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HELL地獄BAN(G)ディッツ‼ 9

【5-7.5 ティーレップ】

 二人組のアホウがポチとヤり始めてからそれなりの時間が経過した。そろそろポチに食われて消化されているだろう。そうでなければこの階に飛び込んできているはずだ。

 様子を確認するためディスプレイに監視カメラの映像を映そうとすると、倉庫の監視カメラのが全てブラックアウトしていた。

 ふん、まあいいさ。俺はギャングのボスらしく堂々とデスクの裏で座って余裕を見せていればいい。この部屋のものはすべて防弾防刃仕様なうえ、デスクの前方には透明なヘル強化ガラスが備え付けられている。重機関銃ですら脅威にならない。

 さらに部屋のいたるところにトラップを仕掛けてある。デスクの引き出しから電子パッドを取り出し、扉に仕掛けられている対人レーザー他全てのトラップが問題なく作動していることを確認して満足感を得た。

 修復の段取りを考えるために監視カメラの映像を見て回っていると、4階事務所内でサボテン野郎の姿を見つけた。周囲をキョロキョロと見渡しながらのんびりと歩いている。
 なるほど、こいつはシッポを巻いて逃げ出すことにしたか。それならそれでいいだろう。もっとも、許すわけではないがな。いずれとっ捕まえて、拷問にかけるか、デスゲームに強制参加させてやろう。

 そんなことを考えていると、監視カメラ越しにサボテン野郎と目が合った。野郎は机や棚を慎重に避けてカメラの目の前にきた。そして、こちらに手を伸ばし──またしても監視カメラの一つが破壊された。クソッ。

 【5-7.5 サボテン】

 ンンロにいわれた通りに4階事務所の監視カメラをすべて破壊してから3階ゲームセンターまで戻った。作業着の人達はもう仕事を終えて帰ったらしく、パチンコ台の電源も切られており、不気味な静けさだけが残っていた。

 まず部屋の安全を確かめ、4階事務所と同じように天井を確認すると、2台の監視カメラが隠されていた。注視しないと気が付かない程度の大きさで、ンンロはよく気付けたなあと感心させられる。

 慎重に監視カメラを破壊してから、ヘルボムの箱があるところへ向かった。箱はスーパーマーケットのカゴ程度の大きさで、中に黒光りするヘルボムが詰まっている。このヘルボムはこぶし大の小ささで、爆発の範囲は狭いが威力はそこそこ高く、ピンポイントに一か所を破壊するのに適しているらしい。とはいえこれだけの量が一斉に爆破すればどうなるか。想像もしたくないけど。

 箱ごと持ち上げてみると僕でも問題なく運べる程度に軽く、これなら往復しないで済みそうだと思った。その分、万が一手元で爆発したら塵も残らないだろう。ツーっと冷汗が流れる。

 ヘルボムいっぱいの箱を抱えて、カメのような速度で倉庫に戻ると、ンンロはまだ倒れているポチの腹の上で寝ころんで鼻歌なんかを歌っていた。

 僕が声をかけると、ンンロはだるそうに降りてきた。手には酒瓶が握られていた。

「お疲れ。上出来じゃん」
「監視カメラも壊してきたよ」
「おっけーおっけー。後はあたしがやるから休憩してていーよ。でも、あたしが合図だしたら外に逃げてね」

 ンンロはごくごくと酒瓶を一気に飲み干してから、ヘルボムの入った箱を雑に持って階段を上がっていった。やはりとんでもないこと企んでるようだ。

【5-7.7 ティーレップ】

 たった二人に破壊されたビル内の修理費はかなりの損失になりそうだ。痛み止めを口の中で噛み砕き、痛む頭を揉む。
サボテン野郎は逃げ出していったが、ジャリガキの姿はどの監視カメラにも映らなかった。
やはりスリーアウトしたのだろう。それか、うまく隠れて逃げ出したか……それとも、しびれを切らした俺が出ていくのを待ち構えているのか。だとしたらその作戦は失敗に終わる。

 なぜなら俺は完全武装のセキュリティサービスと契約しているからだ。
 日が変わるころにやってくる殺し屋たちと入れ替わりで俺は隠しエレベーターを使い素知らぬ顔で帰るだけ。

 さらにはセキュリティが来るとビルにシャッターが下るため、出入りはナイトクラブ入口からしかできなくなる。侵入者はこのビルを脱出するために完全武装のセキュリティとヤりあわなければならなくなるのだ。

 時計を見ると夜に差し掛かっていた。 しばらくはナイトクラブが開けないのは手痛い損失だ。明日朝一でヘルデパートに連絡するのを忘れないように

 自動小銃を机に置いて、引き出しからテキーラとグラスを取り出す。グラス半分に注ぎ、じっくりと味わう。程よく肩から力が抜ける。

 椅子に深く座り、足をテーブルに投げ出す。靴の先が透明防弾ガラスに触れた。

 グラスを口につけたその時、小さな揺れを感じた。 

  なんだ?

 ゆっくり机から足をおろした次の瞬間、階下で爆発音が鳴り響き、オフィスの床が割れたクラッカーのように崩れはじめた。

 俺は無防備なまま不快な浮遊感を感じた。

 そして────

【5-7.7 ンンロ】

 クソ野郎の親玉はたいてい高いところか奥深くを好む。だからティー・レップの野郎も部屋の奥にいるはず。もし外れても大した問題ではない。一発かませるだけでもやる価値はある。

 天井の片方半分に万遍なく全てのヘルボムを付けるのにたいして時間はかからない。ヘルボムを投げて狙い通りの場所に引っ付けるのはコツを掴めば簡単。チカチカとヘルボムの赤いランプが星みたいに点滅。

 左手の手すり越しに下で眠っているポチの位置を確認。跳ぶ角度と爆発後の動きを頭の中でイメージする。ポチの柔らかさは先ほど確認した。完璧。

 サボテンに見えるように大きく手を振ると、あたしの言ったとおりに外に出ていった。もう2アウトだから死なせないように気を付けないと。 

 酒精を胸に集めるイメージ。ゾワゾワと鳥肌が立つ。吐きそうになる感覚がいつもムカつく。ティー・レップに全部ぶつけてやる。

 必要な速度を稼ぐために足場を走る。カンカンと甲高い音とギシギシと擦れる音。速度が程よく乗ったタイミングで右壁を蹴って反動で左に跳び、手すりの上辺を通り越すときに蹴りつけ、勢いをつけて宙に身体を投げ出す。狙いはヘルボムを貼った方の天井の中心。

  角度と高さは完璧。 酒精を込めたエネルギーを全身にいきわたらせる。辛い物を食べたときみたいに身体が熱くなる。酔っぱらった感じとテンションが上がる感じがあふれ出そうになるのをこらえる。周囲の速度が鈍くなる。

 3……2……1……

「Hell Yeahー」

 爆発の衝撃を受けて、ヘルボムが爆発。破壊された天井から色々な物が落ちてくる。

 あたしも脱力状態のままポチの腹めがけて落ちる。破片につぶされなければいいけど。
 死んだら機転を利かせて上手くやってよね相棒。

つづく

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