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「昭和財政史」より、昭和30年代の「法人税」に関する議論を書き起こし

昭和財政史より、昭和30年代、高度経済成長期の法人税議論に関する内容を書き起こしする

https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/s27-48/06_01.pdf

以下引用

(1)企業課税の視点と税制改正30年代の法人税改正は,20年代に実施された法人税率引上げ,租税特別措置の拡大の方針を全体として再検討する方向をとった.そして単なる法人税制という視点より,企業に対する課税のあり方と関連づけ,税負担の軽減ならびに改正が図られたところに特徴がある.

それでは具体的に,当時企業課税として何が問題となっていたのか.30年代前半の法人税改正を終了した時点で,主税局は「企業課税の現状と検討すべき 問題点」(昭和34年5月1日)の一文の中で次の7点を列挙している.

【企業課税検討の必要性】

企業に対する課税はいかにあるべきかは,世界各国においても税制上の問題として最も解決の困難なものとされている.最近においては,これに加えて資本蓄積,企業の自己資本充実等の見地から現行制度について更に多くの問題点が提出され,その解決が要望されている.
これらの問題点の主要なものを列挙すれば,次のごときものである.

1.租税負担の不均衡(法人企業と個人企業との不均衡)
現在企業に対する課税方式は企業の内容が実質的に同一である場合においても法人企業であるか個人企業であるかその法律形態により,法人企業については規模の大小を問わず法人税を,個人企業については一律に所得税を適用し,事業税の課税と相まって,負担の不均衡を生じている.

2.法人擬制説的現行税制に対する批判
現行税制は法人擬制説的前提に立ち,個人については配当控除,法人については配当益金不算入の措置を講じ,企業に対する課税を企業の形態によってなるべく差異のないようにする建前をとっているが,この課税方式に対しては次のような疑問が提出されている.

(一)所得が受取配当金のみからなる所得者は高額の金額まで所得税が非課税となる.(夫婦子3人165万円まで)
(二)法人の受取配当金不算入の制度も投資の形式が,配当であるかあるいは社債であるかによって税引後の投資利廻りが異り,常識的に首肯できない面があるといわれる.

3.企業の資本構成面からの批判
各国とも法人税法では借入金の利子は損金に算入されるが,支払配当は損金に算入されない.わが国における企業のオーバーボローイング(借り入れ超過)と関連して,この点について何らかの手段を講ずべきであるという批判がある.

4.内部留保の充実の要請
企業の資金調達の源泉としては,これを株式資本をも含めて外部からの資本よりも自己の利潤のうちからの留保に求める方がより安定したかつ確実なものであるから,税制としては,内部留保を配当その他の社外流出よりも優遇すべしという意見がある.この意見は,耐用年数の短縮,非課税積立金の増加等の形で表されている.

5.貯蓄又は投衰形態の相違による税負担のアンバランス
現行税法では36年3月まで預金利子その他確定利附投資の利子については10%の源泉分離課税の措置が講ぜられているのに反し配当については配当控除はあるにしても総合累進課税を受け,両者の間に税負担のアンバランスがあり,配当についても源泉分離課税を行うべしとの要望がある.

6.大法人と中小法人との税率には差等を設けるべきかどうかの問題
担税力の差異を理由に大法人と中小法人との間には税率に差等を設けるべしという意見がある.このことは特に各種の特別措置によって受ける利益の程度が大法人に厚く,中小法人に薄い実情にかえりみて,両者の間に税率の差別その他の方法によってこの間の不公平を除くべしとの考え方がある.

小規模企業の資金調達面からの問題点
小規模企業はその形態としては殆ど同族会社であり,そのような企業形態をとっている場合は株式の公開もなく従って増資社債等による資金調達は不可能であり,もっぱら社内留保に依存せざるを得ない.従って現行の社内留保に対する課税はこれら企業の社内留保の形における資本蓄積を阻害しているという批判が生じている.

以上にのべたこれらの問題点は,いずれも税制の基本問題にふれる極めて困難な問題であるのでこの解決のためには綜合的かつ根本的な研究を行う必要がある…

以上

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