滴水古書堂の名状しがたき事件簿 1 うーん…惜しいなぁ

読者による文学賞の二次選考 レビュー1冊目です

読者による文学賞の二次選考を担当させていただき、少しづつ読み終わった本のレビューを書いていこうと思います。

それでは、まずは本の情報から。

滴水古書堂の名状しがたき事件簿 1
講談社 2019年8月5日 第1刷発行
黒崎江治(くろさき こうじ)

それでは、レビューです。

タイトルに「ほにゃららの事件簿」って書いてあれば、多くの方はミステリー小説だと判断するのではないでしょうか?
私はそう判断してしまいます。そのため、この本を手に取った時の感想としては、「古書堂かぁ。前にすげーヒットした古書店の小説があったなぁ」って感じでした。私を高揚させたのは、帯の推薦文を京極夏彦さんが書いていたこと。大好きなミステリー作家。姑獲鳥の夏の衝撃は未だに忘れられない。

この帯があったもんで、この本のハードルがぐぐいっっと上がってしまったのは、しょうがないことでしょう、きっと。だってこの帯の文章がまたいいんだもん。古書店を舞台にどんなストーーリーが繰り広げられるんだろう?古書店のマスターはどんな人間なのだろう?
そりゃ期待は膨らみまくりますって。

はい、読み終わりました。

うーん。
うーんうーん。。。

ミステリー・・・かなぁ?
ファンタジー・・・?でもないよなぁ。

もったいない、ってのが第一印象でした。素材はいいんですよ。ただ調理の仕方がちょっと雑じゃないのかなぁ、という感じなのです。
おもしろいか、おもしろくないか、と聞かれれば、おもしろいですよ。おもしろいだけに、もったいないんです。
ネタばれにならない程度に内容を書きます。

タイトルにもある「滴水古書堂」の店主でもある古戸時久(ふるど ときひさ)と、ちょっとした事件で知り合った楠田由宇子(くすだ ゆうこ)が古戸の誘いを受けて滴水古書堂のバイトとなるプロローグから話は始まります。ストーリーはエピソード1から5に分かれており、短編連作とという形で構成されています。各エピソードに関連性はないのですが、プロローグからエピソード5まで時間軸の流れに沿って物語は書かれています。

さて、やはりどこまでもタイトルに引っ張られてしまうのですが、事件はおきます。各エピソードに異なる事件が書かれています。その事件が、普通ではないのです。前述のように私はこの小説のジャンルについて断言できていません。それは事件の内容に問題があるからです。
全てのエピソードの事件が超常の現象なのです。
もっと簡単に書けば「オカルト」っぽいのです。
主人公である古戸さんは、エピソード1でオカルトじゃないよ、って言ってる場面がありますが、読んでるこちらとしては、いやいやオカルトでしょ?って突っ込みたくなってしまう。
さらに言えば、おさまりの悪い話が多いのです。

オカルトを否定するわけじゃありません。むしろは私はオカルトや超常現象、UMAといった話は大好物です。ですので、オカルトを用いてもいいから「なるほど」とか「あー、そうきたかぁ」とか、読者を唸らせてほしいのです。名探偵が知恵をしぼり、事実を積み上げ、犯人を特定していくように、事件を解決するには説得力が必要だと思うのです。

超常のチカラというのは、理由もなく、そういうものである、ということは理解できますが、それを事件性のある話の中に組み込んでしまうと、現実という世界からは外れてしまい、非日常の出来事、つまり読者には伝わりにくい話になってしまいます。
言い方は悪いかもしれませんが、何でもありの世界には共感しにくいと私は考えています。

この本はタイトルに1巻と明記されているので、2巻は必ず発行されるのでしょう。もしかしたら、2巻以降で少しづつ詳細が語られていくのかもしれません。そうであったとしても、まず全員がこの第1巻を手に取ります。私のように、何も事前情報無しに読み進めれば、1巻の内容で次巻以降を購入するかどうか考える人もいるでしょう。
現状、2巻を読みたいか?と聞かれれば、申し訳ないですが返答はNOです。
消化不良すぎるのです。全てが唐突で、書かれないことが多い。もちろん、書かないことで読者の想像に任せて楽しんでもらう手法もあるかもしれませんが、この本に関してそれはありません。
想像ができないんです。
「え?なに?今のは何?」
そんな気持ちになることが多く、すっきりできません。読み返してみても、大事なことには触れていません。
何かが足りない。何かがぼやけている。
読み終わってもそんな気持ちです。

