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ちっちゃなあおはる 4

 図書室

 夏休みが終わり、ちょっと久しぶりのクラブ活動が再開した。中学校の体育館での経験がコンプレックスになっていた。ミニバスケは得意だが、バスケは下手だったというのが現実だった。小学生は身体が小さいからというのもある。ましてやぼくと"きちくん"は、保育園から変わらず背の順では一・二番の仲。小4にして、130cmに届いていないちびっこだった。こればかりは自分でもどうしようもない。食べれば伸びる訳でもない。バスケなどたくさん走ったら食べるのは後だ。疲れて水分補給して落ち着いたら、大抵は眠くなる。そうして異常なまでの空腹で目が覚めることも少なくなかった――。


 山々が色づき、紅葉の季節になった。その日のクラブ活動で、二週間後にクラブ内で紅白戦のミニ大会をすることが発表された。総勢22名の所属する人気のミニバスケクラブ。4つのチームに分けて、人数調整は交代で全員が試合に参加する方針が伝えられた。チーム編成はくじ引きとなった。小学生なので、もちろん男女混合チームとなる。高学年の男子数名からは不平が漏れたが、クラブを仕切る"あやこ先生"は「卒業の思い出づくりにもなるわよ。」とにっこり笑って不平を一掃した。この"にっこり"には緊張が含まれることが多いのだ。


 ぼくは"えりかちゃん"と同じチームになった。"きくちくん"とはチームがわかれた。"えりかちゃん"は「ひでかずは、このチームで一番ドリブルがうまいから、ゲームメーカーね!」と言った。ぼくは何のことかよくわからなかった。試合らしきものは練習でもしてきたが、この役割的なものは何も知らなかった。


 クラブが終わってすぐ「もう閉まっちゃうから、急ぐよ!」と"えりかちゃん"は、ぼくの手を引っぱり、図書室へ向かった。本は毎週のように借りるのだけど、何の用事だろう――と閉室間際の図書室に駆け込んだ。図書の先生にお願いして施錠を少し待ってもらった。"えりかちゃん"は「あった。」と一冊、棚から取り上げて、比較的まだ新しいその本をぼくに差し出した。『バスケットボールの基本』と題したその本をパラパラめくると、カラー写真が多めでルールや攻守の際のチームメイト一人ひとりの役割が書いてあった。そこに"ガード"という役割について書かれていた。ボール運びと試合の組み立てをする重要なゲームメーカーと書かれていた。なるほど、このことか。これは、練習だけじゃ分からないことだ。ぼくは迷わず本を借りることにした。貸出カードには"もりかわえりか"の名前もあり、夏休み前には読破したようだ。ほかにもクラブの子で知った名前があった。興味深げにぼくらを見守っている図書の先生にお礼を言って、図書室を後にした。"えりかちゃん"は一緒に読もうと、校舎の裏側にでて本を開いた。下校する他の生徒に見られることが面倒くさかったのだ。


 ぼくらは本を見ながら、意見をぶつけ合った。こういう時はこうしよう、その時はこうしようなど、作戦を練った。ぼくはゲームメーカーとしての役割に、同時に試合の面白さを別の角度から感じ始めていた。試合って頭も使うんだなと理解した日でもあった。この役割のことを伝えるために、紅白戦までの間にチームメイトに声をかけて放課後に何度か練習会をした。このときの最大の効果は、宿題を高学年の子が教えてくれたので、あっという間に宿題が片付く事だった。宿題が片付けば、練習時間がとれる。最初は面倒くさがった高学年の子も、教える側は気分が良いとチームはより活発になっていった――。

つづく

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