魔眼の匣の殺人 2作続けて密室について考えさせられた…


読者による文学賞の二次選考 レビュー4冊目です

今回4冊目の本はこちらになります。

魔眼の匣の殺人
東京創元社 2019年2月22日 初版
今村 昌弘(いまむら まさひろ)

いやー、この作者はやっぱり凄かった。
前作である「屍人荘の殺人」は密室の作り方が想像もできないような方法だったけど、斬新すぎて受け入れていいかどうかすごく迷った記憶があります。今作でも、なかなかの密室でしたが、まだ前作よりは受け入れることはできたかな。
とはいえ、予言というキーワードを異なる方法で重ねて表現し、その予言があるからこそ成立するの密室。これは実際に読んで感じてほしい。このあたりのストーリーに組み方は素晴らしいと思います。

主人公は前作と同じで葉村譲と剣崎比留子のコンビ。
この二人以外は前作に出てきた方は今作中には出てきませんが、物語の中で前作の内容に触れることがそこそこあるので、やはり前作は読んでからのほうが楽しめると思います。
もちろん、前作を読まずに今作から読んだとしても楽しめるとは思いますが、前作を読んだほうが絶対に内容を深く理解できます。
ミステリーなので、詳細を語ってしまうと楽しさが半減してしまうのでふわっと語ってみますが、今回は一人目の犠牲者が出てからの緊張感が半端ないです。ドキドキ感といってもいいかなぁ。
閉ざされた場所で時間の経過と共に殺人が行われていく恐怖と、犯人を突き止めようとする推理の展開は、臨場感があり、やめどころがわからないぐらいに一気読み確実です。
予言というキーワードで時間設定有りの中で男性二人女性二人の四人が犠牲になると最初から語られているので、今いる構成と残り時間のからみが素晴らしい。

何度か中断しながら読み進めたので、布団の中で今作の犯人を捜そうと色々考えたのですが、全然でした。かすりもしない。
次作についても、物語の最後に少し語られていましたね。
いよいよこの物語の中心にある団体の核心に触れそうな感じでした。
ここまで書いて思い直しました。この作品は、前作「屍人荘の殺人」から読んだほうが絶対に面白い。
次巻以降どこまで話が続くかわかりませんが、この一連の作品は「長編連作」だと思いますので。


それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

このコンビにまた会えた!
私は前作の屍人荘の殺人を読んではいるのですが、読み終えたのは読者による文学賞が始まる直前でしたので、魔眼の匣の殺人を担当できれば間を開けずに読むことができます。読者による文学賞は関係なく、この魔眼の匣の殺人は読もうと思っていたので、既に買って積んでありました。担当できるかどうかはわからなかったけどね。
まつさんの動画を見てくれた方は、二次選考を担当した方々がどのようにして自分が受け持つ作品を決めたのか理解してくれたと思います。(詳しくはまつさんの動画を見てね)
私の選択したタイトルは、結構他の方と重複してました。
この本が担当できてよかったー。

さて、今回もやっかいな事件に巻き込まれた葉村と剣崎。
前作では目に見える恐怖として、ゾンビが描かれ、そのゾンビが密室を形成する役目も兼ねていました。今作では、目に見える恐怖こそありませんが、それ以上にやっかいかもしれない、目に見えないが確実に感じる恐怖「予言」が描かれ、前作同様にこの恐怖の対象でもある予言が密室を軽視する役目を担います。
作者の今村さんの発想力を感じる部分ですね。前作ではゾンビという外的な力で密室が作られ、今作では予言という内的な力で密室が作られる。次作以降を心配するほどに、斬新なアイディアが書かれています。
私もそれなりにミステリー小説を読んできましたが、ほぼほぼ考えられるトリックや仕組みは出尽くしてきたと思っていました。ここにきて新しい考え方でストーリーを組み上げていけるのは、本当にセンスと才能のなせる業なのでしょう。本当にすごい。

今村さんのミステリーは、途中で犯人がわかりそうな気がするのに、そこに到達できないもどかしさが楽しいと思っています。今作でも、途中でうっすらと王子が怪しいと感じていた方はいると思います。私は全然気が付くことすらできなかったのですが、王子が殺戮に至った動機ですら気が付いた方もいるかもしれません。
予言で決められた48時間という設定の中で、男女が2人づつ、計4人が殺される。殺される順番、次のターゲット、設定人数。全ての数字が絡まりまくって、登場人物が疑心暗鬼に考えを巡らしていくのは、読んでいて緊張感が伝わってくる勢いです。
今村さんのミステリーは、細かいことが薄く、細く、重なり合って、極めて精緻なトリックを形作っています。だからこそ、私たちはこのシリーズ作人に引き込まれ、読みふけってしまうのでしょう。
それでもミサキについて気が付いた方はどれだけいたのか。ミサキの正体については、多くの方が気が付かないまま、ラストの終章に辿り着いたのではないでしょか。その正体は、物語に名前は何度も登場していますが、時間軸のずれもあり、多くの方はミサキの正体にはたどり着けないと思うのです。
いいのです、この「やられた!」感こそが、ミステリーの醍醐味なのですから。
多くのミステリー作品は、最後の見せ場で読者を欺き、読者が想定しない結末を見せてくれます。その鮮やかさに私たち読者は魅了され、さらなる作品へと手を伸ばすのです。
しかし、この魔眼の匣の殺人は、そのラストにおいても、さらに読者である私たちを置き去りにするような話をぶちこんできます。
比留子さんの葉村に対する考え、葉村の比留子さんに対する想い。根底ではお互いがお互いを認め、慈しむ存在にまで変化しているかもしれない。本人たちの気持ちはどうあれ。
その気持ちや想いを、比留子さんは遮断していることに葉村は気付く。
自分の助手になってほしいとお願いをしてきた名探偵は、大きな事件と少しばかりの時間を経て、ワトソンになろうと決意した男の気持ちには答えず、葉村のホームズにはなろうとしていない現実。
すげぇなぁ。。。
繊細過ぎるでしょ。
今村さんは、この2人とこのシリーズをとても大事に育てているようなきがしました。

そういや、サキミが住んでいる地域は「真雁」という田舎なので、その地名にちなんでサキミが住む家を「魔眼の匣」と呼んでいたと書かれていました。魔眼の代表的な力って「見えないものを見抜く力」だと思うんですよ。で、通常眼は2つあるわけなので、「魔眼」って「2つの予言」を暗示していたのかなぁ。

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流水
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