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「書店の振興プロジェクトチ-ム」を作って下さった経済産業省の齋藤健大臣に会いに行きました。


なぜ、齋藤健大臣に、お会いすることができたのか?

話は経済産業省の「文化創造基盤としての書店振興プロジェクトチーム」が、齋藤健経済産業大臣と書店経営者などによる「車座ヒアリング」を実施したというニュースが流れたころに遡ります。

 この経産省の「文化創造基盤としての書店振興プロジェクト」については立ち上げの報道がなされた直後より、沢山のお客様から、メールをいただいたり、店頭でもお声をかけていただいていました。中には、「もうちょっとしたら、経産省が、助けてくれるから、それまで踏ん張りや!」という声もあり、なんだか少しずつ期待するようになっていたのでした。

 
ところが、第一回目の「車座ヒアリング」は、大型ナショナルチェーン店の方々とJIPC(一般財団法人 出版文化産業振興財団の略、 本や読書に関する情報やイベントを提供する財団法人)の理事長、そして日本書店商業組合の会長で、その中身は、期待していたものではありませんでした。


ヒアリングをして下さるのは、とても有難いことです。けれども、この10年で廃業に追い込まれたのは、大型チェーン店ではなく、主に45坪までの小規模書店であると、NHKニュースで報じていた通りです。ここでも私たちは無視されるのか。


昨年夏に廃業された仲の良かった書店さん達の顔が浮かびました。常に廃業と隣合わせにある小さな独立系の書店とのヒアリングもお願いしたい。と心から思ったのでした。
 
そして、これらをnoteに書いたのです。

すると、このnoteが、buzz(バズり)反響を呼び、毎日新聞東京本社の経済産業省書店プロジェクト担当記者の方から、連絡をいただき取材を受けたのでした。それが、「毎日新聞」(5月18日付)に大きく報じられました「検証 消えゆく書店『産業の一翼に』 経産省、振興PT始動」

 
そうこうしているころ、隆祥館書店の『作家と読者の集い』イベントに、「独立編集者・読書案内人」という立場で、書評をされたり、京都「たちばな教養学校Ukon(うこん)」、軽井沢「本の學校」などでプロデュースをされている河野通和さんが、ご参加下さったのです。


河野さんは「婦人公論」「中央公論」「考える人」の編集長を歴任され、「ほぼ日の学校」初代学校長を務められ、現在は京都橘大学の客員教授です。

河野さんには、「できれば、町の小規模書店の現場の声を、齋藤経産相ご自身に直接お伝えしたい、それは、できないものでしょうか?」と、熱く訴えたのでした。この頃、小規模書店の声を届けたくて、色々な方に、経済産業省に知り合いはいませんか?などと聞いていました。


すると、なんと河野さんは、齋藤さんとは、古くから親しいご友人だと仰るではありませんか。そして、「齋藤さんはかねてより超党派の『書店議連』などの活動を通じて、地域における文化拠点としての『街の本屋さん』の役割を説いてきた人。思いつきや付け焼刃ではなく、今回の取組みはきっと彼の肝煎りの事業だと思うので、二村さんの思いは是非伝えましょう」と言ってくださったのでした。


河野さんとは、吉原真理さんの「親愛なるレニー」アルテスパブリッシング発刊(この本に感動して、現在300冊近くを売上げています)の河合隼雄文芸賞授賞式の時に、出会い、ご縁をいただきました。河野さんは、小規模でも頑張っている書店のことを一心に考え、齋藤大臣宛にお手紙を書いて下さったのでした。

 
それでも、一ヵ月ほど、齋藤大臣からのお返事はなく、ご多忙だから仕方ないのかも知れない。河野さんが、書いて下さったお手紙が、私の中で、だんだん宝物のように、思えてきていたのでした。たとえ、お返事がなくても、このお手紙を大事にして頑張っていこう。そう考えて、諦めかけた時でした。

秘書官の方から連絡がありました。夜遅くでしたが、嬉しくて眠れないほどでした。
 
そして、当日を迎えたのでした。いよいよ本題に入ります。


せっかく与えられた機会です。危機にあるのは私の店だけではありません。今、なぜ小規模書店が、このような厳しい状況に置かれているのか?日本全国の町の書店さんのためにもきちんと伝えなければならないと思いました。


