見出し画像

【ホラー映画レビュー②】&【カルト映画レビュー①】 ウィッカーマン(1973英)

【点数:90点】

つい最近「ミッドサマー」というホラー映画が上映されておりヒットしているようだが、残念ながらコロナの影響でまだ見に行けていない。設定的
に絶対私は好きな映画に間違いないと思っている。なぜなら私は似た設定であろう(そしておそらく着想の元ネタであろう)「ウィッカーマン」が
大好きだからである(当然ニコラスケイジのリメイクではなくオリジナル版)。共通するテーマは原始宗教と、そこに放り込まれたキリスト教徒の
意識差だ。

簡単なストーリーは、イギリス・ブリテン島の警官が、失踪した女の子の調査のためにケルト文化が色濃く残るサマーアイル島を訪問する。聞き込
みを続ける最中何度も奇妙な宗教的価値(その多くは性的に奔放なもの)に遭遇するが、敬虔なキリスト教徒である警官はそれを受け入れることは
できない。調査の結果彼は一つの結論に達する。それは村ぐるみでの恐ろしい陰謀であったというもの。

多文化学習が好きな自分にとっては、カルチャーギャップは大好物だ。旅行していてもインドでチャイを飲んだ後器を地面にたたきつけて割ると
か、チベットで五体投地だけで聖地を目指したりだとかの話を聞くと心が躍る。昔の風習や信仰を色濃く残している習慣は、真面目にやればやるほ
ど現代西洋の価値観に照らすと珍妙に感じられる。そんな楽しみをウィッカーマン(そしておそらくミッドサマーでも)は与えてくれる。ジャンル
としてはミステリー色の強いホラーであるが、敬虔なキリスト教徒でなければ制作者の意図した恐怖を味わうことはできないだろう。日本人は特に
性器をご神体としたお祭りに嬉々として参加するし、イワシの頭は飾る。過去は夜這いの習慣や混浴の習慣があったりするし、はっきり言ってこの
映画で前半「忌避すべき・恐怖すべき」として書かれる習慣について全く嫌悪感がわかない。女性が奔放に迫ってくる文化などはもはや羨ましい以
外の何物でもない。欧州ではそういった原始的な奔放さを否定し欲望・本能を否定して押さえつけているのがキリスト教で、それを源流とした近代
価値観が現代の世界のスタンダードとされつつあるが、そういった価値観で統一された世界はまったく面白くないものだと思う。

まあそんな性的奔放さや奇妙な風習までは、多少うらやま……けしからんところはあっても咎めるべきものではない。ただ奔放であることは単に性
的なものに限定されるわけではなく、人間の生死観において奔放であることもある。インカ帝国では人身御供をささげることを当然としていたし、
生贄にされる方も嫌がるどころか名誉として喜び、家族も周囲にそれを自慢するというのが普通であった。こうなってくると、われわれ日本人の感
覚でも単なる珍妙さではなく、恐怖感が沸く。ウィッカーマンでは、その性的奔放さから人間の生死観の奔放さへとスルっと自然にスライドしてゆ
く描写が非常によくできている。スライドした時島民は正体を現すように性格を変えるわけではない。ずっと幸せそうな笑顔でテンションは変わら
ないし、描写される島の景色も美しいまま。つまりは日常の延長線上なのだ。

あくまで私の予想だが、この映画は「キリスト教的価値観の押し付け」に関して異議を唱えたいという制作者の意図があると思う。最終的に逆転勝
利があるわけでもなく、主人公はずっと島民の価値観に圧倒されたままだ。現実ではキリスト教的価値観に弱体化させられた土着宗教の逆襲といえ
る。ホラー映画ではリア充に虐められた過去のある監督が、リア充をジェイソンなど殺人鬼が皆殺しにする映画を撮るというスタイルがスタンダー
ドの一つであり、これも構図としては同じなのだ。
現代でもアメリカにはキリスト教原理主義者とも呼べるような熱狂的な福音主義者たちが多くいる。彼らは中絶は反対するし、学校で進化論を教え
ることを否定する。それ自体の価値観を否定するつもりはないが、そういった個人的な価値観を絶対的な正義としてうるさく口出しされることにイ
ラっとしている人は、ぜひこの映画を見て留飲を下げてほしい。比較的若いクリストファー・リーも出演していてかっこいいよ。ちなみに「ウィッカーマン」はケルトの宗教行事として実在する。

頂いた支援金は余すことなく、旅行先でどう考えても役に立たないものの購入に充て、それを記事内で紹介いたします。(例:チベット仏教のマニ車など)