安里川のほとりで私は泣く、前へ進むために

魔法のような瞬間と退屈な時間、燃えるような野心と死にたい気持ちが交互にやって来ては、くたびれて、奮い上がって、気がついたらなんだか1月も終わりに差し掛かっている。
36歳の冬はうっすら寒い。心と身体は熱い。19歳みたいなやる気と好奇心があって、36歳相応の欲求が削げ落ちた感じになって、なるほどこれが脂の乗った時期か、と早合点している。立ち枯れているのかもしれない、狂い咲きとか徒花とか、植物で例えられるそういう状況なだけかもしれない。
それでも腹が据わったと、嘘でも思い続けられる心境にある。2023年下半期のあれこれは、自分の19歳以降のあれこれが一気に集約した感があった。意外にも人生というのを歩んでいたんだと、長距離移動の時とかに耽る。窓外を眺めたぐらいにして。
まずこの5年間、自分は漠然と映画に携わっていた。悪い性分があって、気乗りした作品や企画には無条件の熱量を注げるのだが、会社の人間としてはもっとバランス良く注がないと色々と立ち行かない。一方で公私が曖昧な人間なので雑誌も手伝わないと、ナハウスもなんとか引き継がさせないと、あとあれだ自分が作りたいものともきちんと向き合わないと、という具合に2023年上半期にはテトリスのピースがギリギリまで積み重なってもう二列ぐらい乗せたらゲームオーバーというところまで来ていた。
自分は誰かに相談すること、打ち明けること、気軽に飲みに行くことが苦手だ。溜め込む必要があることと、共有する必要があるものの区別をつけられない。人生テトリスは誰かを頼ることによってピースがずれ込んで、列が解消されていくものだ。ちなみにテトリスのピースはテトリミノと呼ぶらしい。

7月に列はガタガタと崩れ落ちた。まず画面が真っ暗になって、罅が入って、優しいBGMが流れてくる。もう終わりだよ、筐体の前から離れなさい坊や。なるべく物事を考えないように、いわゆる心を空っぽにしながら欠片を拾い集めて、那覇市のゴミ収集ルールに従って分別した。
8月に台風と一緒に残った瓦礫も飛ばされてしまい、ゲームオーバーかと思ったらニューゲームが始まった。面を食らった。どうしていいのかわからないけど、なおも動き続ける心臓、ひっきりなしの予定、新居で泣きながら新しいテトリミノが落ちてくるのを待った。
9月、何もなかった誕生日の方が多かったのに、こういう時に限って寂しくてやりきれない。それでlil rockersで開かれてる”ヤングナハウス”のメンバーたちのイベント行ったらめちゃくちゃ祝福された。お誕生日ソング歌ってくれて、シャンパンまで開けてくれた。シャンパン!?36歳の幕開けシャンパーニュ!?
10月、徐々に気力を取り戻す。
「ああ、勝負はこれからか」「もうどこにも行きたくないな」「なんか映画最後まで観きれないな」「ページを捲るのがダルいな」「変わらないと終わりだな」「11月まで力を蓄えるか」「お金ないな」「まずは料理からだな」
新生活の構築は台所から始まった。食い意地も馬鹿にならない。あとゲームも買ってみた。他にやるべきこともない気がした。鍋フライパン調味料を手当たり次第揃えた。サクナヒメとモンハンを計100時間ぐらいプレイした。そしたら11月になっていた。
「波フェスで魯肉飯ブースを手伝う」が最初のミッションだった。上半期に「いいよ、いいよ」と二つ返事していたことだった。頼んだ側の728が割と沖縄と台湾の”交流”に自分の20代の時間とエネルギーを賭けているのは察していた。彼に任せすぎるのは無責任だと思っていたので、二つ返事だった。そもそも自分が何かにつけて沖縄と台湾の文化について吹聴している人間である以上、一緒にアートブックフェアをやった以上、他にも双方なんか色々あった以上は、である。しかしながら300人前って量ヤバくない?肉何キロ必要?ってかもしかしてウチで調理?追加で泊まる人もいるの?ナハウスもうないよ?みたいな身一つで受け止める不安も割とあった。実のところ波フェスの10日後には映画祭も控えているし、こりゃもうパンク確定だった。特に後者は主催側だしどれぐらい準備が足りてないのか前々からわかっていただけに気が重かった。映画祭はゲストに関していうと台湾だけでなく、ハワイ、ニューカレドニア、パナマ、香港、アメリカ本土からは確実に来る。インダストリーもいれるとさらに人と国が増える。アテンドは特に関与しなくていいのだが、会場やイベントの準備や手の回っていなさそうな穴を探しておくのが実質的な役割で、そもそもの担当業務は県内のメディア対応なので上映作品や来沖監督に”ついて”把握する必要もあった。ホテルコレクティブで会場設営予定の空きテナントを下見しながら、肉屋に三枚肉を20キロ注文した。

この状況から3週間で「心と身体は熱い」まで達した。魔法のような瞬間が訪れた。呪いも祝福も同時に唱えられる一瞬。もちろんこの熱意は単に情緒不安定なだけかもしれない。落ちてきたテトリミノは懐かしい形をしていた。19歳の頃の初期衝動と似ている。反転した碌でもなさ。

つづくよ

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