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【夢日記】飯盒炊爨・忘れ物

【飯盒炊爨】

僕は地元の友達とキャンプに出掛けていた。キャンプ飯らしく、晩御飯は飯盒炊爨(はんごうすいさん)にしようじゃないか、ということとなり、日中から準備作業を進めていた。

飯盒炊爨というと、炊飯器では味わえないようなツヤツヤしたお米を連想するものだが、なぜか、うどんを作ろうとしていた。飯盒炊爨で使うアイツ(正式名称が分からない)の中に、お米ではなくうどんを入れる、ということだ。それ以外は同じように調理していた。

やがてうどんは完成した。辺りはすっかり暗くなっていた。ちょうど晩御飯どきだ。僕達は飯盒炊爨で使うアイツのフタを開けて中身を確認した。するとそこには、極太のうどんがデンと鎮座しているだけだった。それ以外は何にもなかった。文字通り、何にもなかった。うどんしか無かった。ツユを全て吸ってしまっているらしいのだ。だから極太になっているのだ。いやむしろ「極太麺」ではなく「ブヨブヨ麺」と形容すべきなのかもしれない。

僕達は、どう見ても失敗作にしか思えない「ブヨブヨ汁無しうどん」を見ても、特段、リアクションを取るわけでもなく、また、食べ始めてからも、何の違和感も無さそうに食べていた。美味いとも不味いとも言わなかった。「ウンともスンとも言わない」という表現がピッタリかもしれない。それはまるで、空腹を満たすためだけにカップ麺のうどんを食べているようだった。

「キャンプ場ではカップラーメンですら最高のご馳走になる」という話を聞いたことがある。ロケーションがそうさせるらしいのだ。「何を食べるか」だけでなく「どこで食べるか」でも人間の味覚は大きく刺激されるのだと僕は思った。それに当てはめると「キャンプ場・飯盒炊爨」のコンボが決まっているにもかかわらず、黙々とうどんを食べている光景は、異様でしかなかった。

僕達は、あっという間にうどんを食べ終えると、やはり、自宅でカップ麺を食べ終えた後のように、調理器具を片付けたり、調理の際に出たゴミを捨てる作業へと移っていった。テキパキと行動するのは褒められるべきことかもしれないが、ロケーションを考慮すると、もう少し感慨に浸っても良いのではないかと思われた。楽しくなさそう。かといって、嫌そうでもない。全員の心の機微が読み取れないのが、僕からすると、大層、気味が悪かった。

【忘れ物】

僕は学校の教室に居た。クラスのメンツや教室の感じをを見る限り、中学生の頃であると推測される。登校してきて、「朝の会」と呼んでいるSHR(ショート・ホームルームが)までの間、席が近くの友達と談笑しているところだった。

僕は話をしながらカバンの中身を開けた。持ってきた荷物を机の中に入れるためだ。しかし、カバンには、筆記用具類ぐらいしか入っていなかった。教科書の類いは一切無い。

僕はおかしいと思いながら、友達に「今日って持ち物少ないんだっけ?」と尋ねた。すると友達は「いやむしろ多いぞ。重くて肩が凝りそうなくらいだ」と答えた。僕は「そうか・・・」とだけ呟いて、会話を打ち切った。頭の中が「なぜ何もかも忘れてきてしまったのか?」という疑問で一杯になって、とてもじゃないが会話出来る状態ではなくなったからだ。

僕は前日の行動を振り返っていた。いつもは「入浴後〜就寝前」の時間帯で、明日必要なものをカバンの中に入れて、「ライフ」と呼ばれる学校指定の連絡帳を見ながら、忘れ物は無いかチェックして、よしこれで大丈夫そうだ、と安心してから眠りに付く、それが一つのナイトルーティンとなっていた。にもかかわらず、今日の僕は何にも持って来ていない。なぜこんなことが起きてしまったのか?