経済産業省に着くと、秘書の方が早々に部屋に案内して下さいました。貴重な時間を無駄にするわけにはいきません。斎藤大臣にお目にかかるなり、ご挨拶もそこそこに早々に本題に入りました。


【取り組んで欲しい課題】については、
1.「流通のしくみについて」
小さな書店は、出版業界の〝理不尽な流通の仕組み〟に経営が脅かされている。
店によって差をつけられる「新刊配本」の到着日
何も言わなかったら、まず、Amazonへの到着が一番で、次に大型ナショナルチェーン店、そして、中小書店という順番で、1~3日のタイムラグがある。倉庫も大型店とその他で分けられている。

その1 「お客様の注文品」の到着日
以前は、発注してから、4日で入ったのですが、現在休日に引っかかると、一週間から10日ほどかかります。お客様から叱責を受け、取次に、理由を聞くと物流全体の量が、減ったため、出版社から2日で取次に搬入は変わらないが、取次で約1週間止まっているということでした。ドイツでは、取次が約80社( ドイツ図書流通連盟https://jpo.or.jp/topics/data/20190514_jpoinfo.pdf )あり、サービスの競争をしている。Amazonも流通しているが、ドイツ自国のリブリという取次からの本の到着が、多国籍企業のAmazonよりも早いため使う必要がないと聞いたことを、お伝えしました。

すると、齋藤大臣は、手帳を取り出し、「80社」なんですね!「リブリ」と言って、熱心に聞きながら書かれたのでした。



その2 「ランク配本」
これは、販売した書籍の実績ではなく、書店の規模で決める配本。
待っていてもお客様は来られません。「本」の内容を読み込み、伝えなければ本は売れません。そんな中、睡眠時間を削って読み込み、ご紹介することで、日本一販売した本が沢山あります。しかしながら、その著者の本を、いくら販売しても、文庫化されたときはランク配本で、配本は「0」。

北康利著「佐治敬三と開高健 最強の二人」講談社発刊の本の時のエピソードを話しました。(詳細は、木村元彦著「13坪の本屋の奇跡」に掲載)

 齋藤大臣は、びっくりされ、身体を乗り出し、「なぜそんなことになるの? それは、酷い。それは、取次が、するの?」と聞かれたのでした。

「いえ、出版社と取次です。ランク配本という出版業界の古い慣習で、未だに、そのままなのです。」と伝えると、齋藤大臣は、「それでは出版社にとっても利益の機会を逃していることになるでしょう」と残念そうに仰ってました。
 
取次に、この理不尽な流通の仕組みの改善を訴えていますが、5年待ってくださいと言われてからすでに7年が過ぎようとしています。その間に、多くの中小書店が廃業に追い込まれました。さらに経営は厳しくなってきています。一刻も早くこの理不尽な流通の仕組みを改善していただきたいと願っています。

ただ、雑誌などは、取次を使わないとやっていけない現状があります。寡占状態にある取次店の優先的地位の濫用ではないでしょうか。こう書き続けているからでしょう。先日集英社の感謝会で会った取次のある役員の方から「二村さんのことを良く思っていない役員がいますよ。僕は、わかっていますけど」と言われました。しかし、是正されない限りこれは発信し続けます。それがイベントで出逢った作家やジャーナリストの方から私が学んだことです。

集英社・講談社・小学館・丸紅で、PubteX(パブテックス)という、システムを作る話が出ています、これは、著者別の実績配本が、可能だと聞いてはいますが、まだ実施には至っていません。


 
2.「ブックライナー」というシステム
ランク配本で配本されず、発売日に取次の在庫を見ると、通常在庫は無しで、ブックライナ-を使うしか方法が無いような状況に追い詰められています。 
「ブックライナー」とは、元々取次が急ぎの客注品に対応するために構築した中二日で入荷するシステムですが、これは、取次が、7%も手数料を取ります。一斉正味という手法で利益が、2割7分ある大型ナショナルチェーン店と違い、中小書店は、そもそも利益が、2割2分から2割3分しかないので、そこから7%取られると1割5分になってしまいます。通常在庫無しでブックライナ-しか使えないとなると、実質的な値上げで、必死に営業して10000円を売り上げても1500円の利益。これでは、もう経営が成り立ちません。


