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【お誕生会クロニクル】 週末は両親に会いに行こうかな。。。

お誕生会クロニクル
光文社 2020年9月17日 刊行予定
古内一絵

NetGalley様よりゲラを頂き、読了いたしました。

お誕生会という催しについてが、本作でも少し書かれていましたが、女子が中心で男子ではあまりやっていなかったように記憶しています。
とはいえ例外というものはあるもので、私が幼少の頃に住んでいたのは父親が務めている会社の社宅アパートだったので、同年代の子供が多く、男子も女子もお誕生会というものを行っていました。
その流れは一軒家に引っ越してからも続いていたので、私は例外中の例外なのかもしれません。

そんなお誕生会、男子も女子も気になるのは「お招きする相手」ということになるのでしょう。
もちろん意中の相手が来てくれれば舞い上がるし、仲の良い友人に囲まれて自分が中心になるというのは気持ちがいい。日常から少しだけ外れることができる、そんな特別な日。
しかし、特別だからこそ最近ではトラブルにもなるようです。
本作では、そんなお誕生会で発生するトラブルから物語は始まります。
誰が呼ばれた、呼ばれない。素敵なプレゼントがもらえた、もらえない。些細な事といえばそうなのでしょうが、一年に一度のイベントとなれば、子供には大きな問題。
そんな子供の複雑な気持ちに、さらに親の見栄が積み重なります。
自分の子供には、もっと中心で輝いてほしい。
お誕生日という特別な日だけは、自分の子供が主人公になってほしい。
それは子供の願いとは別の気持ち。

暴走したお誕生会はやがて学校で問題となり、お誕生会禁止の連絡が流れてしまう。

そんな短編から話が紡がれる本作は、連作短編です。
ある学校で流れたお誕生会禁という出来事がそこだけにとどまらず、直接的ではないにしろ、多くの人のお誕生日に関するお話につながっていきます。

一つ一つは独立したお話。だからこそ、そこに描かれる内容は同じテーマであっても、異なる内容で描かれています。
心の底から感動する話、あぁなるほどわかるなぁと同調してしまう話、同じような内容がないために毎日一話づつ楽しませていただきましたが、その中でも「あの日から、この日から」という話については、ちょっと切ないようなそれでいて前向きになったような、そんな読後感で色々と考えさせられました。
それは、物語の中で東日本大震災を取り上げているからだったかもしれません。あの震災で、被災した県に住んでいる私たちの多くは、普段は何気なく暮らしているものの、心の奥底にはやはり何とも言い表せない感情を消し去ることはできないのでしょう。
私には子供はいませんが、両親は健在です。健在であるからこそ、それを当たり前のように受け入れ、失われることがないと思っているのかもしれません。
それでも変化は必ず訪れます。
受け入れられない内容であっても、容赦なく訪れます。
今を大事に。
あの震災を乗り越えた現在だからこそ、もう一度家族と向き合う必要があると教えられたように感じました。

本作はどの短編から読んでも問題なく楽しめますが、登場人物や作中で起こる出来事等、短編を読み進めていくと絡まっていた糸がほどけていくような楽しさがあります。
とはいえ、やはり作者の意図があってこの順序に収録されているのでしょう。
頭からじっくり読むことをお勧めします。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…