何度も書きますが、素材はいいと思います。
2巻の内容によっては、1巻を帳消しにできるかもしれません。
それでも、この本だけの感想を、と請われれば、残念ながら上記のような感想となってしまいます。できれば、2巻では、私のこの浅はかな考えを吹っ飛ばしてくれるぐらいの展開をしてほしいです。

それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。
まず、事件簿というタイトルのように事件は各エピソードで発生します。発生するのですが、その原因というか理由というか、動機というか、そういったことが書かれていないのです。
一例として、エピソード4の「エリー」という話について書いてみます。

エリーとは、楠田由宇子の高校・大学時代の友人で容姿端麗な日英ハーフで、両親は貿易会社を経営するお嬢様。そこまで仲が良かったわけではないため卒業後も連絡をとっていたわけではないが、ある日エリーから23歳の誕生日パーティーに誘う手紙が届く。パーティー会場は伊豆の沖合にある初島という孤島で行われる。

といった導入文から始まるのですが、このエピソードには主人公である古戸時久は出てきません。もちろん、楠田はこの時点で古戸の古書堂のバイトなのですが、古書堂との接点はそこだけです。
つまり、楠田が古書堂勤務というだけで、事件の内容について古書堂とは何の関係もありません。ちなみに、これはエピソード4だけではなく、エピソード1を除けばあまり古書堂とは関係のない話だったりします。

その後ストーリーは、孤島に閉じ込められた形になったパーティーの参加者が殺される展開となっていくのですが、その犯人というか殺人者の正体が唐突に「ヴァンパイア」であると告げられるのです。

え、ちょっと待って?ヴァンパイアって?

頭の中がパニックです。
密室で殺人が行われるような展開はよくあるかもしれません。ですが、その犯人は人間であってほしいのです。殺人事件が起こるのであれば、殺人という行為自体は褒められないにしても、人間が密室であることを利用し、考え、ばれないようなトリックでもって殺人を犯してほしいのです。
ですが、この物語は唐突に人外の生物が話の中で出現します。
ファンタジーならそれでもいいでしょう。しかし、これは「滴水古書堂の~事件簿」っていうタイトルですよ?事件が起きたのですよ?ヴァンパイアがいたって、それ事件でもなんでもない、人知を超えた超常現象だし、全世界が注目すべき事象です。
このヴァンパイアはさすがに人間の力ではどうすることもできず、楠田も「もはやこれまで。。。」まで追い込まれるのですが、そのヴァンパイアを倒したのは、最初にヴァンパイアに頭を銃で撃たれて死んでしまった赤門という男で、この赤門曰く「私は吸血鬼ではないが、頭を撃たれて生きているのは別の術理によるものだ」
いやいやいや。。。
何がどうなってるの?
さすがに、この展開がありならなんでもありになってしまいませんか?

前述しましたが、第2巻以降でこの超常現象に対する答えが明示されるのであれば、私の評価も変わってくるとは思います。思いますが、あくまでもこの第1巻だけで判断すれば、何でもありの展開では説得力が皆無です。主人公である古戸についても、右半身に謎のチカラを秘めており、物語中で数回そのチカラを使うのですが、このチカラについても何も書かれていないのです。
理由のないチカラという存在は、読者に消化不良を起こさせるだけではないでしょうか。作者の頭の中にはすでにプロットが作られており、それに基づいて話を紡いでいくために気が積まないのかもしれません。あるいは第2回以降を見据えて、故意に情報を出していないだけかもしれません。
それでも、第1巻を手にした読者に情報を与えないままにしておくのは、不親切であると感じています。エピソードを1つ、2つ削っても、このあたりの詳細をストーリーに影響がない範囲で書いておくべきだったと私は感じています。

こうしたこともあって、読後の感想を「もったいない」と表現しました。
ストリーは読みやすく、キャラクターもしっかり作られている。それだけに、もっともっと楽しめる物語にできるのではないかとの思いが消えません。

ちなみに、この物語で一番気になったのは、プロローグに出てくる楠田を襲った男です。強盗か強姦が目的はわからないが、楠田に組み付こうとしてきた男に対し、空手二段の腕前で人間の弱点を的確に攻撃し、相手を倒してしまう。とどめを刺す前に古戸に止められたが、倒れた相手は気絶し、歯を折り、鼻からは大量の出血をしている状態になっています。
古戸に誘われたことで、彼の古書堂に移動するのですが、この重体の男は放置されたままです。
いくらなんでも、気絶している重体の人間を放置するってのは、どうなんでしょう。
この男、その後助かったのかなぁ。。。

サポートを頂けるような記事ではありませんが、もし、仮に、頂けるのであれば、新しい本を購入し、全力で感想文を書くので、よろしければ…