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ぴ~すふる その2

前回のあらすじ(と物語の始まり)
どこかにある世界が何らかの理由でピンチになっている。
一方、主人公のタローと超凄腕情報屋美少女のユッキーちゃんは、真夏の日差しにやられないようにちゃんとパラソルの下にいたんだ。賢いね!

次へ行っちゃう

=>[トメバアの駄菓子屋(旧矢玉商店)]

 街と森の境目に、トメバアが経営している駄菓子屋はあった。
 ここはその名の通りトメバアが営んでいる駄菓子屋。歴史は長く店も古い。
【矢玉商店】と書かれたボロボロの看板が入り口の上に飾ってあるのだが、今は右に30度傾いていて、いつ落ちてもおかしくない。

 タローが駄菓子屋を訪れた時、ひさしの下で少年少女たちがだべっていた。内訳は男の子ふたりに女の子ひとり。

「うーっす」
 タローが少年少女たちに声をかけた。
 赤いベースボールキャップをかぶった少年が振り返り、タローを見ると眉をひそめた。
「うわっ、どうしたのタローくん。全身ビシャビシャじゃん。もしかして服のまま海で泳いできたの?」
「これ? 全部汗」
 タローが服を軽く絞ると、バケツをボタボタボタと汗が滴り落ち、地面に水たまりをつくる。ボタボタボタ。
「やべー」ペイズリー柄のバンダナを頭に巻いた少年が言った。
 そう、タローは気づいていないが脱水症状一歩手前だ。

「さーて、サイダーが俺を待ってるぜ」
 あらかた汗を絞たタローは店内に入って飲料コーナー直行。ボックスから赤と青の星が描かれているビンのサイダーを二本取り出した。丁度200イェン也。

「オババ、お金ここに置いとくよ」

 カウンターの前で居眠りをしているトメバアにひと声かけて小銭二枚を、傷だらけで落書きだらけの机に置いた。

「まいど」と、トメバアはまぶたを僅かだけひらけ、ゆっくりと小銭をとってレジスターにしまった。

「なんだ、起きてたの」
「いいや、寝ているよ。むにゃむにゃ」
「そっか。こんなところで寝てると熱中症で死んじまうぜ」
「心配してくれてありがとさん。ほら、これはオマケ」

 トメバアはどこかから、透明なビニールに包まれた飴を取り出してタローに差し出した。傍目からでも飴が溶けてビニールにひっついているのがわかる。

「わたしゃ片足を棺桶に突っ込んでるからね、ドオってことないのさ」
「オババが言うと笑えねーぜ」
 タローは溶けかけの飴をポケットにしまって踵を返した。

 入り口脇のゴミ箱にビンの蓋を捨ててその場で飲む。
 タローの体内に砂糖と塩と炭酸が混ざった水分が入る。
 そのまま喉を鳴らして二口、三口……。

「かっはっ! たまんねえなぁおい!」

 あっという間に空になったビンをカウンターの上に置いた。ドン。

「もっと静かに置きな」
「次から気をつけるよ。それよりビン代返してくんろ」
「はいはい。ほらよ」
 とトメバアが5イェンをテーブルに置く。
 トメバアの駄菓子屋ではデポジット制度を採用しているのだ。
「せんきゅー」

 タローは二本目のサイダーに口をつけながら外にでて、ひさしの下でだべっている少年少女たちの輪に加わる。

「で、調子どう?」とタローは言った。
「ぼちぼちかな」とキャップ少年。
「こう暑いと何もやる気おきないよ」バンダナ少年が首筋の汗を拭った。
「ね」目が隠れるように狐のお面をつけた少女が同意した。
 タローは「そうだよなあ」と言って、サイダーを煽る。

 タローの視線の先には、この街の子供達が通っている木製の学び舎がある。今は夏休みなので子供達の姿はなく、小さな校庭で用務員のおじいさんが、のんびりと草を刈っているだけだ。
 まあ、大抵の子どもたちは隣町の学校へ行っているので元より静かではあるのだが。

「そういやさ、バース以外にも世界があるって話、誰か知ってる?」
 空になったビンを捨てて戻ってきたタローが何気なく訊いた。

「どゆこと?」と、バンダナ少年が聞き返した。
「いや、俺もよくわからねーんだけど、なんかどっかにバースに似てるけど違う場所があるとかなんとか」
「哲学?」と、狐面少女が言った。
「創作かも」と、バンダナ少年。
「まあ、知らねーよな。これ、ユキコが鼻息荒くして言ってたんだけどよ」
「なら十中八九与太話じゃん」
 キャップ少年がそう言うと、他の二人も同意するようにうなずいた。
「だよなー。全くあいつはトンチキすぎてついていけないぜ……あっこれ、食う?」

 タローはフーセンガムを購入をみんなに見せる。一つ10イェン。
 味が長持ちしてよく膨らむと子どもたちの間で評判だ。
 少年少女たちは各々お礼を言ってガムを受け取る。
 四人がガムを噛む音と蝉の声が不思議なハーモニーを奏でた。
 クッチャミーンクッチャミーン……。
 草刈りを終えた用務員のおじいさんが学び舎の中に入っていった。

「あっ、そう言えば博士がタローくんのこと探してたよ」

 狐面の少女が何気なくそう言うと、タローが少女の方を向いた。
 その目には期待の色がにじみ出ていた。おめめ超キラキラ。

「えっ、マジ? なんか言ってた?」
「うん、なんでも例のものが出来たとか」
「まじかよ! うっひょー! こりゃぁ、こんなところでオチオチしちゃいられねーぜぃ! じゃあなお前ら!」

 そう言ったかと思うと、土煙が上げるほどの速度で土道をかけていったタロー。汗で虹が作られる。
 残された三人はあっけにとられてお口開けてぽかーん。

「タローくんどうしたんかな?」
「さぁ?」
「タローくん、ユッキーちゃんのことああ言うけど、割と似た所あるよね」
「わかる」「わかる」
「相変わらず騒がしい子だね」
「あっ、おはようございます、トメさん」

 バンダナ少年が軽く会釈をする。トメバアは木刀を杖代わりにしていた。
 木刀には『万引は重罪』と書かれている。柄には数多のキルマーク。

「おはようさん。挨拶できる良い子にはこれをあげようね」
 そう言って差し出されたのは、先程タローに渡したものと同じ飴。
 もちろん溶けかけ。
「あっ、大丈夫です。間に合ってますんで」
「なんだと? クソ生意気なガキだね。今度からあんたには三割増しで売ってやるよ」
「やべー」


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