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障がい者雇用率引き上げとその後の未来

昨年12月、臨時国会にて障害者雇用促進法の改正案が可決成立されました。法改正では、10時間以上20時間未満の算定特例、調整金・報奨金の見直し、助成金の新設・拡充等などが盛り込まれています。

また、今年1月に開催された労働政策審議会障害者雇用分科会では、「雇用率の段階的な引き上げ」が承認され、結果的には、2023年4月から1年間は2.3%で据え置き、2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%と段階的に引き上げされることが確定しています。ちなみに、雇用率が2.5%となると、障害のある人を1人以上雇用すべき企業の範囲が現行の43.5人から40人以上となり、2.7%では37.5人と対象企業も段階的に広がることとなります。

そんな流れで進む障害者雇用の業界。その後の未来を語れる立場でもないですが、就労支援現場で感じることも含めて、いつもの未来志向で書いてみようと思います。

障害者雇用の現状

厚生労働省の資料で見ると、雇用率の引き上げとともに障害のある人の雇用者数も右肩上がりとなっています。障害のある人の総数は現在約1,160万人。その中の18〜64歳は約480万人で雇用者数約61万人。7人に1人の障害のある人が企業で雇用されているのが「今の現状」でもあります。

また、就労移行支援事業所などのいわゆる福祉から雇用への流れも雇用率引き上げとともに増加傾向です。特別支援学校からの就職者数も後押しして、約61万人の雇用者数へとつながっています。

流行りの障害者雇用ビジネス

厚生労働省は、今年4月の労働政策審議会障害者雇用分科会にて「いわゆる障害者雇用ビジネス」についての実態把握をまとめています。資料によると、雇用者数は6,568人となっていて、先ほどの障害者雇用者数約61万人で見ると、全体の1%となります。

この1%の数字をどう見るか…。
個人的には、業界での様々な意見は1%の数字以上の大きな反応があり、どちらかというと批判が多めです。この辺りは、以前のnoteをご覧いただけたらと思います。

特例子会社への期待

さて、話を現状から未来へ移したいと思います。ポイントのひとつは「特例子会社」です。

昨年の法改正では、下の図のとおり「雇用相談援助助成金」の新設が盛り込まれました。これは、中小企業等への相談援助を想定されていますが、特例子会社が親会社等を支援することも想定されているようです。

特例子会社は、令和4年障害者雇用状況の集計結果によると全国に579社あり、雇用されている障害者の数は43,857.0人となっています。前述の障害者雇用者数約61万人で考えると約7%。雇用ビジネスよりも格段に大きな数です。

ポジティブな面で考えてみると、特例子会社には障害者雇用における雇用管理や人材育成、合理的配慮等のノウハウが十分に蓄積されているかと思います。新設される雇用相談援助助成金を特例子会社が活用し、親会社やグループ企業への雇用促進に取り組むことができれば、特例子会社がグループ内におけるインクルーシブ雇用の推進役となることは十分に期待できるのではないでしょうか。

個人的にはこの動きに大きな期待をしていますし、僕も普段の仕事の中でグループ内での雇用推進を手伝いたいです(特例子会社の方。僕でよければご連絡ください!)。

本業でのインクルーシブ雇用

障害者雇用を成功させる秘訣で考えると、やはり「本業」できちんと雇用することに尽きると思います。あくまで個人的意見ではありますが、現場感覚としてはそんな気がしています。

都市部を中心に広がりが加速する障害者雇用ビジネスは、本業での雇用とは言い難い実情があります。また、総務・経理・人事などの管理部門での障害者雇用においても、本業とは違うといっては失礼ですがいわゆる間接部門です。本業を支えるための部門と言うべきでしょうか。そこには、本業を円滑に進めるための周辺業務や管理業務が集約されていて、集約して取り組むことが業務効率につながっていますが、間接部門として業務量と人員配置等のボリュームが大きくなりすぎては本業を苦しめるだけです。本業ではない部門ならではの限界点があるのも事実です。

それに、特例子会社の多くも同じような位置付けでもあります。本業の一部を業務切り出しで特例子会社に集約し、支援と配慮ある環境下で特性に応じた強みを活かした働き方に繋がってはいますが、雇用率引き上げとともに切り出しをどこまで行うかは、本業の発展があってこその成り立つ考え方でもあります。

ここでの本業とは、利益を生む事業・場所での直接的な雇用という意味です。例えば、店舗でのビジネスが成り立つ企業なら店舗ごとに雇用を進めます。有名な話で言えば、ユニクロが1店舗1名の障害者雇用に取り組んでいることでしょうか。とある特例子会社では、店舗展開する本業の強みを活かし、特例子会社で障害のある人を雇用して配属は地域の各店舗として障害者雇用に取り組み、特例子会社の専門職スタッフが店舗巡回を通して必要な支援や配慮の環境調整を目指している事例もあります。

本業での採用は、まさにインクルーシブな雇用に繋がります。それは、法の理念を達成することに限らず、障害のある人にとっては本業に貢献できる喜びや自己実現に繋がり、ワークエンゲージメントの向上にも寄与します。それに、職場では多数派となる障害のない従業員の理解啓発やナチュラルサポート体制に繋がり、誰もが働きやすい職場環境づくりへと発展していくのではないでしょうか。

法定雇用率の引き上げが今後も続く中、本業とは違う間接部門での障害者雇用にはどうしても限界点が生まれてしまうように思います。障害者雇用を持続可能なものにするのなら、「本業でのインクルーシブ雇用」が未来への現実的な一歩になると思います。

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