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プロイラストレーターによる「装画の研究」

イラストレーターの仕事として代表的なものの一つとして装画がある。小説などの書籍の表紙イラストのことだ。プロになる前はかなり憧れていた。

装画のお仕事をいただけるようになり、いざ描き始めてみるとかなり奥深く難しい。装画の良し悪しについても漠然としている。毎回悩みながら描いているが、そもそも装画についての勉強の量が少なかったのではないかと気がつく。

装画イラストには装画イラストでよく使われるテクニックがある。
小説の主人公のキャラクターの姿を具体的にその詳細を描くのではなく、その面影のようなものを描く。
明確に「こんな人」という風に表紙で描かないのが良いよね、という風潮がある気もしています(本のジャンルにもよりますが)


例えば顔を描かないとか。

特に目を描かない人物画という物がある。のっぺらぼうというわけではなくて、ノイズが入って表情が見えなかったり、蝶が目を隠していたり、抽象画のようなもので覆われていたり。

ちらっと本屋さんを見てみたらいくつか目に入った。

・「家庭用安心坑夫」 小砂川 チト 装画:榎本マリコ 

・「教育」遠野遥 装画:Ney https://neyinwinter.webnode.jp

・「二木先生」夏木志朋 装画:Ney

・「恋とそれとあと全部」住野よる 装画:ゴル https://twitter.com/goru_777

これは、彼は何を考えているのか、とか、主人公は一体どういう人物なのだろうか、とか、そういう内面を探るあるいは巡る物語が多かったりする。もちろんそれ以外もあるのだけれど、その意味は「読んで確かめるしか無い」と表紙を見た人の興味関心を引けるか。

顔を覆い隠している何かを剥ぎ取るように読者に表紙を捲らせることができるか。


顔を描かない、という点で言えば「後ろ姿を描く」というものもある。何かに向かっている、などという表現に使われたり、遠くの何かを眺めていたり、巨大な何かと対峙していたり。

浅田次郎「母の待つ里」

白髪交じりのサラリーマン風な男性の後ろ姿とその向かう先には古民家とその前に立つ割烹着姿であろう老婆の姿が描かれている。主人公の男性に何かがあって年老いた母の待つ実家に行くのだろうか?老婆の姿も小さくて顔は描かれていない。この二人に何があったのだろうか?どういう思いを抱いて対面するのだろうか。小説の内容が気になってしまい思わず表紙をめくってしまう。

装画は井筒啓之さんで大ベテランのイラストレーターだ。映画化もされた浅田次郎さんの「鉄道員」の装画を担当したことでも知られている。

「鉄道員」の装画もまた、白髪の鉄道員と思われる男性が椅子に腰掛けていて、その表情は読み取れない。


浅田次郎さんと井筒啓之さんの組み合わせでいうと「おもかげ」の装画も素晴らしく、暗い青で描かれた地下鉄のホームと思われる場所に女性が立っている。顔は描かれているが表情までは読み取れない。顔以外の髪や服装などは白く飛んでいて描かれていない。面影なのだろうか。このイラストは横長で背表紙まで続いていて、背表紙には男性が同じように顔の表情は読み取れず髪や服は白く飛んでいる姿が描かれている。
なぜそこが描かれていないのか。

人物だけでなくて、背景の地下鉄のホームに見える描き方にもテクニックがあるが、ここにつらつらとそのテクニックを書き綴るよりも、井筒さんが講師をやっている青山塾に入塾して実際に聞いたほうが勉強になるだろうから興味ある方はどうぞ。



装画には、絵としての魅力だけでなく、本を手に取って読みたくなる魅力も必要です。また、読み終わった後にもう一度装画を見返して、そこに込められた意味や表現を味わう謎解きのような魅力も必要なのかなと思います。

装画を研究するためには、単に美しい絵を見るだけでなく、その本を読み終えた後にもう一度装画を見返すことが重要です。そうすることで、装画に込められた深い意味や表現を理解することができます。

今から「おもかげ」を読み、装画に込められた意味を探ろうと思います。


参考:


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