ピエタとトランジ〈完全版〉 恐るべき疾走感を持つ作品でした

ピエタとトランジ〈完全版〉
講談社 2020年3月10日 発売予定
藤野可織(ふじの かおり)

NetGalley様よりゲラを頂き、読了いたしました。
内容紹介には、

岸本佐知子、歓喜!
「これは、私がずっとずっと読みたいと思っていた、最強最高の女子バディ物語。」

と書かれていました。

内容紹介の詳細には、「女子高生探偵」との記述がありました。
ん?なんだろう、可愛らしい女子高生探偵とその助手が、警察を出し抜くほどに名推理を連発するような内容なのかな?
そんな第一印象でした。
結果的には、私の第一印象は当たってないけど外れてもいなかったかな。

この作品の読後の印象は、予想の斜め上を音速ですっ飛ばされた感じかな。全然、予想と違ってた。全然、ってことはないかもしれないけど、私は女子高生が「女子高生のまま」でストーリーが終わるものだと思っていました。それだけに、この作品の展開は予想を外された喜びと、予想以上の展開を見せてくれた作者の力量に大満足をしている感じでした。
本当にすごかった。
読んでいる最中は、読んでいる私はもちろん、ストーリー展開にも中だるみのようなものは一切なく、清々しいまでに疾走感を感じさせる展開で、一気読みでも全く疲れることを感じさせません。この疾走感は、主人公である二人、ピエタとトランジの性格や会話内容、行動も関係しているのでしょう。
素晴らしいスピード感です。

お互いがお互いを支えるのではなく、あくまでも主体は個であって、それでもどこかで繋がりあっているような。そんなピエタとトランジが高校生のときに出合ってから話は始まります。
出会いはそこまで印象がよくない二人が、ピエタの彼氏が殺された事件がきっかけでつるみ始める。
他人と接触することを避けるトランジと、何も考えていないような雰囲気を纏い付きまとうピエタ。
すごいよ、ここからのストーリーは一気に、ジェットコースターのように上昇し、急降下し、旋回し、読んでいる私たちの平衡感覚を狂わせるかのように、強い言葉を浴びせかけてきます。
気持ちを持っていかれないように、自分の中に自我という線引きをしっかり引いておかないと、ピエタとトランジのペースにはまり、物語を読んでいるのか読まされているのかわからなくなっちゃうかもしれない。
出てくるキャラクター達も、妙に現実感が強く、実際に生存しているモデルの人物がいるのでは、と感じさせるほどの設定は絶妙です。

物語は12章+最終章で構成されています。こんな書き方をしたのは、12章までは数字と章タイトルが書かれてストーリーが始まるのに対し、最終章は数字が書かれていないからです。
もしかしたら、物語は12章で終わりだったのかもしれない。この最終章は、読者に対して最後まで読み終わったご褒美に、作者から読者へちょっとだけピエタとトランジの関係を教えてくれたのかもしれないな。
この作品は〈完全版〉と書かれているように、元々の作品に加筆されているらしいです。私は最初のバージョンを読んだことが無いので、どのあたりが加筆なのか判断できませんが、この最終章はもしかしたら大幅に加筆されたのかもしれないな。

最終章を読み終えて、最初に出てきた感想は「いいなぁ、羨ましい」でした。
決してこの二人のような生き方はできませんが、二人のような繋がりをもって生きてみたいとは思います。
まぁそれができたとしても、私のメンタルではしんどいだけでしょうけど。

疾走感が溢れ出る、素晴らしい作品でした。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…