「不易流行」が未来へ運んでいくもの

少し粋がったタイトルをつけてしまいました。
意義と課題を取り上げますので、どうしても未来志向になってしまいしっくりとくるのがこの表現になりました。

改めまして、今回は、
・古典芸能プロジェクト「不易流行」を行う意義
・「不易流行」の現在地と第二期に取り組むべき課題
についてお話いたします。

「狂言×歌舞伎 オンライン公演」の準備を進めるなかで私が感じていたのは、プロジェクトチームとして可能性があるということでした。
私個人としては始動時点から、配信公演に留まらず、継続的にWEBを活用した展開や、様々な企画を交えた古典芸能に触れる機会の設計をしていきたいと思っておりました。
開拓精神が旺盛なメンバーによる推進力を持ったチームが編成できないと頭打ちになりますし、受発注関係の利害関係者ばかり増やしても機能不全を起こしてしまいます。
なので、初動のメンバーに関しては、少数で横断的に関与できる(専門性のバラつきはあるにしても全員がある程度基本的な実務が行える)メンバーが良いと思っておりました。
身曾岐神社収録後の実務を経て、その意味において非常に魅力的なチームになり得る潜在力があると感じました。

まずは弘太郎の理解力と調整力です。
年上かつ大学の先輩に対して失礼な物言いですが、実務の思考回路を持っていなかったり、「やりたい」と言ってくれてはいてもどこかのタイミングで「そんなことはそっちでやっといてよ」となるかなと思っていました。
ですが、これが全く予想の逆で驚きました。
各所との事務連絡だけでなく、管理進行業務に大切なシナリオ設計への感度もありますし、何よりもニュートラルに物事を捉えているということがわかりました。

山本は自分が一番活きる「型」のようなものを持って仕事に臨むタイプだろうと予測していたので、その「型」が上手く機能してくれるかが鍵でしたが、思っていた以上に楽しみながらフィットしてくれました。
制作陣のスタッフィングに関しても、山本が仕切ってくれておりました。

よく「温度感」や「ベクトル」が揃っていないとチーム運営は上手くいかないという話を耳にします。
私が憧れる経営者の一人、amadanaの熊本社長(クマカンの愛称の方が有名)は「周波数」と仰っていました。
チームメンバー個々の考え方はバラバラで良いですし、専門知識に通じている度合い(歌舞伎の決まりごとをどれくらい知っているか等)や各実務に対する習熟度(例えばエクセルがどれくらい使えるか等)はそんなに問題ではありません。
大切なのは、お互いが横断的に関与できるかどうかだと思っております。
そして、今進んでいる方向性を敢えて疑ってみることや、立ち止まって見つめ直すことを全員が提起できないと、自己満足性の強い(他の視座を受け付けず、結果として創意の足らないものしか作れない)組織になってしまうと思います。
この意味においては現時点でもクリアできていると自負しております。

前段が長く抽象度が高い話になってしまいました。
まとめると、情熱と探究心を全員が持っており、予想ができない急な事態にも迅速に対応できる小所帯のチームであることが、前提条件となるという話でした。
その上でのお話をいたします。

私は、古典芸能プロジェクト「不易流行」はベンチャービジネスだと思っております。
そして「不易流行」の存在意義は、「手法や経験の公開」と「小さな実験の積み重ね」を古典芸能の領域で行うところにあります。
例えば「狂言×歌舞伎 オンライン公演」「部屋子の部屋」「遅ればせながら、市川弘太郎の会」で得られた知見を公開することで、実演家の方々の参考になったり、古典芸能という限られた特殊な世界と思われやすい領域にビジネスチャンスを感じる方が増えることを狙いとしています。
もし資金力も知名度もある他の組織が「不易流行」の手法を取り入れたとしても、全く問題ではありません。
大事なのは、古典芸能の世界が開かれたビジネス分野として発展することであり活性化することです。
そうすれば競合となる組織との切磋琢磨を経て、よりダイナミックな業界となることができます。
ただ、絶対に忘れてはならないのが、先人たちが築き上げてきた芸や風土に対する敬意です。
ここを疎かにしてしまうメンバーがいたり、そのような要素がひとつでもあると、それは上述したクマカンが言うところの「周波数」が合っていない状態となります。
それだけは外してはならないと強く肝に銘じております。
「小さな実験の積み重ね」とは都度工夫をしてみるということです。
全く同じ仕組みでは取り組まないということです。
「部屋子の部屋」も毎回何かしら新たな手法や機材を試しておりますが、実際に取り入れてみることで良し悪しがはっきりとします。
お客様にとって心地良いものであるための模索ですから、お気づきのことがあれば是非お知らせいただきたく思っておりまして、その為には交流が不可欠だと考えております。

次に「不易流行」の現在地と第二期に取り組むべき課題について話します。
1年間(助走期間を入れて1年4か月)活動してきて得られたものは本当に多いですが、ここでは運営面に関してのみ触れることにいたします。

まず取り上げたいのは、お客様との交流を重視した配信展開のなかで明確になったことについてです。
それは如何に全国津々浦々多くの方が「不易流行」に接点を持ってくださったかということです。
「部屋子の部屋」や「遅ればせながら、市川弘太郎の会」を通じて、たくさんのメッセージやアンケートを頂戴いたしました。
その中には、たくさんの移動費や滞在費をかけて数日にわたる観劇をすることを楽しみにされている方もいらっしゃいました。
数十年来の歌舞伎ファンの方が、今は劇場へ足を運べないからと、「不易流行」の各コンテンツへ接してくださっていることもわかりました。
当然のことではありますが、決して劇場近郊にお住まいの方ばかりでは無いと改めて認識いたしました。

