内田篤人とシャルケの幸せな時間

一人のフットボーラーがまたピッチを去る。

内田篤人、その名前を知らない人はいだないだろう。2014年に負った、膝蓋腱の怪我でその後の選手生命を大きく左右され、ベストパフォーマンスを取り戻せぬまま、現役を退くことになった。

どんな選手にも全盛期というものがあり、内田のそれはシャルケ在籍時だったことは間違いない。一方、シャルケにとっても近年では内田が在籍した期間、チーム自体が輝いていた。前線にはラウルとフンテラールがいたし、中盤にはフラドがいた。デニス・アオゴやジョーンズといった派手ではないが実力のある選手がいれば、ドラクスラーにマイヤーにゴレツカ。さらにはサネといった才能あふれる若手だっていた。ちょっと問題があったが、ケヴィン・プリンス・ボアテングだって活躍していた。DFではヘヴェテスは絶対だったし、マティプやコラシナツがいてノイアーが構えていた。ノイアーなき後は、フェアマンが素晴らしいパフォーマンスを見せていた。各国の代表クラスが勢ぞろいし、バイエルンの次に強いクラブでありほぼ毎年CLに出る、そんなチームに内田はいたのだ。

内田はシャルケを退団し、ウニオン・ベルリンに移籍。さらにその半年後に鹿島に戻ってから、なかなか以前のようなパフォーマンスを披露することは難しくなっていた。前例のない怪我であったそうだし、プロのピッチに戻れていること自体がすごいことなのかもしれない。けれど、随所に凄みを感じさせるものの、日本中のサッカーファンが期待したかつての内田には戻れなかったようで、時を同じくしてそれはシャルケも同じだった。

内田が退団する契機となったのはドメニコ・テデスコの就任だ。その初年度こそ2位でシーズンを終え輝きを取り戻したかに見えたが、翌年は下降線でELの出場権さえ逃す始末。19/20シーズンはワーグナーの下で再生したかと思いきや、主力の相次ぐ離脱もあり後半戦の勝利は片手で数えられる程度。コロナの中断で悪い流れを断ち切ったかと期待するも、再開初戦のダービーで散々な試合を披露し、結局なにもかも崩壊したままシーズンは終了し、同じ監督のまま新シーズンを迎えるのだ。当然ELにさえ出れない。あの頃は、ミッドウィークにヨーロッパの大会に出ることが当たり前だったシャルケがだ。

内田の引退のニュースを見て、多くのシャルケファンは思ったのではないだろうか。あの頃が一番良かった、と。

個人的に内田篤人は大好きな選手だ。著書も何度も読んだし、自分の考えに通ずるものがいくつもあり、ただカッコイイだけではなく、真に内側からかっこいいのだと思ったほどだ。なにも考えていないようで、実はすごい考えている。常にチームを勝たせる選手でありたいという強い思いや、線引きを曖昧にしないこと。自分の言葉で伝えようとする姿勢や、決して言い訳をしないところ。ブラジルワールドカップ予選のアウェイオーストラリア戦、厳しい判定でPKを取られた時、審判が厳しいという声もあったなか、「審判がPKといったらPKなんで。俺の責任っす。」とさらっと言ったのがとても印象的だ。鹿島というクラブが難しい状況にある今、試合に出て貢献することができず、言い訳もできないような状況になってしまったのではないかと案じてしまうが、これはもう当人たちにしかわからないし、敢えて知らせる必要もないと思うが、やはりもっと内田篤人を見たかったというのはこちら側の本音ではないだろうか。そうはいっても選手としての内田篤人は終わりになってしまう。なので、これまでの本当にお疲れ様でしたと言いたい。様々の実績を考慮しても。日本人NO.1は本田でも香川でもなく内田だと思っている。

さて、選手は終わってしまうけれどチームを続いていく。今シーズンのシャルケは一体どうなるのだろうか。財政的にも非常にまずいということで、州から48億円の援助を受けるらしい。さらになんとか新規のスポンサーを見つけ、サネとインスアの移籍で多少の収入は得たようだが、殆ど補強はできないし、カリジウリは放出せざるを得なかった。また、ブンデス初のサラリーキャップ制度を導入した模様。このようなことから、これまでのようにCL常連のチームにはきっと戻れない。けれど、昨シーズンの前半戦のような戦いぶりが披露できれば、もしかしたらということがあるかもしれない。それには、スタンブリ、アリ、セルダルらの年間を通しての稼働が必須条件となってくるし、レンタル復帰組のウートやルディの活躍も欠かせない。問題児ベンタレブも復帰するようでなにも問題を起こさないといいが。また、マッケニーやカバクといった若く才能ある選手には引き抜きの噂が絶えないが、ひとまず今夏は残留するようだ。こういった選手達を引き留めるためにも、CLに出なくてはならない。内田が日本人最多出場記録を保持してるのは、毎年CLに出場したからだ。もっと言えば、ほぼ毎年ベスト16までは駒を進めていたからだ。

そんなチームに戻れることを願って、今年はスカパーに888円月額で払おうと思っている。Wir leben dich.

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