2回:山之口貘『弾を浴びた島』
文章を書くきっかけ
自分には文章を書くきっかけが2つあって、1つは当時好きだった子を振り向かせるためで、もう1つは山之口貘の詩に感銘を受けたから。両方とも大学2年の5月のことでした。
新城郁夫さんの「日本文学概論」という講義を取っていて、その中で山之口貘の『会話』という詩が紹介されました。「お国は?と女は言った さて僕の国はどこなんだか」で始まる沖縄文学のマスターピースです。いたく感銘を受けました。言語表現すごい。内面の葛藤をユーモラスに描きながらも社会性を決して失わない強度。書くなら私もかくありたいと今でも念頭に置いています。他にも多数の傑作を残した山之口貘ですが今回紹介するのは『弾を浴びた島』次段で全文いってみましょう(原文は詩集『鮪に鰯』に掲載されています。あと山之口貘の作品は青空文庫にもたくさんあるので、是非)
弾を浴びた島
島の土を踏んだとたんに
ガンジューイとあいさつしたところ
はいおかげさまで元気ですとか言って
島の人は日本語で来たのだ
郷愁はいささか戸惑いしてしまって
ウチナーグチマディン ムル
イクサニ サッタルバスイと言うと
島の人は苦笑したのだが
沖縄語は上手ですねと来たのだ
30年ぶりの帰郷というシチュエーションで、沖縄語は上手ですねと返される悲しみ。怒るでも恨むでもなく、ただただ悲しみと可笑しみを胸にしまい込む。山之口貘って沖縄県内だと詩碑が公園とかに建ってるから当たり障りのない詩人だろう、と思ったら大間違い。とてもラディカルです。ラディカルな詩人は、信用できます。
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