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【albumreview#4】RM「Right Place,Wrong Person」

韓国のラッパー・RMの最新アルバム「Right Place,Wrong Person」が素晴らしい。2022年12月にリリースされた1stアルバム「Indigo」以来となるアルバムは、オルタナティヴなヒップホップとインディロックの刺激的なマリアージュに酔いしれることができる傑作だ。


ダークで陰鬱。不安を掻き立てるようなサウンドテクスチャーではじまるこの作品。「Nuts=奇人・変人」と題された2曲目では人間関係で起こり得る不満を淡々と綴り、"居場所"を求めるかのよう。


Little Simzを迎えた「Domodachi」では、日本語で「みんな友達ここで踊りましょう」と歌う。でも、額面通りには受け取れない幾ばくかの違和感を感じる。なんだかズレている。不協和音。まるでゾンビのよう。くぐもるようなビートと金管楽器の絡み合い。ジャズの端正な艶やかさとヒップホップの無頼な荒々しさ。
いったいどこに連れていかれるのだろうか。
「Domodachi」MVは是枝裕和監督作品「怪物」をオマージュしたものとも。確かにそうかも。(※「怪物」はほんと傑作でした)


基本的にダークなムードなアルバムの中、陽の表情を見せるのが「Groin"」「LOST!」の2曲。ここだけカリフォルニアにいるかのようで(行ったことないけど)、まるでJurassic 5みたい。これまではanticonのアーティストみたいだったのに。「俺が君を自由にするよ(Groin)」「こんな自由を感じたことなかった (LOST!)」とストレートに"自由"を歌う。
この2曲に挟まれたシューゲイズ/ドリームポップ的な楽曲「Heaven」も白眉。殺伐とした序盤の空気感はどこへやら。桃源郷が見えるかのようだ。


「Right Place,Wrong Person」では、欧米より3組のゲストアクトと、韓国/日本/台湾等から東アジアの才能が集っている。

フューチャリングゲストとしてはUKの女性ラッパー(RMと同年代)・Little SimzやLAのシンガーソングライター・Moses Sumney、Anderson Paakの新レーベル&BLUE NOTEと同時契約した若き才能・Domi&JD Beckが参加。
さらに「Heaven」「Around the world in a day(feat. Moses Snumney)」の2曲には、never young beach岡田拓郎下中洋介(DYGL)らもクレジットに名を連ねており、さらに同胞である韓国からは国内で最も勢いのあるインディロックバンド・Silica Gelや活動休止中の人気ロックバンドHYUKOHのメンバー、そして台湾の落日飛車(Sunset Rollercoaster)のメンバーも参加するなど、東アジア全域の才能を網羅した布陣となっている。
アルバムは韓国のアンダーグラウンドシーンで活躍するBalming TigerのSan Yawnと、JNKYRDが中心となってプロデュースされている。


終盤、9曲目。
Moses Sumneyと共演する「Around the world in a day」。この曲では前述の通りにnever young beachら日本のミュージシャンが参加。
「君の嘘もすべて愛してると言えるよ」と語る、無償の愛がテーマの美しい楽曲だ。Moses Sumenyらしいゴスペル・コーラスの清廉な神秘性は、中盤以降のカタルシスと溶け合い、昇華されていく。


1分15秒のインターミッション「Credit Roll」を経て、アコースティックギターと口笛から始まるラストソング「Come back to me」。
このアルバムのメインテーマでもある「Right and Wrong (正しいこと/間違っていること)」についての苦悩を洗いざらい曝け出し「君は僕の痛みだ 神聖な」と嘯く。美しくも切ないエンドロール。


闇深い夜の帳がゆっくりと朝のひかりに消えゆくかのような、ストーリー立てた構成も見事。統一感がありながらもバラエティ豊かな楽曲群のクオリティは言うまでもなく、NMEもたまらず星5つ(満点)です。

(昨今のトレンドではありますが) 11曲35分のタイトな構成も好き。
間違いなく2024年を代表するアルバムになるのだと思う。

  ※和訳参考はこちら







さて。
本レビューでは最後まで、ある「重要な情報」に言及してません。
彼の出自を知っている人は不思議に思ったでしょうけど、敢えてです。
僕自身、しばらく気づかなくて吃驚したんだけど、まあ、「29歳の韓国人ラッパーの素晴らしいアルバム」ということでいいんじゃねえかなと思いました。色眼鏡は邪魔だ。

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