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スズメバチ事件

ある日のこと、
2階のベランダで洗濯物を取り込んでいたとき。

ブーーーンという低い音がした。

ん!?なんだか虫の音に似てる。
振り返って部屋を見渡す。

何も見えない。
空耳だったかな!?

実は私、
大の虫嫌いで
蚊でさえ飛んできたら逃げ回るタイプ。

東京の自宅に住んでいる時には

洗濯物に虫がつかないように
室内の乾燥機で洗濯物を乾かしている。

でも実家では乾燥機なるもはなく
当然ベランダに干しているため

洗濯物を取り込む時には
バタバタと洗濯物を振り回すよう心がけている。

蚊の一匹たりとも家に入ってほしくない。

「ぶーーーーーん」と聞こえたものの

今の所、何も見えない。
ほっとして、洗濯物をまた取り込み始める。

するとまたぶーーーんという低い音。

えっ!?と辺りを見渡す。

なんとなくタンスの影に黒い物体が歩いているように見える。

えぇー、ちょっと、、、
コレは蚊より大きいぞ、
ハエかな、、参ったな。

まじまじ見つめてみると
なんと足が長いではないか。

え!?もしかして、ハチ!?

しかもスズメバチ!?

昔だったらここで声を上げて母を呼ぶ。

昔から虫退治は母にお願いしていた。

けれど、お母さんは今や優雅に天国に。
父は一階のソファでお昼寝。

虫退治も世代交代の通過儀礼なのか。

腹を括った私は、意を決した。
よし!わたしがやるぞ!

今まで母がやっていたやり方を見てきた
きっと覚えているはず。

だからできるはず。
やれる!やれる!

やれるぞ自分!

スズメバチの位置を確認したあと、
部屋の扉をそっと閉めて階段を一気に駆け降りる。

玄関にあった「スズメバチバスター」を手に取って
急いで階段を駆け上がる。

父が昼寝から覚めたのか
「なにーーー!?」と遠くから声が聞こえた。

私は大きな声で下の階に叫ぶ。

「スズメバチー出たー!
私ちょっとやってみるねー!」

「はーい」

呑気な返事が返ってきた。

父は知らない、私がどれだけ意を決しているのかを。

できることなら父にお願いしたいけれども

今の身体能力では、
仕留めるのは難しいな、との判断が
瞬間的に自分に下された。

やっぱり、私がやるしかない。
いくぞ、自分!

扉をそーーーっと開けて

逃さず仕留めるために、しっかりと近づく。
母がかつてやっていたことをマネしながら動く。

怖いけど、ジリジリと近づき、見定め、

よし!今だ!!!

スズメバチバスターをプッシュ!!!

プッシュ!
プッシュ!

あれ!?
でない!?

プッシュ!

あれ!?

プスっと音はするけれども何も噴射されない。
まさかの燃料切れ!?

うっそ、、、。

(その②につづく)

【スズメバチ事件part2】84才父とのふたり暮らし

スズメバチは何事もなかったかのようにウロウロと歩いている。

もう一度、そぅっと扉を閉めて
階段を駆け下り父に相談。

「スズメバチバスターがカラだったよ、、」

他に家にあるのは、
蚊取りのプッシュ式のものしかなく
スズメバチを仕留める威力は完全になさそう。

そこで父がテレビの前にあった赤いスプレー缶を手渡してくれた、

「コレでいいじゃん」

差し出してくれたのは
「ムカデバスター」

「えー、コレいける!?」

「大丈夫、大丈夫」なぜか自信満々の父。

わかった!

父からバトンを手渡しのようにスプレーを受け取り階段を駆け上る。

スズメバチさん、私はあなたを殺したくない。
だからもういなくなっていてね。

扉をそっと開ける。

部屋を見渡すと、
それでもやっぱりそこには黒い点が動いている。

やるしかないか。

手にしたスピレー缶の噴射口を確認する。
ムカデバスターよ、お願いします。

さっきと同じようにジリジリと近づき

呼吸を整え、
ムカデバスターを思い切りプッシュ!

勢いよくそれは噴射し
スズメバチは壁からポトっと落ちた。

スズメバチは歩きながらまた壁を登ろうとした。
それは外に続く窓に向かっていくように。

もしかしてこのまま外まで歩いていってくれたら、と願うも
まだまだ窓までは遠い。

心を鬼にするしかないのか。

お母さん守っていて。

自分に喝を入れて、

ごめんなさいっと追いプッシュを噴射させる。
自分でも泣きそうなぐらいの長い時間やってみた。

そして、
スズメバチさんの動きは完全に止まった。

さっきまでは仕留めないと、といった気持ちが
強かったけれども

動かなくなったスズメバチを見て
急に自分に
罪悪感と後悔が出てきた。

一撃目はいいとしても。
あのまま見過ごしていたら、もしかしたらそのまま外に出られたのかも。

一階に降り、父に片付けをお願いした。

新聞紙とティッシュを持って
父と一緒に階段を上る。

父に伝えてみた。

「すごい、今、罪悪感なの、トドメの一発をやっちゃったんだよね」

父はそれに何も答えないで
2階の現場に入っていった。

私は
遠くからそこらへんだと思う、と指をさす。

父は黙々と新聞紙の上にのせて

そのスズメバチをベランダから
下の庭へと落としていた。

その後、格闘した跡を
ティッシュでキレイに拭き取る。

階段を降りる私の背中に父が言った。

「なんかさ、動いていたよ。」

「うそっ」

「動いていたから殺人じゃないよ。
あ、殺虫か。」

「ほんとに!?」

一階に降りて後、
庭のどこかに落ちてないか探してみたけれど
見つからなかった。

父が手にしたスズメバチは本当に生きていたのだろうか。

そんなはずはないよな、ピクリとも動いてなかったから。

それでも、
あえて真相は求めず
自分の罪悪感をなんとかしようと庭に手を合わせた。

その次の日のこと。
災難には災難が続く。

ヘルパーさんが玄関を開けて
「こんにちはー!」と言った瞬間

ムカデが空から降ってきた。

ケアマネさん含め5人ぐらいでキャーキャーした。

玄関に置いていた
ムカデバスターは、今回は本来の使われ方をした。

早く真冬になってほしい限り。

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