夢は叶う。その人らしい形で。
昨日、僕が最も敬愛する先輩が、小さいころからの夢を叶えました。
臥雲義尚さん。
長野県松本市長選挙で当選。
政治のリーダーになるという夢をとうとう叶えました。
臥雲さんは、僕がNHKにいた当時、公私共に落ち込んで、やさぐれて、自分のふるまいが原因で孤立していたときに、毎晩のように飲みに連れていってくれた人です。
ある日、僕は、渋谷駅近くの居酒屋で、すばり臥雲さんに聞きました。失礼を承知で。
「臥雲さんの能力が組織に十分評価されていないように感じるんですけど、干されていると感じたことはないんですか」と。
日本の政治の中枢を取材し、日本を揺るがすような特ダネをとっていた、僕から見たらスター記者である臥雲さん。
そんな臥雲さんが、一時期、東京の政治取材の現場から離れていました。
とはいえ、もちろん要職についていました。
でも、臥雲さんにとっては不本意なのではないか。そう、勝手に推察したのです。
臥雲さんの答えは、こうでした。
「いや、王道を歩んでいると思っている」
むしろ経験の幅を広げ、経験値を高めていると、臥雲さんは捉えていました。
どんな仕事にも価値があり、どんな現場にも社会を読み解く手がかりがある。
その仕事をどう生かすかは自分次第。
臥雲さんは、そう教えてくれました。
居酒屋で、いつもホッピーを飲んでいた臥雲さん。
ワイドショーの話題から社会や経済を読み解いたり、レギンスが流行していることから文化を語ったり、いろいろなネタを仕込んでは、いつも楽しそうに仲間に議論をふっかけていました。
役職、職種、年次、性別問わず、言いたいことが言える雰囲気をつくり、チームを明るくまとめていました。
おもしろがり方こそ、記者の原点だということを教えてくださいました。
4年前、臥雲さんは、落選しました。
4年前の投票日の夕方、事務所で臥雲さんと二人きりになりました。
臥雲さんは、俯きながらこう言いました。
「結果は厳しい。覚悟しろ、と言われた。それより(あることで)NHKの仲間に迷惑をかけてしまった。このことのほうが重い」
落選後の会見で「捲土重来を果たす」と言った臥雲さん。
でも、僕にはゼロからというより、マイナスからの再スタートに見えました。
いつもは豪快に笑う臥雲さんの表情が固くなっていった気がしました。
それから4年。
臥雲さんは、議会を毎回傍聴し、コツコツ地域をまわり、こまめに集会に顔を出し、月に1回トークイベントを開き、もどかしく見えるほど地道な活動を続けていました。
「リーダーは借りをつくってはいけない」
臥雲さんは、利害ではなく、大義で仲間を増やそうとしていました。
臥雲さんが、あるとき、こんなエピソードを話してくれました。
「ある悩みを抱える母親が集まった会合に行って、ずーっと、じっーと話を聞いていた。みんなの話が終わったあと、『みなさんが言いたいのはこういうことですか』と要約して言葉にしたら、『そうそう、私が言いたかったのは、そういうことなんです。こんなにわかってくれた人は初めてだ』って涙を流すんだよ。このとき、NHKで培った力はこれだと思った。人の話をしっかり聞いて、その核心をつかんで、言葉にすること。これって記者がやってきたことだよな。NHKで学んだことは政治の役に立つし、社会のどこでも役に立つ力だったんだよ」
僕は、そのときすでにNHKを辞していましたが、かつて記者であったことの価値を自分の中に見いだせずに悩んでいた時期でした。
この臥雲さんの言葉に、前へと進む力をもらいました。
NHKの仲間みんなに聞かせたいな、と思った言葉でした。
そして、今回の選挙。
投票日前日、19時30分からの最終演説。
(↓こちらで見られます)
https://www.youtube.com/watch?v=MEMhCWl9YlI
臥雲さんの語り口は、ゆったりと落ち着いていました。
主張を必死に訴えていた4年前の演説とは、全く違う雰囲気でした。
演説の多くを、選挙活動を支えてくれた仲間や支持してくださった方々への感謝の言葉に費やしていました。
聞いていて、涙があふれてきました。
そして、こう言っていました。
「今回いちばんうれしかったのは、選挙に関わってくださった方々がみなさん楽しそうだったことです。私が子どものころから好きだった政治が、決して忌み嫌われるものではなくて、選挙も忌み嫌われるものでもない。みなさんが充実した明るい顔で選挙に携わってくださったことがうれしかった。そういうことを自分はやりたかった」
「みなさん!多事争論、侃侃諤諤、自由闊達でいきましょうよ!」
これって、臥雲さんが局の居室やNHKのまわりの居酒屋で、ずっと楽しそうにやっていたことだな、と聞きながら、その姿を思い出していました。
投票日の朝、臥雲さんからメッセージをいただきました。
こう書いてありました。
「おはよう。わざわざ足を運んでもらい、ありがとう。すべて出し切った」
そして、臥雲さんは、4年がかりで夢を叶えました。
臥雲さんらしいやり方、臥雲さんらしい形で。
当選確実になり、地元テレビ局に出演した臥雲さん。
その後ろには、「初志貫徹 臥雲義尚」と書いてありました。
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