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君は海外で発売されたスターター「2-Player Starter Set」を知っているか!?

 2024年6月8日、ここ日本で「TACTICAL-TRY DECK」という実戦を見据えたストラクチャーデッキが発売されることは決闘者の皆様なら周知の事実だろう。3種のうちの1つである「終撃竜サイバー・ドラゴン」のリストが公開された日、その本気の収録内容に「初心者は絶対これを買え」と誰もが言っていたように思う。

 一方で、同年1月に実は海外では初心者向けの構築済みデッキ「2-Player Starter Set」が発売されていたことをご存じだろうか。こちらは所謂「スターターセット」であり、2種のデッキが入っている。実践向けというよりはルールの基礎学習などを目的とした商品なため、パワーが調整されていることは理解していただきたい。

そのうえで、このカードリストを見て欲しい。

なぁにこれぇ


リストを見ただけで無限に文句が出る

 まず前提として、スターターセットであるために基本として近年の環境での活躍シーンのないカードの収録に対して「このカードゴミじゃん!」などと否定することは禁止とする。あくまで、ルールなどを遊びながら学ぶ上でそういった観点は無意味であるからだ。

 では、このセットのコンセプトを改めて確認するが、2デッキそれぞれが切り札をシンクロ・エクシーズという別召喚方法で用意されており、2つを使って対戦しながらルールの理解を深めるのが目的と考えられる。

 では実際にエースを展開するためのカードがメインデッキにあるんだなと目を通していくと、既存プレイヤーなら一発でやばいカードが入っていることが目につくだろう。

 そう、《黄金卿エルドリッチ》である。

《エルド》を中心に回る世界

(光属性モンスター特殊召喚時効果音を幻聴)

 MDを初期環境から触っていた人なら誰もが知っているカード《黄金卿エルドリッチ》。手札から魔法罠と共に墓地へ送りながら場のカード1枚を墓地送りにする①の効果、場の魔法罠をコストに実質自己蘇生できる②の効果、どちらも汎用性が高く出張も可能なくらいだ。

 そんな自己完結性の高いカードがエクシーズ側に入っている。2つのデッキがエクストラからエースを出す準備段階として下級の殴り合いをしている途中、急に効果破壊耐性持ち3500打点のカードが出てきたらどうだろう。素手の喧嘩に機関銃が持ち込まれたに等しい惨状となる。

 それは避けなければならないので何か対策カードをシンクロ側で探すこととなる。まず《D.D.クロウ》で墓地効果起動時に打ち抜ければ確実に根絶できる。《自由解放》は自分のモンスターの戦闘破壊をトリガーに相手モンスター2体をデッキバウンスできるためこれも対処に入るだろう。

なお、場に2体以上モンスターがいないと発動できない

 他にも打点で上回る、ハンドへのバウンスなどの対処は可能だが、結局コストを払えば帰ってくるので実質の対処は上記2枚のみである。もはやシンクロデッキに可能なことと言えば「エクシーズデッキが《エルド》を引かないよう祈る」といったレベルだ。

 そもそも、コンセプトであるエクシーズ召喚と一切関係のないパワーカードが入っていること自体が意味不明である。他にアンデット族のカードもないため②の効果を展開サポートとして利用することもできない。本当に単独性能を押し付けるだけの投入となっている点がとても歪だ。

魔法罠格差社会

 エクシーズデッキ側の最大の強みと言えば、前述の通り《黄金卿エルドリッチ》が入っていることだが、その工面について考えよう。現役決闘者なら《リビングデッドの呼び声》で蘇生したモンスターを含めてエクシーズ召喚、盤面に残ったところをコストに回すといった賢いプレイングなどを思いつくかもしれない。

 だが、話はもっと簡単だ。例えば、《コストダウン》や《スター・チェンジャー》といったエクシーズサポートも「手札のモンスターと噛み合わない」などの状況で腐ることがある。《エルド》はそういったカードを全て等しくコストと化すことができる。

 ハイランダー的なデッキ構築においてコンボパーツが機能不全に陥ることはよくあることであり、そんな中で魔法罠に「コストという別の役割を与えられる」ということが余りにも強い。 

 反対にシンクロデッキ側はそういったことができない。加えてラインナップが独特で、シンクロ召喚を通すためなのか攻撃を無効化するカードが多い。きちんと機能さえすればエース降臨までの手助けになるだろうが、単なる守りによる時間稼ぎだけになってしまった場合は《エルド》のハンドインという最悪の結果を招いてしまう。

エースの性能が違い過ぎる

 ここまでずっと《エルド》の話をし続けていたが、エクストラデッキに入れられたエースの性能についても言及しなくてはならない。

ロボみたいでかっこいい!

