タイトル未定a(3)

side:c 和枝(カズエ)

望んだのはこんな事じゃなかったのに。


私は長女に美香(よしか)、次女に紗也香(さやか)と名付けた。私に似た、美しく大切な娘。

二人は私の全て。

◆◇◆◇◆

宙歴1854年、冷戦が続いていたΩ銀河系の惑星┛#┯»┤(地球名イドゥリアレンタ)との関係が改善した。┛#┯»┤(以下、イドゥリアレンタとする)は地球よりも知的な生命体を主軸とした文明で、地球が交渉に値する文明になるのを待っていた、という所だった。

イドゥリアレンタは地球に多くの富をもたらした。資材、技術、価値…しかし、その20年後、イドゥリアレンタは地球から撤退する。地球にもたらした富のほとんどを取り上げての撤退だったために地球人類は混乱を極めた。そんな中でイドゥリアレンタが唯一残したのは、医療技術であった。

イドゥリアレンタが地球から撤退したことは混乱を極めたが、20年という短い年月の交流だったため、それは一瞬だった。地球人類は残った医療技術にを昇華させることに躍起になり研究を重ねた。そして地球人類の健康環境は激変する。殊に高齢化が進みきり、新たな命の誕生を期待できなくなっていた“ジャポネ”はその技術を応用し、甦りを手に入れた数少ない国である。老齢の技術者達が競うように研究を重ね、その過程では多くの若い命が奪われた。しかしジャポネの民はそれを悪だとはせず“尊い犠牲”と称し技術躍進を喜んだ。

また―――

◆◇◆◇◆

リノリウムの床が鈍く光っていた。

強烈な目眩と吐き気に耐えながら、私は目的のドアを目指す。ここにくると宇宙には行きたくないと、強烈に思う。無重力なんて、絶対に耐えられない…

「あぁ、よしか、さやか…」

全ては美香と紗也香の為。そう言い聞かせないと前に進めない。私の娘。大切な娘。私の元に舞い降りてきた天使。未婚の母という選択を静かに肯定してくれた、愛する娘。美しい二人。でも、それももう…

千鳥足でたどり着いたのは、頑丈なロックのかかった扉。三重のセキュリティ一を解除する。重たい扉を開ける。

声聞、虹彩、DNA。この扉を開けられる、数少ない地球人類。私は選ばれた者…

「…薬を、薬をちょうだい…!美香と紗也香のための薬を…!」

薄いグリーンの床。同色の壁、本棚、事務机、デスク、コンピューター。床に充満する煙。事務机の上に花瓶。花はなく、そこから吐き出された煙が部屋に満ちているのだ。人はいない。そこには穏やかな虚無があるだけ。

「  ╋┗┣┏┝┰┨┏┿┗┏?(娘のためではなく自分のための薬では?)  」

「そうじゃない…!私は┼┬┴├┤┠!(2人のために!)  」

「  │┌└┷┼┯┠?(何を差し出す?)  」

「  ┴┼┰┨┥┯┤─!┬┝┌┌┏藤沢!(話が違う!私は藤沢の末裔よ!)  」


私は虚無と話をする。

救いを求めて。