考えたところで、何にも答えは出なかった。時間はあっという間に過ぎていって、もう「朝の会」が始まるところだ。クラスメイト達も、教室内でガヤガヤしていたのをやめて、各々の席に座り、自分と近い席の子達とヒソヒソ声で会話をしていた。それが僕には、タイムリミットを告げる合図のように思えて、より一層、焦燥感を募らせた。

先生が教室の中に入ってきた。「朝の会」が始まった。今日一日の予定や連絡事項等を確認している。しかし僕は「心ここに在らず」だった。「忘れ物をした。それも全教科。怒られる。毎時間怒られるんだ」という想いで一杯だった。気が気じゃなかった。先生の話なんて何にも頭に入って来なかった。大事なことを聞き逃したかもしれない。だとしたらまた怒られる。嫌だ。怖い。完全に、負のスパイラル状態に陥っていた。

「朝の会」が終わって、先生が教室から出ていった。10分後には1時間目の授業が始まる。僕は観念していた。もうどうにでもなれと思っていた。怒られる運命からは逃れられない。であるならば、心を無にして、先生からの注意は、耳から耳へ通り抜けように、聞き流すしかない。一つ一つ、生真面目に受け止めていたら、とてもじゃないが、身体が持たない。だって今日は、一日中、怒られっぱなしになるのだから。

僕は再びカバンの中を開けた。そこには昼飯用の弁当箱だけが入っていた。やっぱり、何にも入っていない。そんなのは当たり前なのに、なぜか僕は、再び落胆していた。勝手に自宅からカバンへと教科書類がワープしてくれないか、なんて淡い期待を抱いていたのかもしれない。そうでもなけりゃ落胆はしないはずだ。だとしたらバカだ。

僕は自嘲するような笑みを漏らしていた。一度は「どうにでもなれ」と思ったはずなのに、その直後「どうにでもなって欲しくない」という別の自分の存在に気付いて、何だかおかしくなってきたからだ。雄々しく腹を括ったはずなのに、女々しく「あわよくば」を期待している。それが何とも情けなかった。ダサかった。もう笑うしかなかった。

1時間目の開始を告げるチャイムが鳴る。クラスメイト達は授業に備えて教科書類を机の上に並べている。当然、僕の机の上には、筆記用具類しか並べられていない。教科書はおろか、ノートすらも無い。自分一人が取り残されているような気がしてきて、また、悲しくなってきた。一度は観念したはずなのに。僕の心は秒単位でグラグラと揺れ動いている。「泰然自若」とはかけ離れた状態に、さすがに嫌気がさしてきた。

先生が教室の中に入って来た。学級委員の「起立、礼、着席」という号令とともに、僕はノロノロと身体を動かした。辛うじて他のクラスメイトと同じタイミングで「起立」することは出来たが、「礼」の角度はせいぜい5度ぐらいだったと思われる。怒られることへの恐怖心が募り過ぎて、マトモに身体を動かせる状態ではなかったのだ。

僕は心身共に疲れ切っていた。それと同時に、これ以上気を揉んでいても仕方ない、と思い始めていた。「考えてもラチがあかない」というよりも「考える気力や体力がカラになった」という方が正しいかもしれない。

僕は「諦めの境地」とでも言うべき状態になったのを自覚すると、途端にお腹が空いてきた。朝ごはんは家で食べてきたはずなのに。状況から察するに、身体の反応としては「空腹感」を覚えていたとしても「ヤケ食い」をすることで、自分自身へのイライラやストレスを打ち消そうとしていたのかもしれない。

とうとう、僕が教科書やノート類を一切合切忘れてしまったことが先生にバレてしまった。軽く注意を受けた後、教科書は横の人に見せてもらって、ノートはちぎった紙を誰かに分けてもらいなさい、という指示を与えられた。

僕は、自分の横に座っている人が、嫌そうに机を僕の方へに寄せていることに気付いた。どれだけ「心ここに在らず」の状態でも、そういうことだけには目ざといのである。

僕は、自分の横に座っている人への想いよりも「早弁するならいつのタイミングが良いかなぁ」ということしか考えていなかった。食べることしか頭に無かった。これを「自己防衛」と捉えるのか「現実逃避」と捉えるのか、僕には上手く解することが出来なかった。

自分の横に座っている人は、机を寄せることはしてくれたものの、ピッタリとくっ付けることはしてくれなかった。たとえ机越しであったとしてもこんなヤツと触れ合うのはまっぴらごめんだ、ということなのだろうかと僕は思案していた。当然、その状態で教科書を二つの机の真ん中に置いたら落ちてしまうため、教科書の位置はそのままだった。僕の席からは全くと言って良いほど見えなかった。

ノート用の紙は、まだ、誰からも貰っていなかった。そんなことよりも、僕の横に座っている人の仕草や表情のことばかり、気に掛かっていた。どこから見ても嫌悪の念しか感じない。それぐらい、あからさまな態度だった。嫌われているのがヒシヒシと伝わってくる。

僕は再び空腹感に襲われた。

早くご飯が食べたい。

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