 シンクロデッキに設定されているのは《マナドゥム・プライムハート》。《ヴィサス=スタフロスト》を中心としたストーリーに登場するテーマ【マナドゥム】の切り札に位置付けられるカードだ。また、素材指定が「チューナーが複数でも良い」、「それ以外はチューナーかどうかを問わない光属性1体」と変則的なのも特徴だろう。

 肝心の効果は3つで素材チューナーが多いほど攻撃可能、マナドゥムを素材にしていれば対象耐性、破壊されたら指定の一部カードを蘇生・帰還となっている。①の連続攻撃を②の耐性で補助しつつ、やられても③でアドバンテージの回復を図るといったコンセプトなのが分かる。

 分かるのだが、専用デッキでもない今回のデッキでその出しにくさは想像に難くないし、得られるリターンが素材に左右されるというのがとても厳しい。まぁ、出たらいいなぁみたいなカードである。

ガチの巨大ロボが来ちゃった…

 一方のエクシーズデッキは《天霆號アーゼウス》となっている。こちらは「フリーチェーンで素材を2つ使い他のカードすべてを墓地へ送る」強力な効果を持つエースであり、《プライムハート》とは明らかにカードパワーが異なる。

 肝心の出し方については「エクシーズモンスターが戦闘を行ったターンにエクシーズモンスターへ重ねる」だけで出せてしまう。《アーゼウス》以外のエクシーズのランクは4と3なので「☆4か☆3が2体並ぶとフィールド一掃のカードが出てくる」という圧倒的な圧を与えてくる。

 ちなみに、他のカードの破壊に誘発する②の効果はデッキから素材を供給できるため、《エルド》を素材にすることで墓地送りへの中継が可能である。なので、シンクロデッキには求められるのは「出されたあとの対策」より「絶対に出させないこと」である。

中途半端な通常モンスターたち

 そもそも、両デッキに多量に入っている通常モンスターの意味が分からない。「効果を持たないモンスター」について学ばせるにしても、採用メリットとなる通常モンスターサポートの枚数が少なく、割に合っていない。

 そのうえチョイスがおかしい。遊戯王原作やアニメなどが出典のカードで揃えているのかと思いきや《ハープの精》といったステータスの優秀さで選ばれているカードもいたりとちぐはぐ感が否めない。どっちのデッキにも1枚ずつ入っている《おジャマ》がこれほど邪魔なこともないだろう。

 なにより、エクシーズやシンクロで使いづらい高レベルの通常モンスターに関しては完全に事故札である。《ラビードラゴン》を素引きしたらどうするんだ。《トレード・イン》や《コストダウン》などで墓地へ叩き落したあとに《ダイガスタ・エメラル》で釣り上げるコンボは迂遠すぎないか。

というかこのカード入れるくらいなら《青眼の白龍》でいいだろ


実際に決闘してみた

 上記のようにリストに対するツッコミが余りに盛り上がってしまう激ヤバデッキが「2-Player Starter Set」なわけだが、あくまでここまでは机上の話である。実際の対戦で起こった体験談ではない。

 そこで、友人の協力のもとMDでリスト通りのデッキを再現して決闘をしてみた。予想ではエクシーズ側の圧勝だと考えていたが、実戦で実はバランスが取れていたと判明する可能性がなくはないからだ。

シンクロデッキ
実は《マナドゥム・ヒアレス》が2枚あるのでハイランダーではない
エクシーズデッキ
《サイドラ》や《バルバロス》など強い汎用も目立つ

 シンクロデッキは私が、エクシーズデッキは友人が使用しての対戦を行った。結論から言えば5戦で2勝3敗。エクシーズの勝ち越しに終わった。私としては「思ったより勝てたな?」というのが本音だが、実際の対戦で感じたことについてもう少し詳しく振り返っていこうと思う。

