新しいリップを買う、その理由

春なので新しいリップを買った。春なので。理由なんてそれだけだ。

音楽を聴いているときなど、どうしようもなく感情が高まるときがある。
とりわけスピッツが好きだ。
他も色々聴くけれど、スピッツは他のアーティストの作品ではとても代替できない、私にとって唯一の存在である。
(このあたりは語り始めると長くなるので、またいつかの機会に)

https://youtu.be/51CH3dPaWXc

ロビンソン。大変有名な、彼らの代表曲の1つである。
「2人だけの国歌を作りたかった」と確か草野さんが言っていたように思う。

イントロのギターでもう、全力でやられてしまう。エモさの暴力である。

『待ちぶせた夢のほとり 驚いた君の瞳 
 そして僕ら今ここで 生まれ変わるよ』

特にここの歌詞がとんでもない。国宝級だと思う。
なんて詩的で美しい光景だろう。
この部分にさしかかるたび、屋外だろうが電車の中だろうが、
何もかも放り出して転げ回り、地面に顔を擦りつけたい衝動に駆られる。
もちろん理性のある大人なので、実際に行動に移したりはしない。
そういう行動をしている自分を想像して、眺めるだけである。
そんなとき、おそらく私は心ここにあらずといったぼーっとした表情をしているのだろうと思う。

そして、この短歌を思い出す。

あくがるる心はさてもやまざくら 散りなむのちや身にかへるべき

山家集に収められている西行法師の短歌である。
身体からふわーっと魂が抜けていって、頭上の桜にすーっと吸い込まれていくような、
そして花びらが散るのとともにまた身体に戻ってくるような、
そんな一首である。

あくがるる心。
なんとなく地に足がつかないような、気持ちよく宙に浮いていくような。
春の心地そのもののようではないか。

『大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る』

ロビンソンで歌われるのは主人公と『君』、2人の情景だと思われるが、
ここにひとり、イヤフォンから流れる音楽に身を任せて目を閉じる私も、
心だけは春の風に攫われて、桜降る空の遥か上方へと、舞い上がっていくようである。

ふと、購入したリップを手に取って、開けてみる。
なめらかで綺麗な桜色をしていた。
私の手のひらの上を、春の風が通り過ぎた気がした。

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