便秘を考える

便秘とは「排便の回数または排便量の少ない状態」をいいます。

食べたものは腸の中を通るときに大半の水分が吸収され、残りカスが適度な硬さの便として排出されます。目指すのはバナナ状のウンチです。
便が腸の中に長くとどまっていると水分が過剰に吸収され、便が硬くなります。目安としては週に3回未満の排便回数だと便秘が疑われます。毎日排便があっても、排便する時に痛みがあったり、スッキリと排便できない場合は便秘の可能性がありますので注意してください。

小児の便秘には少ないながら何らかの原因があっておきることもあります。
その原因となる病気には、

体のつくりの異常(鎖肛など)
ホルモンの異常(甲状腺機能低下症など)
脊髄神経の異常(二分脊椎、髄膜瘤など)
腸の神経の異常(ヒルシュスプルング病など)
おなかの筋肉の異常(腹壁破裂、ダウン症候群など)
常用の薬(抗痙攣剤,麻薬など)
精神発達の遅延、精神的なものなど

があります。これらの診断のためには,まず詳しい病歴の聴取が必要です。そして肛門の周囲をみたり、おなかを触ったり肛門から指を入れて直腸を触れて便があるかなどを調べます。おなかのレントゲン検査で大腸の構造、大腸ガスや便の貯まり具合などをみます。さらに必要であれば、腸の造影検査や直腸肛門内圧検査などを行うこともあります。ま、いきなりここまで検査することはないでしょうが。
これらの検査によってヒルシュスプルング病、鎖肛(直腸肛門奇形)、二分脊椎など手術が有効であると診断された場合にはその病気や状態に応じた適切な手術を行う必要があります。ものものしいですね。

しかし便秘の大部分は、結腸が長い、腸の動きが悪い、腸の水分の吸収が少ないなど原因としてあげることはできても特定はできない、いわゆる特発性のものが多いのです。

便秘の解消には生活習慣の改善が必要です。規則正しい生活、食事を心がけるようにしましょう。具体的には、十分な睡眠・早寝早起きを心がけましょう。また朝食後に少しでいいのでトイレに座る時間を作ってみましょう。
食事はバランスのとれた食事、ウンチの素が不足しないように量もしっかり摂ることが大事です。無理に嫌いなものを食べさせる必要はありません。楽しく美味しく食べることから始めてみましょう。食物繊維の中でも水溶性の食物繊維はウンチの素となります。人間の消化酵素で分解されないため、ウンチの素になるのです。
また食物繊維は乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌を増やす効果があると考えられています。
水溶性食物繊維が多く含まれる食品としては、ライ麦、オートミール、切り干し大根、ごぼう、干し椎茸、干しイチジク、干しプルーン、インゲン豆、ひきわり納豆、ごま、海藻類などがあります。
嫌いな野菜サラダを食べなくてもリンゴやミカンなどの果物やブランが入っている市販シリアルなどからも食物繊維を摂ることができます。お菓子ばかり食べるお子さんにはおやつを果物やおにぎり、イモ類などに変更してみましょう。

小児では2~3日以上排便がなければ治療を受けたほうがよいでしょう。
治療の目標は腸に貯まった便をなくして1~2日に1度の排便が続くようにすることです。便のかたまりが貯まっているときはまず直腸に貯まっている便を出します。そのためにまず浣腸や洗腸、それでも排便が認められない場合は摘便を行います。同時に薬を服用して毎日排便できるようにします。便秘の習慣が出来上がっている患児は排便時の痛みを覚えているため、せっかく便意をもよおしても我慢してしまうことがあります。硬い便になってしまう前に排便させる。排便は痛くないんだ、と覚えるまで軟らかい水分をしっかり含んだ便ができるようにしてあげることが重要です。こうした排便の習慣ができるまで時間がかかることも多いので副作用の少ない薬が必要です。

薬の種類とのみ方

1.浸透圧性下剤
◆塩類下剤:酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム
器質性便秘、機能性便秘、食中毒、薬物中毒などの際の腸内有害物質の排除に使われます。水溶性無機塩類は、腸管から吸収されにくいため、浸透圧作用により腸管からの水分を吸収・保留し、腸内内容物を液状にするとともに腸の運動を促進します。大量の水とともに服用すると効果的で、内服後1~2時間で効果が現れ始め、習慣性が少なく、長期間の使用も可能です。ただし腎障害がある場合は高マグネシウム血症を起こしやすいので注意が必要です。副作用として、悪心、食欲不振、また長期服用により高マグネシウム血症を起こすと、だるさや力が抜けたような感じが起こることがあります。 

◆膨脹性下剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)
直腸性便秘、弛緩性便秘、痔疾患患者に使われます。腸管内で水分を吸収して膨脹して内容物を増大して、大腸に刺激を与えて排便を起こさせる仕組みです。内服してから12~24時間以内に効果が現れ、2~3日服用を続けると最も効果が現れます。そのため規則正しい排便ができるまでは、服用し続けることが必要があります。消化管での吸収がなく、習慣性もないので長期投与も可能です。また、便は軟便になって排泄されるため、排便時の痛みが少ないため痔の人にも使用できるところがメリットです。腸狭窄、重症の硬結便の人には使ってはいけません。副作用として、悪心、嘔吐、腹部膨満感などがみられることがあります。

◆糖類下剤:ラクツロース、D-ソルビトール
非吸収性の糖類を服用することで、浸透圧作用の下痢を起こさせ、非吸収糖が腸内細菌によって変化をうけてガスが生じ、便を酸性化させます。