最近は、事前に、版元や、出版社、取次に、お願いして配本していただける本もありますが、すべて網羅することができず、漏れてしまって入荷しない本もあるのが現状です。
 
「まずは、私たち廃業の危機に追い込まれている書店に、ヒアリングの機会を与えていただいきたいと切に願っています。今回、このような機会をいただき有難く感じています。どうか小規模書店の声を救い上げて下さるようお願いします。」と再度お伝えしました。
 

齋藤大臣は、10年前ぐらいから、書店が減少していることに、危機感を持たれていたといいます。そして何とかしなければならないとの思いから、議連に働きかけたり、本や読書に関する情報やイベントを提供する組織がないことに気づき、JPICを立ち上げられることに尽力されたそうです。
 

司馬遼太郎はすべて読まれていることや、本屋での本との出逢いの話、大正時代の首相・原敬を読んで、志を新たにされたことなど、お話を聴かせていただいているうちに本の文化的価値を理解して下さっているからこその言葉が続き、本屋として嬉しくなりました。


齋藤大臣ご自身が、本屋が無くなっていってしまうことに、強い危機感をお持ちで、何とかしなければならないと思って下さっている熱い気持ちが、じわじわと伝わってきました。

「東京で、本屋が廃業してしまいしたが、地域の住民が助けたことがありましたね。素晴らしいことです」と話されていました。

その他にも本に関する軽減税率、クレジットの手数料についての話をしました。


 
私が斎藤大臣に強く伝えたかったのは、本気で書店を助ける気持ちがあるのならば、取次資本の無人書店への補助金に注力されるよりも、今、廃業の危機にある町の書店にぜひ関心を持って頂きたいということです。


隆祥館書店は、大阪のメインストリート長堀通りに面しているため、バイクでのひったくりにあった女性が、逃げ込んできたことがあります。警察に連絡し、助けました。無人書店では、決してできないことです。


また、以前、エロ本を万引きした中学生がいました。小さな書店のため、常連のお客様が、入れ代わり、立ち代わり、彼に万引きがいかに良くないことなのか、話してくれました。
一週間後ぐらいだったか、学校の先生から店に連絡がありました。彼は、実は不登校生徒だったそうです。それが、あの万引き事件から、大人への信頼を回復し、学校に登校するようになったというのです。嬉しかった、皆で喜びました。これも、無人書店では、できないことではないでしょうか。


これらの話をしたところ、齋藤大臣は、「それは、素晴らしい。人と人が触れ合うのが、町のお店の良い所、犯罪防止にもなるのはその通り。私も実家が、写真屋で、個人経営者の気持ちは、よくわかるつもりだ、何とかしたい」と言われました。

 
本屋は、水道やガス、電気と同じようになくてはならない街のインフラだと考えています。小規模書店の同業者も、どんなに厳しくてもこの仕事を辞めたくはないのです。どうか私だけではなく、苦労している複数の小規模書店の声を救い上げる座談会をお願いします。と、気が付いたら何度もお願いしていました。

斎藤大臣は「必ず座談会を行います」と約束して下さいました。
 

その後、暮しの手帖社さんと、地平社さん、青土社さん、亜紀書房さんを訪問して意見交換やイベントの打ち合わせなどをして、大阪への帰路につきました。出版社さんはとても親切にして下さいました。
 

深夜、大阪に戻ると、経産省の秘書官の方からメールが届いていました。
「本日はお忙しい中、経産省までお越しいただきましてありがとうございました。本日のやりとりの際にもありましたとおり、早速、小規模書店で頑張っておられる方々との座談会も検討させていただければと存じます。名刺交換させていただいた名刺は経産省の書店PT幹部にも共有させていただきましたので、ご相談の連絡がいくと存じます。引き続き、どうぞ宜しくお願いいたします!!」と書かれていました。

業界が、変わるかもしれない。また変わらなくてはいけない。
心ある出版社、取次の皆様、宜しくお願い致します。

                        隆祥館書店 二村知子

隆祥館書店ホームペ-ジ


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