ひとりの書店主として、伝えたいこと とうとう危惧していたことが現実になってしまった。
8月10日土曜日、とうとう危惧していたことが、現実になってしまった。
一人のお客様が、レジのところに来られ、
「先月7月29日に、お願いしていた本、入ってますか?」と言って尋ねて来られたのだ。
注文帳をめくると、7月29日の欄に「正体」染井為人著・光文社発刊 1冊と、スタッフTの字で書かれていた。光文社さんから取次への搬入日は、「7/31」と書かれている。
7/31から、今日8/10となると、取次で10日も止まっていることになる。
8/6 か、7日の時点で、本屋として、取次へ、未入荷の連絡するなりのチェックを、していれば、何とか間に合わすことができたのかも知れない。
その後のお客様とのやりとりは、こうだ。
お客様 「こちらのスタッフさんが、一週間ぐらいで入ると言ったから注文したのに...、入らないのなら最初からそう言って下されば......。」
店主 「いえいえ、7/31取次搬入なら、遅くとも8/7か、8/8には、入ってないといけないのです。こちらのスタッフも、入ると思ってお伝えしたのだと思います...取次さんで止まっているんです」
お客様 「お盆休みに、読みたいと思っていたのに...」
店主「そうですよね~ お休みの間に読もうと思われたのですよね」
店主 「ブックライナ-を使うと、中二日で入るかも知れませんが...」
お客様「... 今から? 」呆れたような顔に変わられて、「お金、返してもらうことはできませんか?」
店主「 お盆に読もうと思っておられたんですもんね」
お客様「お金を返してもらえませんか?」
店主 「はい、申し訳ありません」
泣きたい気持ちを抑えて謝罪した。このお客様には、もう二度と、お越しいただけないだろうと思った。取次から入らず、日にちが、すでに10日経過、と、Amazonでは、即日到着する時代に、呆れてしまわれるのも無理もない。お客様との信頼関係すらも築けなかったのだ。
こんな状況で、本屋を続けていけるのだろうか? 取次での延滞がこれ以上続くようならどうしたらいいのだろう。
以前、ノンフィクション大賞のフェアを7月中旬からする予定で注文していたが、作家さんのお薦め本が、待てど暮らせど入荷せず、仕方なくフェアを、8月からに変更せざるを得なくなった。
その際に、他の書店からの苦情はないのか? 取次の上層部の方は、これほど酷い遅延状況を知っておられるのか? 担当者に上層部に現状を伝えて欲しいと訴えた。しかし、その返事は、「他の書店さんからも同様の苦情はありますが、私たちが言っても改善されないので直接言って欲しい」とのことだった。
大阪支店の担当者は、いつも親切に、マンパワ-で、最善の対応をしてくれている。遅延は、彼らの責任ではない。彼らを責めても仕方ないのだ。ただ桶川の倉庫の遅れは尋常の遅れではない。これではお客様をつなぎ留めれない。
今年、5月、取次さんと版元、書店が集まる大阪のトーハン会で、役員の方々が、未来志向の素晴らしいプレゼンテーションをされた。その後の懇親会で、川上社長が、「地方自治体に本屋の一軒もない自治体がある。私たちは、廃業する本屋をこれ以上増やしたくない。」と言われた。その言葉を信じたくても信じられない自分がいた。
未来志向もいいが、取次の使命である敏速な流通について、それが、今現在できていないことを、どう考えておられるのか? 問いただしたかった。自分だけが思っているとは思えず、他の参加しておられる書店さんに聞くと、「ほんまにそう思っていたらこんなに本屋が廃業していないよ」と窘められた。
取次の使命は何なのか? もう一度考えていただきたい!
ドイツでは、多国籍企業Amazonよりも早いという。本当に、これ以上書店を廃業に追い込みたくないと真に思っておられるのなら、まず、そこを改善していただきたい。切に願う。
同じ出版業界にいるビジネスパートナーとして、このような取次への要望を何度も書くのは私にとっても不本意だ。トーハンの役員のOさんには直接「僕は、わかっているけれども、二村さんの文章はうちでも好ましく思っていない人がいますからね」と咎められた。
書きたくて書いているわけではない。当たり前のことを当たり前にやっていただけないことに、声を上げないと小さな書店はもう立ち行かない。座して廃業するわけにはいかないのだ。
お盆真っ最中、取次さんは、15日まで休みだ。
天気予報でも暑くて、熱中症予防に外出を控えるように伝えておられるせいかお客様の来店は少ない。それでも何とかしなければと「隆祥館書店は、お盆も休まず営業します。」とSNSでも書かせていただいていた。
どうか私たちの懸命な努力を無にしないでいただきたい。
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