見出し画像

ちっちゃなあおはる 5

 ミニ大会(前編)

 ミニ大会の日はすぐにやって来た。試合は4チームのトーナメント制。4チームそれぞれに個性の強い人がいた。2つのコートに分かれて試合は行われた。


 ぼくらのチームは、この二週間の間に練習という名のもと、役割分担をしてきただけだったが、みんな自信がついていた。下手さは、ほかのチームと変わらないのに。なにより、チームメイト一人ひとりが元気だった。ぼくは、ゲームメーカーとしてボール運びとみんなの動きに合わせた試合運びを心がけた。


 初戦で"えりかちゃん"との息もよくあった。彼女は足が速く、パスが出しやすい。フリーになる瞬間を見逃さなければ、一番のポイントゲッターとなる。他の子がボール回しに困ったら、ぼくへボールを返すことになっていた――。


 試合直前にチームで作戦を練ったとき、作戦を一番熱心に考えていたのは、身長が高い高学年の"まつきくん"だった。彼はチームで一番のめんどくさがりでもある。その彼が、試合直前にボールは"ひでかず"と"えりか"で捌くことを推して、決定したのだった。このチームで起こった突然の出来事だったにも係わらず、みんなが賛成し役割が更に定まったと言っても過言ではなかった。この彼の発言が大会中ずっと影響し、チームがまとまったと思えるほどだった。


 ぼくらチームは、ぼくと"えりかちゃん"を軸に得点を重ね、あろうことか第2クォーターでダブルスコアになり前半を折り返し、ハーフタイムで勢いづいたぼくらは、そのまま58-31と圧勝してしまった――。当人たちもびっくりである。得点力をあげるような厳しい練習らしい練習はしていないのだ。やっているのは、役割を果たそうと懸命になっただけなのだ。一人ひとりが本当に楽しんで参加しているのが、最高のチームだった。"えりかちゃん"の快活に笑う姿は、誰もが心地よく、チームをより一層明るくしているようだった。特徴ある右の頬の"えくぼ"も誇らしげであった。少し休憩のあと、決勝戦となった。


 決勝相手は"きくちくん"のいるチームだった。両チーム初戦の疲れも見せずに、試合開始となった。相手チームには校内で一番背の高い"はせがわくん"がいる。彼はリバウンドの名手で、その身長に反してスピードがある――。


 やっぱりこの人たちか。ぼくは、なんとなくだが彼らが相手になる予感がしていた。そして、"きくちくん"と試合するのは、これが初めてだ。彼のポジションも間違いなくガードである。ぼくらはお互いの動きを知っているので、なかなか手強い――パスが出しにくい。

 第1クォーターが終わってすぐ、2分のインターバルの間に"まつきくん"から、作戦変更案が出された。それは、大胆なもので"えりか"を囮に、自分にボールを集めてほしいというものだった。ぼくが、パスを出せないのは徹底的に彼女がマークされていることだと見ていたのだ。その通りだった。そこで"えりかちゃん"は「あたし、わざと大きい声だして呼ぶね。」とニヤっと笑んだ。八重歯がみえる――あの表情だ。つまり揺動作戦である。ぼくらは、第2クォーターからこの作戦に徹した。チームメイトも、わざと声を上げてボールを呼ぶようになった。全員で攪乱である。すると、面白いくらいセンターの"まつきくん"に、パスが通るようになった。彼はそれほどシュートは得意ではなかったが、この時は本当に頑張ってくれてた。おかげで前半終了には、34-30と4点の差はつけられていたが、十分逆転できるところで、折り返すことができた。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?