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HELL地獄BAN(G)ディッツ‼ SideMenu:ジョブ・デビュー 4/4

前回



【5】

「兄貴が黙ってろって言っただろ!」
 スタチャーが過剰ともいえる反応を返した。先ほどコケにされたことが響いているのだろう。よくない兆候だ。

「ただ教えてあげただけじゃんね」と女。
「それはどうも。おい、ずらかるぞ」

 スタチャーは返事をしなかった。
 頭に血がのぼり俺の声が聞こえていない。
 女は拳銃を向けられているにもかかわらず、笑みを大きくした。

「ふーん、そんな細い腕で撃てるの? 安全装置は外した? そんな怖い顔してないで、帰ってママのおっぱいでも吸ってた方がいいんじゃないのー?」
「この野郎!」

 なんだこの女は。状況が分かっていないのか、それともデスプレジャー(被死快楽者)なのか?

 今にでも爆発しそうな弟分を無理やりにでもなだめようと一歩踏み出したとき、スタチャーの肩越しに女と目が合った。
 瞬間、警戒度が跳ね上がり、脳裏に警報が鳴り響いた。
 違う、こいつは──

「やめろ!」
 無意識に口をついて出たその言葉は誰に向けたものだったか。

「俺をなめんじゃ──」

 スタチャーの言葉は甲高い射撃音にかき消された。
 彼の頭の一部が吹き飛び、衝撃で割れた頭蓋骨が顔を出した。
 
 俺は歯を食いしばり、反射的に拳銃を女に向けようとするのを押さえた。
 俺の口から音にならないうめき声が漏れる。

 女の手には黒い大型拳銃が握られていた。
 いつどこから取り出したのかわからなかった。それほどの早業だった。
 ウェイトレスの頭から流れる曲はいまや甲高いサイレンのようになっている。
 
「ほら、だから言ったじゃんね。人の話はちゃんと聞かないと。ねぇ?」

  つまらなそうに死体を見ていた女の目が俺に向いた。
 俺が次にどの選択肢を選ぶのかを観察しているようだった。

「撤収!」

 俺はそれだけ言って、わき目も振らずスタチャーの死体を肩に担いだ。
 フィリは即座に扉を乱暴に蹴破り、ダッフルバッグに目もくれず逃げ出した。

 俺もフィリの後に続いてよろめきながらも店外へ脱出。
 撃たれることを覚悟していたが、幸運なことに銃弾は飛んでこなかった。

 周囲の人々の驚きと好奇の視線を浴びながらも全力で車へ向かった。
 すでにフィリが運転席でエンジンを回して待機していた。
 俺が後部座席に飛び込むと、間髪入れず急発進した。
 俺は今にも爆発しそう心臓を手で押さえた。

 【6】

 郊外は打って変わってのどかで、カーラジオから流れる落ち着いたジャズが眠気を誘う。

 スタチャーはしばらくすると目を覚ました。
 被害が頭の一部だけだったので生き返るまでは早かったが、目を覚ますのが遅かったのは精神的ショックが大きかったのだろう。
 最初何が起きたのか理解できていないようだったが、俺たちの様子を見て悟ったようで、うなだれて涙をこらえている様子だった。
 初めての死(ワンナウト)だったろう。それに初めての仕事でドジったのだ。ショックは大きいはずだ。

「まあ、これも仕事だ。いい経験ができたと考えるんだな」
 俺はスタチャーの肩を軽くたたいて言った。
「単にツキがなかっただけ……いや、運がよかったんだ。あんなヤバい奴がいたのに誰もスリーアウトしなかった。俺たちの世界ではそれは大失敗ではない」
「だけどよぅ……」

 スタチャーは、腕に刻まれた3つの髑髏タトゥーの内一つに付けられた赤いバツ印を指でなぞっている。俺はスタチャーの肩を軽くたたいた。

「お前はまだ若く、人生は長い。ゆっくりといろんな経験の積んで慣れていけばいい。俺もフィリもまだ学んでる最中だ」
「兄貴たちも?」
「そらそうだ。なぁ?」
 運転席でフィルが同意するようにうなずいた。
「だからそう落ち込むな。ゆっくりやってけばいい。ま、次の仕事はもう少し大きくなってからだな」
「……わかった。俺、もっと強くなるよ。それで兄貴たちの足手まといにならなくなったら、また一緒に仕事してくれるかい?」
「もちろん」
「よかった。見捨てられるかと思った」

 夕日が水平線に半分沈み、代わりに赤い月が顔を出し始めた。
 道路の脇をヘル牛の集団が列をなして歩いている。
 ラジオから流れるジャズの旋律にスタチャーの寝息が混ざりあった。

HELL地獄バンディッツ‼‼ side story:ジョブ・デビュー 完

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