ちっちゃなあおはる 11

 最後の"1on1" 

 最後の"1on1"は、ぼくらが使い慣れた5号球で勝負した。"えりかちゃん"は足が速い。去年より背も伸びてる。彼女の試合運びの特徴は鋭いカットインとフックシュートだ。カットインを警戒すると、フックシュートにやられる。"1on1"ならカットインの警戒はない。抜き去られなければ防げる。

だが、彼女のフックシュートは距離があっても決められてしまうことが多い。ミニバスケに3ポイントシュートのカウントはないのだが、あれば、得点差は開きまくるはずだ。そんな見事なフックシュートも、ぼくは比較的よく止めた。彼女のフェイント後のシュートパターンをいくつか見抜いているからだ。

お互い切磋琢磨してきたものだから、大体わかる。"きくちくん"も同じだ。去年のミニ大会では"きくちくん"は、ぼくの強敵になった。この3人はそういうレベルだった。審判に入って欲しかったのも、お互いを知り尽くしているだけあって安心して任せられるのだ。


 だからこそ、勝負したくなるのだ。試合したくなるのだ。何より、思いっきり楽しめる。本気でできることが楽しいのだ。そこにいつもぼくは等身大の自分を感じていた――。


 ぼくらは、遠慮なく激しくぶつかり合いながら、試合に集中した。復帰したばかりのぼくだったが、伏せっていたとは思えないほど動けた。

最初は"えりかちゃん"にしてやられていたものの徐々に挽回した。しかし、いつ見ても見事なフックシュート。ぼくは「うわ、この距離も決めちゃうのかよ。」と本音が漏れた。レベルアップした、彼女の技術力の高さに、驚きが隠せなかった――。


 ちびっこなぼくではあったが、ジャンプ力は学年でも誇れるものだった。いつかの測定で、先生に怪しまれたことさえあった。


 ぼくの得意技はジャンプシュートだ。はじめは、ほんとに入らなくて泣けたものだった。ドリブルが得意でもシュートが決まらなければ格好つかない。ガードだから下手でいいなんてことはないのだ。

ぼくらは、いつも以上に全力を尽くした。ぼくが後ろに飛びながら打ったシュートが入った時「すげー!」という声が聞こえた。"えりかちゃん"も「やるねぇ!」と、右のえくぼがその感嘆ぶりを教えてくれていた。


 その時、審判をしてた"きくちくん"が笛を吹いた――。

「終了!タイムアーップ!」わずか10分足らずの"1on1"が終了した。二人とも全力で勝負した。

笛が鳴ると、同時に見ていた子たちから拍手が起こった。「すごーい!格好よかった!」「わたしも上手になりたーい!」

 ぼくらは、顔を見合わせて握手して、カーテンコールに応えるように二人で手を高く挙げてお辞儀をした。

児童の安全を見守って見ていた先生からも「あなたたち、素晴らしかったわ!」と喝采されたのだった。

ぼくらはなんだか、清々しい達成感があった。やりきった感があった。

"えりかちゃん"にとって小学校最後のぼくとの"1on1"はこうして幕を下ろした――。ぼくらは清掃をして体育館を後にした。

体育館の引き戸を閉めたところで"えりかちゃん"は、ぼくに後ろから抱きつき、そのまま羽交い絞めのような形で「ひでかず、今日は最高の試合をありがとう!いい思い出になった。次は中学で!」といつも以上のご機嫌さであった。

これが、ぼくの復帰戦であり、彼女との小学校最後の試合となった――。

つづく

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