◆浸潤性下剤:ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DDS)・カサンスラノール
直腸性便秘、弛緩性便秘、痔疾患患者に使われ、ジオクチルジソジウムスルホサクシネートの界面活性作用により、便の表面張力を低下させ水分を浸潤しやすくし、便を軟らかくします。さらに配合されたカサンスラノールの腸蠕動運動亢進作用により排便を起こさせます。1日1回、就寝前に大量の水とともに服用すれば、翌朝には無理なく排便ができます。腸狭窄、重症の硬結便の人、授乳中の婦人には禁忌です。副作用として、口の渇き、悪心、腹痛、腹部不快感、腹部膨満感、お腹が鳴るなどの症状が起こることがあります。また、発疹、じんま疹などの過敏症状が現れたら、すぐに中止して医師に申し出て下さい。服用中、尿が黄褐色~赤色になることがあります。

2.刺激性下剤
腸壁を刺激して腸の弱った運動を活発にさせて排便を起こさせます。作用は比較的強いのですが、習慣性があり長期に用いると耐性が現れ、増量しないと効かなくなるので短期間の使用に限ります。けいれん性便秘に使用するのは望ましくありません。

◆小腸刺激剤:ヒマシ油
小腸でリシノール酸とグリセリンに分解され、その刺激により小腸の運動を活発にして、服用後2時間ほどで効果がみられます。そのため、食中毒、急性腸炎など早く体外から出したいときに使われる。けいれん性便秘、急性虫垂炎、腹膜炎の患者には禁忌です。また、骨盤内の充血を起こすので、月経時、妊娠時に使用すると大量出血をする危険性があるので同様に禁忌です。副作用として、発疹などの過敏症状、悪心、嘔吐、腹痛などが起きることがあり、連用すると栄養の吸収を阻害して栄養不良を起こすことがあります。

◆大腸刺激剤:
大腸粘膜を刺激して運動を起こさせ、排便を容易にします。服用後6~15時間かかって排便させるため、就寝前に服用します。連用により刺激性が低下し、増量が必要となるが、他の下剤との併用により長期投与が可能となります。主に直腸性便秘、弛緩性便秘に使われます。

●アントラキノン誘導体・・・ダイオウ、センナ、アロエ
生薬に含有されている配糖体が、大腸を刺激して、蠕動を高め排便を促します。連用すると耐性が増し、薬に頼りがちになるので長期投与は避けましょう。急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、月経時、妊娠時、授乳婦、痔疾患のある場合は使用を避けます。また、アロエにおいては、妊娠中の投与により胎児が脱糞して、子宮内を汚染するので禁忌です。服用中、尿が褐色~赤色になることがあります。

●ジフェニール誘導体・・・ピコスルファートナトリウム
症状に応じて服用量を調節できる液剤があり、習慣性が少なく妊婦や胎児への安全性がほぼ確立されています。

◆直腸刺激剤(坐薬):
●ビサコジル坐薬・・・直腸粘膜を直接刺激し、排便反射を起こします。急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、月経時、妊娠時、授乳婦、痔疾患のある場合は使用を避けましょう。

●炭酸水素ナトリウム配合坐薬・・・肛門から挿入後、体温で温められて、直腸内で炭酸ガスを徐々に発生しその刺激で排便を起こさせます。副作用として、軽度の刺激感、下腹部の痛みやまだ便が残っているよに感じることがあります。

3.その他
◆副交感神経刺激剤:臭化ネオスチグミン
消化管機能低下による弛緩性便秘に使われます。

◆浣腸剤:グリセリン、薬用石鹸
腸管壁の水分を吸収することにより、局所を刺激し、便を軟らかく、潤滑化することによって排便を促進します。弛緩性便秘、直腸性便秘に使われ、直腸粘膜が刺激され、また習慣性になるのでできるだけ連用は避けた方が良いでしょう。妊婦には使用しません。

近年では、クロライドチャネルアクティベーターであるルビプロストン(アミティーザ)や、グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニストの上皮機能変容薬リナクロチド(リンゼス)、さらに胆汁酸トランスポーター阻害薬エロビキシバット(グーフィス)など新しい機序の薬剤が使用可能となり、格段に選択肢が増えてきました。そして2018年9月21日、慢性便秘症治療薬モビコール配合内用剤の製造販売が承認されました。
モビコールは、浸透圧性下剤ポリエチレングリコール(PEG)に塩化ナトリウムなどの電解質を含有した製剤であり、小児(2歳以上)及び成人に使用可能な慢性便秘症治療薬です。PEGのマクロゴール4000が、浸透圧によって腸管内への水分貯留を促進し、便中水分量と便容積を増加させることで便秘症状を改善させます。さらに、配合された電解質が腸内の電解質バランスを維持し、便中の浸透圧を適正なレベルに保持してくれるのです。

 欧米のガイドラインで慢性便秘症治療薬として推奨されているPEG製剤は、日本では腸管洗浄剤としては使用されているものの、慢性便秘症の適応のある薬剤がありませんでした。こうした背景から、日本小児栄養消化器肝臓学会から早期開発の要望書が提出されており、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において医療上の必要性が高い薬剤として評価され、その後開発が進んだことで今回の承認に至ったようです。

国内のガイドラインでは、小児に対しては浸透圧性下剤から治療を開始することが原則とされており、十分な効果が得られない場合には大腸刺激性下剤を併用することとなっています。ここにPEGが加わることで治療のバリエーションが増えてくることを期待しています。

子供の便秘治療は多くの場合、6ヶ月から2〜3年は続けることになります。一時的には良くなったように見えても再発することが多いので、中止や減量する場合は必ず医師の指示を受けるようにしてください。

#便秘


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