ちっちゃなあおはる 8

 桜と別れの季節


 ぼくらの修了式と同時に行われる離任式。あやこ先生が壇の上の席に、他の数人の先生と一緒に座っていた――。ぼくが、ミニバスケクラブを初めて見学した日に、バスケの楽しさを"えりかちゃん"と一緒に教えてくれた先生。ミニ大会で足を怪我した時も冷静に対処してくれたあやこ先生。あやこ先生が"にっこり笑う時の含みの多さったらなかったが、さばさばとした性格でいつも清々しかった。当然、男女問わず児童にも親たちにも先生方にも大人気だった。


 離任の挨拶では、クラブ活動がとても楽しかったと涙ながらに語ってくれた。クラブの女子から先生を呼ぶ声があがり、不意を突かれたあやこ先生の目からいくつもの大つぶの涙がこぼれ落ちるのが見えた。声が詰まって言葉を出せないあやこ先生――用意していたスピーチを断念して、顔をくしゃくしゃにしながら、みんなに向かって「ありがとう!」とマイクなしで、何度も何度も伝えてくれた。やっぱり、あやこ先生だ。このスマートさが素敵なのだ。変に格好つけないから、かえって格好いい――。こんな先生にあと何回会えるだろう?


 ふと、あやこ先生に花束と記念品を渡すことになった"えりかちゃん"を壇の下の端に見る。彼女もすでに涙でくしゃくしゃになっていた。が、壇上半ばまで来ると、泣くのを堪えて「今までたくさん、ありがとうございました!これ、クラブのみんなで作りました。」と、ぼくらからの記念品もしっかり渡してくれた。あやこ先生は花束と記念品を受け取り、それらと一緒に"えりかちゃん"を抱きしめた。そこに言葉はなかったが、頷き合う二人に、深い絆がそこに見えたように、ぼくには感じられたのだった。

 記念品は小さいバスケットボールに寄せ書きしたものと、ベニヤ板と針がねで作ったバスケットゴール風のドリンクホルダーだ。春休み中にクラブの子たちと図工室で作った合作だ。寄せ書きのボールも収まる優れモノである。針がねのゴールかごは多少いびつではあったが、バリはすべて削り取ったので触り心地は抜群だった。そのまま自立もするし、オプションの器具をつければ車内でも使える。我ながらナイスアイデアであった。


 離任式が終わり、体育館を退出するあやこ先生を呼ぶ声は、まるでマラソンの沿道の声援のようだった。体育館横の桜さえも、声援を送っているかのように美しく咲き誇っていた――。

 その年は、近年稀にみる暖冬で、豪雪地帯の田舎にしては、珍しく早く春が訪れていた。体育館横の大きな桜の樹も珍しく早く咲き、この日の為に咲き誇ったと思えるほどだった――。

つづく

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