強い上に伏兵もいるエクシーズ

 まず、懸念していた通り《エルド》は通したら負ける。5戦中、使用に至ったのは2回のみだったが無対策だとそのままゲームエンドだった。

 対策用のカードである《D.D.クロウ》がしっかり刺さった場面もあったが、逆に《D.D.クロウ》を《エルド》のために取っておかなくてはならないのが厳しい。意識し過ぎた結果、《クレーンクレーン》の効果を通してしまい、《アーゼウス》まで繋がってしまうプレミもあった。

無論、《アーゼウス》が出ることも負けを意味する

 また、互いに罠による奇襲が鍵を握る中で《サイクロン》、《ナイト・ショット》、そして《賢者ケイローン》といった複数のバックケアがあるのもエクシーズデッキの強みに感じた。

 あとはエクストラデッキのカードをエースに据えているにも関わらず、それを容赦なくデッキに戻す《ペンギン・ソルジャー》も許せない。エクシーズデッキと戦っていると、いちいちにカードが強い気がして不公平感ばかり覚えた。

シンクロデッキの僅かな希望

 シンクロデッキも一応戦えるカードがあるにはある。相手も同レベル2体の素材準備を要するので即効性のある除去の《地割れ》、《ブラック・ホール》が入っていることは心強い。

 また、シンクロの小粒なモンスターたちからリソースを回収する《補給部隊》や一時的に1900打点になる《カード・ガンナー》などがいぶし銀の活躍を見せることもあった。流石に前者はアド差が開くのを警戒されてすぐ除去されてしまったが。

 肝心のシンクロの中で一番活躍したのは《驀進装甲ライノセイバー》だった。手札のカードを捨てて1枚につき700打点上昇する効果は腐ったカードの有効利用として素晴らしい働きを見せてくれた。

バクシン!バクシン!バクシン!

「自分が勝つ」より「相手が負ける」

 今回のデッキ対決ではうまくシンクロデッキが食い下がったような感じの対戦成績となっているが、どの試合も最終的には圧倒的な差での勝敗が決している。その要因として大きいのが事故札の存在である。

 エクシーズ側には《ブラック・マジシャン》、《ブラック・マジシャン・ガール》、さらには《千本ナイフ》まで入っており、これらを引いてしまってはエクシーズどころではない。シンクロ側も《TM-1ランチャースパイダー》や《ドラゴン・エッガー》といったカードが来たら動けない。

 上記のような事故札を引いた側が引いていない側の攻撃へ対処が追い付かなくなった時、おおよそ勝敗が決する。つまるところ、プレイングよりドロー結果の方が決闘への影響力が高い=運ゲーに近いものになってしまっていると言える。

完全な詰みの盤面

 これはデッキを見た時から「そうなるだろうな」と思っていたことではあったが、実際に味わうと絶望感がすごいし、このデッキを作ったやつへの憎悪が煮えたぎる。せめて通常モンスターは高ステータスのカードで統一でもしてくれれば少しは溜飲が下がったのにチクショウ…


おわりに

 今回「2-Player Starter Set」という海外発売のスターターセットについて話してきたわけだが、決闘感想についてはあくまで「すでにルールを理解している人によるもの」であることはご注意いただきたい。

 とはいえ、これから遊戯王始めたいな!という人がこのセットを使って分かることと言えば「パワーカードの存在」や「シナジーのないカードを投入してはいけない」ではないか、とは思う。こんな初心者を舐めた商品で遊戯王の魅力が伝わるかは疑問が残る。

 なお、検証をしてくれた友人との結論は「知り合いと笑い飛ばしながら遊ぶ分にはいいが、そのためにこのデッキを組むほどではない」となったので、もし同じようにMDで遊んでみたいと思った人がいてもオススメはしない。

 そんなデッキに対し、冒頭で話題に出した「TACTICAL-TRY DECK」はコンセプトが明確であり、構築も洗練されている。こういった商品が発売される日本がいかに恵まれているか、それが分かっただけでも儲けもの、といったところで今回の記事はこれにて終了。また別の記事でお会いしよう!


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