ちっちゃなあおはる 6

ミニ大会(後編)

 ハーフタイムの時に、作戦がうまくはまったと、みんなでウキウキしながら話した。いつも口下手な高学年の彼女"よしはらさん"と"ないとうくん"が積極的に声をだしてくれたのは、効果が大きかった。その為、後半は更に作戦を変更した。"ないとうくん"をガードにしたのだ。ぼくは、身長はなかったがフォワードとして切り込むことにした。


 後半が開始して間もなく、ボール運びが、ぼくから"ないとうくん"に変わった。試合の流れが変わったのだ。相手チームは驚いて、作戦が噛み合っていなかった。ぼくらはその隙に、得点を重ねた。"えりかちゃん"はやっぱり、足が速い。パワーで押され気味のぼくのところに、なんどもヘルプに来てくれた。そして、その都度ゴールを決めた。第3クォーターが終わり46-40と逆転することができた。インターバルでは、みんな笑顔だったが初戦より余裕はなくなっていた。ぼくも例外なく、やはりゴール下は厳しい。激しいぶつかり合いである。"はせがわくん"と"まつきくん"はお互いにライバル視していた。そこにぼくが割って入っているのだから、どうしても小さいやつにツケがまわる――。


 第4クォーターが始まってすぐ、リバウンドに長けている"はせがわくん"がボールを取り、速攻を指示した。ぼくは、それを食い止めようとディフェンスに入ったときだった。ぼくは、ジャンプもしていないのに一瞬、宙に浮き――次の瞬間、床に叩きつけられ、衝撃に顔が歪んだ。審判の笛が鳴る――「チャージング!いまの危険よ!」あやこ先生の声だ。ぼくは、それで我に返った。どうやら"はせがわくん"の猛攻にふっとんだらしい。"はせがわくん"は、わけがわからず立ち尽くしている。ぼくは床に転がったままだ。寝返りをうって、起き上がろうとして、立とうとして、立てなかった。足に力が入らない――なんだこれ?と、その時、"ズキリ"と痛みがやってきた。右足の付け根が痛い――。


 試合が一時中断し、ぼくは棄権退場となった。代わりに他のチームの子が入って試合は再開された。ぼくは、あやこ先生に保健室に連れて行かれ、しばらく寝かせられた。幸いにして、痛みはそれ以上にはならなかった。どうやら右足首を挫いたようだ。保健の先生から湿布と手厚いテーピングで足を固定してもらい、なんとか歩けるようになっていた。痛みが続くようなら通院するよう注意を受け、ぼくは保健室を出た――ちょうど、その時。片づけを終えた"えりかちゃん"が来てくれた。なぜか、いまにも、泣きそうである。ぼくは「試合は?」ときくと彼女は「負けちゃった。」と。ぼくを真正面で捉え、それから「ひでかず、あんなにがんばったのに、負けちゃった!」とその場にくず折れてしまった。


 結果は、3分間の延長戦の末54-52という大健闘だったとのことだった。ぼくはそのまま隣に腰をおろし「そっか。お互いよく頑張ったじゃん。」と言うと、彼女は、おもむろに、ぼくを抱きしめ「ひでかずに、怪我をさせたのが悔しいの。ほんと、ごめんね。」と彼女の大雫の涙が、ぼくの首筋につたって来た。


"はせがわくん"だって夢中だったのだ。試合中に起きたことだし、誰のせいでもない。

ぼくの口からでた言葉は「ありがとう。」だった。ぼくは、彼女が泣き止むまで彼女の頭をなで、寂しそうな右のえくぼを見つめていた。

幸いにもその間に通りがかったのは、あやこ先生だけだった。あやこ先生は、他の児童に影響がないように、ぼくは、先に帰ったことにしてくれていたのだった。

つづく

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