楽しい、伝心 ふまねっと

「やだな、またこの天井だ。」なんてくだらないことを考えながら目覚ましを止める。やだななんて言いながら、寝起きからこんなこと思いつくのは目覚めがいい。あの少年とはまるで正反対な感情である。そんなある平日の朝8時半。私はこれからある活動に参加させてもらう。

その活動は、「ふまねっと運動」という活動である。どのような活動を行うのかとても楽しみだが、その前にすることがある。その運動の中で使うネットを新聞で作らなければならない。「踏まねえ」と「ネット」を組み合わせてふまねっとなのか否かについて自分の心で論争を起こしながら、溜めておいた新聞を持ってきて、作り方動画を開く。

女性が優しい口調で丁寧に説明しながら、着々とネットを作っていく中で、あることを思った。「あれ、床足りなくね?」。机、ベット、棚、ハンガーフックに囲まれた部屋に、ネットを敷くスペースはなかった。そして、四角を一個作ったところで手を止め、動画を閉じた。

そんな昨夜の悲しい記憶を思い出しながら顔を洗い、部屋に戻る。まもなく活動が始まる時間だ。

新型コロナウイルスの影響で、ZOOMを使ってのオンライン教室である。床にネットをひけないため、見学という形で参加する。運動のオンライン教室ということは、きっと講師の人が淡々と進めていくのだろうと思いながらZOOMのURLをクリックした。

すぐに画面が変わった。先生が一人画面にいた。思った通りだ。そう思いながら画面を見ていたら突然、小林隆介がすけすけになった。と同時に画面が一気に鮮やかになった。そして驚いてる間もなく先生が話し始めた。先生の名はみっちゃん。みっちゃんが注意事項を話す。それが終わると自己紹介が始まった。久しぶりに参加の「ひろちゃん」、今日も頑張る「まーちゃん」、お手本のようなあいさつ「かっちゃん」、楽しむ「ゆりちゃん」、夫婦で参加の「よっちゃんむっち~」。それぞれ違うことを言っていたが、全員がとても元気で明るく、本当に楽しそうにしていた。画面を見ている自分に楽しさが移ってくるくらいだった。

自己紹介が終わると、準備運動が始まった。10分ほど、ゆっくりと時間をかけて、映像を見ながら行う。準備運動でまだ寝ている体をしっかりと起こし終えると、ネットを使った運動が始まった。

前に1マスずつ、ジグザグに、手拍子をつけてみたりと、様々な動きが行われている中でも、やはり楽しんでいるのが伝わってくる。「かっちゃん」は手を横に振り歩き、「よっちゃんむっち~」はハイタッチをしていた。二回に一回見える「まあちゃん」の背中からも、二回に一回画面外で見えない「ひろちゃん」からすらも、楽しいという気持ちがあふれ出ていた。

運動が終わり、最後にカメラをオンにしている方々が一言ずつ話しているとき、顔をよく見ることができた。朝の9時から運動していたとは思えないほど、はち切れんばかりの笑顔であった。それも、何人かだけではなく、話している方、講師の方まで、全員が笑顔だった。

「ふまねっと運動」というものは、運動をして体を健康にしようというものであると考えていた。しかし、実際に活動をみると、そうではなかった。運動をして、それを分かち合って、みんなで楽しむことによって、体の底から心身ともに健康になることができるものであった。そして、自分に楽しい気持ちが移ってきたように、ここで作られた「楽しい」という感情は、参加者から様々な場所に伝心する。そこまでが、この活動が持つ力なのだと感じた。そして、しっかりと「楽しい」を伝心してもらった私は、気持ちよく次の授業の準備を始めた。(小林 隆介)

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