スズメの事ム所 ご近所のドタバタ感が最高です


読者による文学賞の二次選考 レビュー7冊目です

今回7冊目の本はこちらになります。

スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち
文藝春秋社 2019年7月15日 第1刷発行
朱川湊人(しゅかわ みなと)

この表紙。。。
幼少期に、学校の図書館で怪人20面相だの、ルパンだの、夢中でむさぼり読んだことがあるのであれば、今すぐこの作品を読んだほうがいいですよ。子供の頃に図書館で読みふけって、いつの間にか外も薄暗くなって、慌てて家路につく。いやー、あの頃の読書は楽しかったなぁ、、、

この作品は、現時点で続巻が出版される予定があるのかどうかわかりませんが、まずは「探偵駆け出し編」のような扱いになっていると思います。事件の内容は殺人であるとか強盗であるとか、そういった血なまぐさいこととは縁がありません。これはなかなかポイントが高いような気がします。
事件はおきても近所の困りごと、そんなほのぼのとした感じが、主人公である涼(スズム)の駆け出し探偵のドタバタ感とうまく混ざり合って、何かとても大きな事件に取り組んでいるような感じさえさせます。やってることは物探し程度なんですが。

スズムの周りに集まってくる人物もなかなかに多彩。若い方がこの作品を読んでどう感じるかはわかりませんが、私のようなある程度年齢が高めの方であれば、登場人物に見え隠れする胡散臭さのような、裏がありそうな、そんな雰囲気を醸し出しているところも、またたまらないのです。

今作は短編連作の形をとっており、どのようにして名探偵?のスズムが誕生するのかを書いています。短編は全て読みやすく、登場人物も短編が進むにつれて一人また一人と再登場してくれる方が多く、把握しやすいのはとても親切で、うまく構成していると感じます。
話の展開に無理を感じさせず、事件の規模が本当にありそうだったりもするし現実で起きても違和感もありません。そんな事件をいかにも大事件のように扱って書ききっている。このあたりが本当にうまい。
読書が苦手な方でも、すんなりと読めるのではないかと思います。しばらく読書から離れていた方でも、昔を思い出して読んでみてはいかがでしょうか。

ちなみに、各短編の冒頭に江戸川乱歩作品の文章が引用されています。私は、乱歩作品を読んだことはありますが、そこまで詳しくはないため、なぜその文章が引用されたのか、まではわかりませんでした。
もしかしたら、それがわかれば、もっと内容に引き込まれるのかもしれませんね。


それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

一昔前ならまだしも、現代の日本を舞台にしたうえで、探偵の活躍する話を書こうとする。知っている方も多いと思うのですが、現実の探偵(興信所)は浮気調査だったり素行調査をするのがメインのお仕事で、殺人事件を華麗に解決!ということは、まずありえない。これはスズムも物語中で語っていますね。
スズムも素人が探偵なんてできるわけがないと考えていたのですが、なぜ探偵になってしまったのか。このあたりは読んでもらうのが一番いいのですが、やはり人の思い込みや勢いというものはすさまじい力を持っているのですね。スズムの周囲に集まってくる方々のキャラの濃いこと。これだけ自分勝手な押しの強い方々が揃えば、そりゃ探偵になる方向に流されるでしょうね。

さて、今作の短編は6編からなっており、現時点で続編が出るかどうかわかりませんが、最後の「まぼろし楽隊」というお話では、正式に探偵事務所を立ち上げたスズムの元にB・Bと名乗る人間からの挑戦状が飛び込んできます。物語の最後に、スズムに挑戦をするからには、おそらく次巻以降でスズムとB・Bの対決が書かれていくのでしょう。それはそれで楽しみなのですが、物語の途中から読者としては事件よりも気になることがあると思うのです。私もそうでした。
スズムの家族は母親がすでに他界しており、高齢者住宅に住むミステリー作家の父親、結婚してニューヨークに住む妹の幸、そして12年前の6月に海で行方不明となった弟の甘。
この弟に関しての失踪事件が物語の最後とつながってくる。
スズムの父親はミステリー作家だったため、家にもミステリー小説が大量に置かれており、スズムも甘もその中で自然と本を読むようになり、全ての子供がそうであるように「大きくなったら名探偵になる」と発言もしていた。スズムはそれを望んでいたわけではなかったが、探偵として事務所を構えることになっている。では、弟の甘は何になりたかったのか?甘は「お兄さんが名探偵になるのなら、自分は怪人二十面相になって、名探偵となったお兄さんの前に姿を現す」と言っていたらしいのです。

運動ができて、普通ならまだ海に入る時期ではない6月の海に姿を消した弟の甘。たとえまだ海水温が低いとはいえ、泳げないわけでもない。甘が消えてしまうには不自然な出来事が多い。
そのような中で、スズムが探偵事務所を開設したとたんに、B・Bと名乗る人間がスズムの前に立ちふさがった。
これを偶然と片付けてもいいものだろうか?
甘の生存情報とも思われる話は、第5話の「スキマ男のレモン」でも述べられている。

どうやら次作以降は甘の所在をスズムがつかめるか、ということがメインテーマとなりそうなところまではわかりました。
おそらく、甘にかかわる話はかなりシリアスな内容になるのでしょう。
苦労をすることは明白ですが、もしかしたらスズムにとっては、周囲の人間が持ち込んでくる難問?を解決するほうが大変かもしれません。
ですが、日常の困りごとを解決しているスズムのほうが、似合っているし、幸せそうな気もするのです。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…