次に取り上げたいのは、歌舞伎業界内の方々が好意的にお力添えをしてくださったことです。
これは弘太郎が26年に及ぶ役者としての活動で築き上げてきた信頼によるものに他なりません。

配信を通じて実感をしたこととしましては、舞台芸術において配信は補完の域を出ないようにも感じました。
これについてはまだ工夫の余地があるかと思いますし、テクノロジーによって解決できるところも多いかと思いますが、やはり劇場で行われることを前提に作られていますので厳しい面が強いと捉えております。
三味線や唄、語りの間合いなど演奏がもたらす妙というものも、どこか薄らいでしまうように思えました。
役者が作り出す芸の伝わり方も同様です。
「狂言×歌舞伎 オンライン公演」では、素晴らしい撮影編集スタッフにより、また現地のロケーションも幻想的で映像作品として良いものになりましたが、より工夫を重ねていきたいと思っております。

事務的な運営に関しては、先行きが不明瞭であることから場当たり的な対応がこの1年はほとんどでして反省材料は多いものの、それでもこの災禍にあってよく出来た方だと思います。
これは小所帯だからこそ出来る意思決定の速さもさることながら、費用超過などリスクを抱えたまま走り続けることをチームメンバーで共有し同じ心持ちでいられたことが大きいと思います。
リスクを全て排除することは不可能ですし、かといって動かなければ何も得られません。
「不易流行」コアメンバーの4者はレベニューシェアでの運営を行っておりますから、頓挫してしまえば利益は生まれません。
それどころか、負債を抱えてしまう可能性もあり配分が無ければ活動を続けることも出来なくなってしまいます。
それでも挑戦するということは、やはり小所帯かつ「周波数」の合致が必要となります。
たくさんのご支援や励ましを頂戴するに至ったのは、この状況下で気概を持って1年間突き進んだことが「不易流行」に接した方へ届いたからだと自負しておりますし、何よりもありがたく嬉しいことです。

第二期を迎えるにあたり改めてチームメンバーで今後の指針や活動案を話し合っておりますが、実のところまだ定まっておりません。
1年間活動しながら組み立てた中期計画も、活動することで見えた需要や身の丈に応じて今一度見直す必要があるからです。
ぶれないのは「古典芸能が本来持ちうる芸術性と娯楽性を、現代人が楽しめる形で提供する」という理念です。
例えば、舞台公演を行うのであれば配信やBlu-rayによって映像化をするということです。
この理念に沿うのであれば、新たな手法や他のエンターテイメントから取り入れるものがあって良いと思っております。

そして、現状の不易流行が持つ課題は、思考の多様性と資金調達力です。
性別や年齢で分けることに意味があるとは思っておりませんが、チームメンバーは全員30代後半の男性であり、このセグメントにおいて同一になってしまっております。
違う属性の視点を取り入れたときに、どのようなアイデアが生まれるかを試すことは有意義だと思っております。
思考の多様性が含むところには古典芸能への理解度も含まれます。
コンテンツとして取り扱うには、あまりにも知らないことが多く、この点において弘太郎にだけ集約されていてはならない考えております。

メンバー全員が古典芸能の奥深さを感じており一観客の視点を持つことが出来ているので業務上の義務となっておらず、近い「周波数」で取り組めていることを感じています。
ですが、チームとして知見を増やさないことには面白いものは作れないので、第二期では舞台公演を作る方々のお話をじっくりと伺う機会を増やしていくことも行いたいと思います。

続いて「不易流行」が抱えている課題として挙げられる資金調達力について話します。
先述のとおり、コアメンバー4者によるレベニューシェアを前提に任意団体である実行委員会として運営しております。
発生する費用は私の経営する会社で立替を行い、委員会としては売上をもって立替分を弁済、利益が生まれれば予め決めておいた割合によって配分することにしています。
つまり4者の人件費などは期を通じて生まれた利益が無ければ支払われることがありません。
舞台公演は実施する内容にもよるもののほとんどのケースではある程度の期間で上演しないと、チケット収入だけでは賄いきれません。
「遅ればせながら、市川弘太郎の会」はコロナ禍にあって座席数を半数以下にしましたので殊更に厳しく、協賛各社のお力添えはありましたが、補助金を得ないことには赤字になるような状況でした。
映像化については撮影編集費が必要となるので、クラウドファンディングでのご支援をそのまま使わせていただきました。
第二期では、出資を含めた資金調達により同じ船に乗ってくださるプレイヤーを増やすことが課題となっております。
何よりもまずこの災禍が収まることを願ってやみません。

以上のような課題を持ちながらも進めていく先に、チームとして出来ることが増え、より多くの方々に楽しんでいただける企画を作って行かれるように日々取り組んで参ります。
むしろこのような大変な状況だからこそ得られるものも多く、今後「不易流行」はダイナミックな挑戦が出来るチームになるように思いますし、このような存在への期待や続けるなかで発見できる需要も感じております。
いずれ、実演家の皆様やお客様と共に、先人たちが築き上げてきた素晴らしい文化を時代に即した形での発展に貢献出来ると信じております。
その為には、日々新たに生まれるテクノロジーなどを知ることも含めてあらゆることへの接点を増やし、また関わり方を様々に設計する必要があります。
第二期はこの1年で感じたこと、得たことをもとに新たな挑戦も増やして、第三期第四期と続けていくべく挑戦して参りますので、今後とも「不易流行」をよろしくお願い申し上げます。

今回はかなり長い投稿になりました。
お読みいただき、ありがとうございました。

次回以降は、私個人として日々の生活のなかでふと感じたことを書き記したいと思います。

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