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観光・ホテル業のイノベーション

ホテル業がコロナ禍による影響を強く受けた業界の1つであるのは論を俟たない、2020〜22年度の3年間には売上の大半が雲散霧消してしまい各社が生き残りをかけ苦渋の選択を迫られた
そんなホテル業の現状について、東急ホテルズ&リゾーツ 代表取締役社長である村井さんから興味深いお話を伺った

当記事は大学院に提出するレポートがベースとなっているが、note掲載にあたり一部内容を編集している
(主に守秘義務に関わる部分のカット)


■要約

村井先生の授業ではサービスにおけるイノベーションの捉え方、観光業・ホテル業の経営環境、東急ホテルズの実例、ホテル業における人材と組織の課題についてお話を頂いた。

1.サービスにおけるイノベーション

 サービス業においてのイノベーションはビジネスモデルに対して行われ顧客満足の価値に重点が置かれるが、サービスは可視化したり財として蓄積するのが難しい。世の中にはITをはじめとした様々な技術が生まれてきてはいる。しかし、観光業・ホテル業にどのように取り入れるかが課題であり、業種を跨いだオープンな場でのイノベーションが期待される。
 サービス業について生産性の向上を実現しようとした際に、分子は付加価値の向上・分母は効率の上昇となり、サービス業においてこの2つは背反する関係にあると考えられる。時間や場所に囚われない働き方改革は顧客に対面して働く現場で実現するにはハードルが高い。そのためにも売値を上げる、付加価値の向上を目指す戦略づくりが不可欠である。

2.経営環境

 コロナ禍という未曾有の危機によって観光業・ホテル業が受けたダメージは計り知れない。観光業を育成し外国人旅行者の受け入れを推進するという政府の方針のもと、2019年の訪日外国人は3188万人へと大幅増加し同業界は順調に成長を重ねてきた。(筆者注:2012年の訪日外国人は835万人)
しかし、コロナ禍により2020年度の訪日外国人数は412万人、更に21年度は25万人へと大幅に減少した。そんな中、ホテル業では所有と運営の分離を進め、保持している不動産を売却することでコロナ禍を乗り切るキャッシュを確保しながら、固定費を削減する方向へと進んでいった。この事を運営受託型、マネジメントコントラクト(以下MC)と呼び、外資系のホテルが先行して導入いる運営形態であり東急ホテルズもホテルの所有を減らしMCの比率を高める事を目指している。

3.実例

 2023年度に入り、規制が緩和されたことで訪日外国人は徐々に戻りつつあるが今度はオーバーツーリズムが問題視されはじめているため、東急ホテルズとしては前述した付加価値の向上と合わせて、サステナブルツーリズムアドベンチャーツーリズムを推進している。また、コロナ禍でのホテル事業の変化としてライフスタイル型ホテルやサービスアパートメントといった新しい宿泊の形を提案するホテルも増えてきており、東急ホテルズも力を入れている分野である。衣食住における衣と食のサービス化は日常の大部分まで浸透しているが、住についてはサービス化が日常にまで及んでいないため、この領域が今後の鍵になるのではないかという視点をご紹介頂いた。

4.人材と組織の課題

 ホテル業におけるサービスの本質とは従業員による接客であり、医療や介護などの対人が必要なサービス業と同様に人手不足・人材不足が課題となっている。その一方で対面での接客が顧客の満足度にも影響があるため、働き方改革やDX導入に関しては制約が大きく、現在は様々な施策を模索している。人材採用および育成については長期的な競争力に繋がるため、特に力を入れて人材不足の解消に取り組んでいる、

■学んだこと・気づき

 今回の授業では講師からのお話とグループワークが密に関連して様々な気づきを得る事ができた。日本国内では人手・人材不足が問題となっており対面でのサービスを必要とする職種については特に顕著である。コロナ禍以降は働き方改革が急速に進みライフワークバランスが強く意識されるようになったが、その恩恵を受けられない業種において問題が顕在化しているようである。
 医療と介護の現場に身を置く方々と同じグループになりお話を伺う事ができ、この2現場については省力化や効率化のためにDXを促進している事を知ることが出来た一方で、観光業やビジネスユース以外のホテル業についてはDXによってホスピタリティの低下を招く可能性があり、他のサービス業とは異なる問題に直面していることを知った。

■自組織への当てはめ

 ITベンダーである自組織も労働集約型という点で人手不足・人材不足などホテル業と類似する問題点を抱えている。一方で働き方改革についてはリモートワーク可能な業務が多いため自組織業種の方が恵まれていると感じた。また、様々な業種がDX推進を模索しているという状況において自組織でも組織内のDX推進のみならず、DXを提案できる組織能力を身につけるべきであるとより一層強く感じた。


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