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心の中のパブ

心の片隅にあるそこは
サルーンやバーとも呼ばれたりする
が大抵は
パブ
と呼ばれている

そのパブは
西部劇に出てくるように
今にも落ちてしまいそうな
看板にはただ
パブ
とだけ

年季の入った傷だらけの
扉をくぐると音の波が
身体をさらう

奥のジュークボックスから
ジャズやカントリーやチルポップが
控えめに

曲に台無しにしてしまおうと
するかように
客たちの話し声がやかましい

その隙間を埋めるように
ガサゴソと様々な
椅子を引いたりジョッキを叩きつけたりするような

パブはいつも
そこそこ賑わっていて
客の顔ぶれが多彩だ

カウンターの端に座っている
カウボーイは一人で黙々と
黄金色のビールを喉に流し込んでいる

褐色の肌を持つ妙齢の女性は
言い寄ってくるゴロツキを
全く相手にせず
タバコの吸い口には赤い口紅の跡

ポンチョを着た三人組は
鋭いナイフの刺さったテーブルの
上にカードと硬貨で
熱い駆け引き

そして
カウンターの奥では
いかめしい顔をした
大柄で禿頭のマスターが
黙々と
ビールジョッキを拭いているのだ

なんと素晴らしい
居心地の良い
場所なのだろうか

しかし私が
パブ
またはバーまたはサルーン
で黄金色のビールを飲むことは
できない
少なくとも
今はまだ

いつか
いかめしい顔をした
大柄で禿頭のマスターに
黄金色のビール
を注いでもらう日を夢見て
今日もまた

心の片隅にそれはあるそこは
サルーンやバーとも呼ばれたりする
が大抵は

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