「狂言×歌舞伎 オンライン公演」が出来るまで③

今回は
・収録日直前の葛藤
・収録現場でのアクシデント
についてお話しします。

「上手くいかなくて、当たり前」「何故自分だけが上手くいくと思っているのか」
この言葉も、おてらおやつクラブの福井良應さんから学んだものです。

当然のことのように聴こえる内容ですが、胸に手をあてて考えてみると冷や水を浴びせられたような感覚になったのをはっきりと覚えています。
「自分は一生懸命に、真摯に向き合っているのだから大丈夫」と考えることは良いことなのですが、一方で「思い描いているとおりに事が運ばないことは良くないこと」だと捉えることは驕りであると指摘されたように感じました。
確かに準備万端抜かり無く計画することは大切なことですが、世の中は誰の手によってもどうしようもないことが多くあります。
今の災禍も、誰しもが予見できませんでした。

身曾岐神社での収録を控えた前々日の話です。
猛スピードでの準備を経て、いよいよとなったタイミングでの天気予報は、雨でした。
たしかに屋外での舞台で収録をすると決めた時点で対策を含め心算はしておりました。
弘太郎が屈指の雨男であることも承知しておりました。
しかし、この時の私は出演者の皆さんのお稽古を数回にわたり拝見していたので、良いコンディションで撮影したいという想いがどんどん強くなっておりました。
普段のリズムが崩れた毎日が続き、実演家の方のなかには存在意義が見出せなくて悩んでおられる方もいらっしゃいました。
非常事態においては二の次として扱われてしまうこと、当時よく耳にした言葉「不要不急」とされることへ情熱を傾けてきたことに対しての苦しみがあったのだと思います。
このnoteを読んでくださっている方には「文化・芸術は不要不急ではない」と仰る方もおられるでしょうし、私もそのように思います。
不易流行へ寄せていただいたメッセージにも、そのような励ましのお言葉が多くございました。
しかしながら、劇場で芸を披露し、言葉を交わさずとも空気というものでお客様と交流をしている実演家にとって、空気を伝って感じる反応が無いということは生きている実感を削がれたようなものだったのでしょう。
その状況下にも関わらず、猿翁一門の役者さん方、笑三郎さんはじめ紫派藤間流の先生方は本当に真剣に取り組んでくださいました。
接触を避けることに努めておりましたので数回ではありましたが、お稽古を拝見しているだけで涙が溢れそうになるほどだった感情が、お稽古場の光景と共に今となっても鮮明に蘇って参ります。
そんな心持ちでしたので、ひとときでも晴れやかで素晴らしい日常が感じられるものを良いコンディションで創りたいという気持ちが強く芽生えておりました。
荒天に備え収録予備日は用意しておりましたが、コストが嵩むことを考えると延期は極力避けたいこともあり、私にとって大きな葛藤を生んでおりました。
どちらの決断をするか、弘太郎と山本と出立前夜にzoomで話しているなかで、弘太郎から「雨というのも今の我々を表しているようで良いじゃない。」という言葉がありました。
Artistspokenにておてらおやつクラブの福井良應さんと対談したときに伺った話が、当時の私たちを救ってくれました。
とかく何かに熱中し突き進んでいるなかでは、未来を自分の理想に当てはめようとする習性が人間にはあることを実感しました。
「これだけ、みんなが準備をしてくれた。だから良いコンデションで伸びやかに踊って欲しい、芝居して欲しい。」との願いが強すぎたのだと思います。
弘太郎は「福井さんだったら、なんで自分たちだけ上手くいくと思っているんですか?って言うよね!」と笑いながら言っていました。
「そうか、避けたかった雨も含めて、今できることへ挑戦する意義なのか」と心底納得したのを覚えています。

雨のなかでの撮影フォーメーションを念入りに打合せて、当日を迎えましたが、やはり雨でした。
「やっぱりかー」と思いつつ、福井さんの言葉を噛み締めて「現場で何かトラブルがあっても、その時はみんなで乗り越えよう」と自分に言っておりました。
その矢先、想定していたマイクとは違うものが届いたことを知りました。
事前に入念に擦り合わせをしていたにも関わらず、認識に行き違いを起こしておりました。
オンライン打合せでも、実物の確認までしておくべきだったと反省しています。
「まずいな。さぁどうしよう…!」となり、マイクがある場所で準備をしている弘太郎のところへ向かいました。
困惑している弘太郎を見て、かえって落ち着いて打開策を練られたことを覚えていますが、直前に動揺させてしまったことを申し訳なく思っています。
ただ、この時の弘太郎の表情が、その後の不易流行チームにとっては和ませるものになったので、今となっては良い思い出になっています。
「遅ればせながら、市川弘太郎の会」のパンフレットにございますので、是非ご覧ください。

「遅ればせながら、市川弘太郎の会」パンフレット販売ページ

https://fuekiryuko.stores.jp/items/6104d0838a4572031622b906

このような経験があって、「遅ればせながら、市川弘太郎の会」の際も暗中模索のなかチームとして明るく準備ができましたし、何より「上手くいかなくて、当たり前」であることを学ぶことができました。

次回は、
・古典芸能プロジェクト「不易流行」を行う意義
・「不易流行」の現在地と第二期に取り組むべき課題
についてお話いたします。

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