することとなり、これもまた同じく831条1項1号に当たる。
(3)上述の一連の本件決議の瑕疵は、いずれも株主の権利行使を正面から妨げるもので「違反する事実が重大でな」いとはいえない。そしてEの出席が認められ、同人の動議が提出されていれば、他の株主は別の意思決定をしたかもしれない等、「決議に影響を及ぼさない」ともいえない。
 よって裁量棄却も認められない(831条2項)。
2、以上より上述の乙社の主張は妥当である。
第2、設問2
1、乙社は本件発行の効力を争うため本件発行には無効事由がある旨主張すると考えられる(828条1項2号)。この主張は妥当か。
(1)会社法は新株発行の無効事由について定めていない。そして新株発行はその株式の効力が広く第三者の権利等にも影響を与えるものであるから、新株発行の無効事由は、重要な法令違反であると考える。
(2)本件発行は公正な払込金額たる1株20万円に比して丙社にとって「特に有利な金額」である1株10万円でなされたものであり、本来であればその可否につき株主総会の特別決議を経る必要がある(199条3項、2項、1項、201条1項、309条2項5号)。
 しかし本件ではこれを経ておらず、法令違反がある。
(3)また、本件発行はAらが甲社の支配権を維持することを目的としてなしたもので、「著しく不公正な方法によ」るものであるため、差止が可能であった(210条2号)。しかし甲社は本件発行につき通知や公告をしておらず、株主としては差止の機会をうばわれたものといえる。
(4)上述の事情を考えると、甲社はAらが支配権を維持するという不当な目的のために株主の意向を無視して一方的に丙社へ有利発行したもので、株主の利益を大きく損なうものである。
 したがって上述の法令違反は重大で、無効事由である。
2、以上より上述の乙社の主張は妥当である。

以上

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