渡司
「静寂たる」とは、かような様(さま)をいうのかと思える、そんな夜であった。 満天の星空に淀み無く、散りばめられた星の光が、そのままの細やかさで大地に突き刺さってくる。 月は、あと三日ほどでようやく満月となるだろうか。 朱色の柱、黒曜の彫刻、乳白の壁、濃緑の木の葉、深碧の衣……それら全てが、月光星光の中に、ただ単色に淡く浮かび上がる。 万物の影は闇に溶け込み、暗黒の中に物々の輪郭だけが線を引いていた。 ──時は、戦国。 周が国都を鎬京から洛邑に東遷し、い