ハムスターを潰すバイト

シンプルに金欠で口座残高が3桁だった頃、少し親しい知り合いから持ちかけられたバイトがハムスターを潰すバイトだった。ハムスターが繁殖して増えすぎ、ケージを分けるにしてもハムスターの数に対してケージ代が追いつかず、引き取り先にも限度があり、ペットショップに売ろうにも全部雑種らしい。人のことを言えた立場ではないがその友人もだいぶ杜撰な性格で、「あんな増えるって知らなかったんだけど、あいつら今も近親相姦で増え続けてるんだよね、正直気持ち悪くてさ、周囲の人間全員にバイト先の後輩とかにも押し付けたけどまだ居るしほっとくと増えるし、殺すしか無いかなって、星新一のさ、星新一じゃ無いかもだけど、増えすぎた数を間引くってなんか人間を憎んでる魔王みたいとか、神みたいな、選民思想みたいな、わかんないけど、俺スプラッタ苦手だからさ、人に頼もうと思って、でもこういうのって俺が責任持って殺さんといけないんだろうな、そういう責任感が無いのがだめなのかな、なんかもう俺、死んだほうがいいのかなあ。」ラジオみたいに一方的に喋り続けたそいつは精神薬の錠剤を一粒シートから押し出して一息つき、黙った。そいつが黙ったせいでハムスターのガサゴソ動き回る音を妙に意識してしまう。何も考えていなかったのでカゴに手を突っ込んで一番最初に握ったハムスターを握りつぶした瞬間のぐにゃとした感触でやっぱり袋に入れて叩くとかにすればよかったと後悔した。でも長引けば後悔とか気持ち悪さとかに追いついてしまうんだろう。リズミカルにに作業的に終わらせたほうがいい。いち、に、さん、しっと、ごー、鼻歌のリズムに合わせて7匹のハムスターを潰す。「なんでハッピーバースデーなの」と知り合いがようやく口を開いた。俺の鼻歌についてらしい。特に何も考えてなかったけど、殺してるんだから確かに皮肉かもしれない。友人は「やっぱりハムスター残ってるの全部殺していいよ、また増えたらかわいそうだし。」と追加のオーダーをしたので俺はおっけーと答えて分けられていた親ハムスターのケージを開いた。子ハムは握られた瞬間ジタバタと逃げ回っていたけれど親ハムは最初はペットとして可愛がられていたせいだろうか、すんなりと手に乗って鼻をひくひくと動かしている。ぬいぐるみみたいな目で俺の顔を見つめているが、見つめているように見えるだけで実際ハムスターの視力では俺の顔は認識できないはずだ。ハムスターを握る、抵抗はしない。少しづつ拳に力を入れていく、一定以上握るとようやくハムスターはジタバタともがき出した。ぺき、ぱき、と骨格が歪む感触があってハムスターはぶるぶると痙攣を始める。そういえばハムスターにも爪があるらしい。ハムスターの手元にピントを合わせるが震えていてよく見えない。一気に加圧してぎゅっと握り潰すとぐにゃりとハムスターは動かなくなった。その頃にはハムスターの爪への興味も過ぎ去っていたので死体を袋に放り込む。カゴに手を入れ、最後の一匹を掴んだ。やはり人懐こい。ハムスターが俺の手に噛み付いた。「ぎゃ。」思わず拳を開いたが、ハムスターは顎の力だけで俺の手にがっちりと食いついている。歯が肉に刺さって血がダラダラと流れ、俺は叫びながら腕を振り回した。ハムスターは吹っ飛んで壁に叩きつけられ、ボトと床に落ちた。そのままヨロヨロと走り出し、友人が「あ、逃げる、逃げる。」と指をさし、俺は慌ててハムスターを踏み潰した。パキュ、グニョ、グチュ、みたいなトマトと卵の殻とおにぎりを同時に踏んだみたいな感触がした。俺は靴下を脱いでハムスターの死体の袋に入れ、ティッシュで床の汚れを拭き取った。「これさ、どうすればいい?」と友人に袋を見せると「外のゴミ捨て場に捨てといて」と言われた。報酬は9千円でハムスター一匹につき1000円だった。今日はスーパーで寿司でも買おうかな。スーパーの一角に小さなペットショップがあって、そのペットショップにはやっぱりハムスターが売られていた。価格が一匹890円で随分安かった。

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