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トヨタランクル300発表に思うこと。「自動車はスマホではない」

「必ず生きて帰ってこれる」
それがランドクルーザーの使命

トヨタ自動車が誇る世界最強のオフロードSUV、ランドクルーザーが全面フルモデルチェンジを発表しました。

「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」として、ランドクルーザーは世界中の過酷な現場で活躍するSUVです。今回のランドクルーザー300は、指紋認証エンジンスターター機能をはじめ、各種運転支援、セーフティ機能を備えた、IT技術の塊りとなっています。

一方で、ランドクルーザーとしての使命である、世界のどんなところにも行けて、生きて帰ってこれるための、走破性能や安全性能。こうした原点の機能にはさらに磨きがかけられているようです。ランクルは、トヨタの車づくり精神を体現する、まさにフラッグシップカーといってよいでしょう。

ランドクルーザー300の発表を見て思うことがあります。それは「自動車はスマホではない」ということです。

新興EVは、ハイプカーブの谷に沈みつつある

自動車業界が100年に1度の大変革期にきている中、電気自動車が既存の内燃エンジン車の脅威になることは事実です。しかし、このことは、もうだいぶ前から言われてきました。中国では実に100以上もの新興EVメーカーが乱立し、米国でもテスラの次を狙うスタートアップが巨額の資金調達を成功させて、研究開発に邁進しています。

しかし、現実は厳しく、中国のEVメーカーは現在淘汰再編の真っただ中。テスラの次といわれた「二コラ」も、巨額の粉飾が露呈し、将来に黄色信号が灯りつつあります。

自動車は、スマホのようには作れない。

このような新興EVスタートアップの苦境を見て思うのは、自動車というプロダクトに対する、ある意味根本的な認識の誤りです。

自動車が電動化したら、複雑なエンジンが要らなくなるため、スマホのように組み立てて売ればよくなる。だから、だれでも参入できるようになる。ということが、まことしやかに言われてきました。現状を見るに、これは残念ながら間違いだったといえるでしょう。

自動車はスマホとは違います。自動車は、スマホとは比べ物にならないほど過酷な環境に晒されます。

時には50度を超えるような気候、雨、土埃、砂埃、荒れた路面、何万回も繰り返される加減速、急発進、急ブレーキ。

こうした過酷な使用環境に耐えて、搭乗者を安全に、確実に目的地に運ぶための技術を、自動車メーカーとサプライヤーは長年かけて蓄積してきました。

何十種類もの性質・形状の異なる金属、ゴム、液体、樹脂、気体。複数の異なる素材・要素からなる部品群を一体化された一つの製品として統合し、あるべき価値(安全、快適、走る喜び)に昇華させる作業は、スマホを組み立てるのとは比べ物にならないほどの試行錯誤やすり合わせが必要になります。自動車はスマホではない。

もちろん、だからといってこれまでの技術や商慣習に依存し、新たな市場変化や競争環境に対応できない自動車OEMやサプライヤーは、やがて淘汰されていくことになるでしょう。もしガソリンエンジンがなくなれば、一番複雑で難しい工程がなくなるのは事実です。

しかし、自動車というプロダクトの本質を見誤って、勝ち残るための競争力の源泉(部品間のすり合わせや試行錯誤による経験値の蓄積)がおろそかになったときこそ、日本の基幹産業である自動車産業の崩壊が現実のものとなるのかも知れません。

「自動車はスマホのように組み立てられる」という、解像度が低くて、雑な市場・業界の認識が、株式市場を誤った方向にドライブする傾向は、もはや一刻も早く是正されるべきなのです。

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