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シンガポールのCarTechスタートアップと日本の大手損保の提携

初対面でとんでもない事業計画をぶち上げ、次に会った時その達成をあっさりと報告してくれる起業家が時々いる。
シンガポールのAaron Tan(アーロン・タン)もそのひとりだ。

タンは、AIを活用した CarTech × FinTech 領域のスタートアップ「Carro
(カーロ)
」の創業者。シンガポールの国費留学で米国カーネギー・メロン大学を卒業し、その後、シンガポール国営通信企業のベンチャーキャピタル部門に勤めた。東南アジアの名だたるスタートアップに自らエンジェル投資もするエリート起業家である。

Carroは2016年の創業で、中古車売買アプリからスタートし、現在はオンライン中古車販売をシンガポールやタイ、インドネシアなどで展開する。
車体ごとのローン返済シミュレーションがウェブサイト上で自在に出来るなどUI(ユーザー・インターフェース)も良く、ローン審査結果も数時間~1日で分かるなど、FinTechを武器に急成長している。

前回会った時タンは「車載センサーのデータを活用した、自動車保険商品の開発をやりたい」と言っていたが昨年末、あっさり実現させた。

実はその陰には、GMOベンチャーパートナーズが紹介した三井住友海上火災保険との事業提携があった。両社は今、共同で新保険商品「テレマティクス自動車保険」を開発中だ。車に搭載された機器や、ユーザーのスマホアプリが収集した運転時のデータ(加速・ブレーキの頻度やアイドリング時間)などをもとにユーザー・リワード(クーポンやディスカウントなどの特典)を付与し、それに応じて保険料も決めるという新しい保険スタイルである。

この技術による保険料算出のしくみは「ドライバーが安全運転をする動機付けとなる」とタンは言う。つまり事故が減る。結果として保険会社は保険金の支払いが減る。このユーザー行動データを利用した自動車保険は、米国やヨーロッパでは普及が始まっているが、東南アジアではCarroと三井住友海上がフロントランナーになっている。

まずインドネシアでサービスが開始され、その後タイ、マレーシア、そしてより広い東南アジアで全面的に展開する。Carroは各国に作る自社工場で、
この車載データを生かして車両メンテナンスサービスにも乗り出す予定だ。

2021年末までに2000台以上の自動車に保険を提供し、2024年までにその数を3倍に増やす計画を持つ。日系企業がアジアのスタートアップと提携するのは珍しい。背景にあるのは、三井住友海上がシンガポールにイノベーション推進拠点を構えるなど豊富な陣容を擁していることがある。

タンは「この保険モデルは東南アジアの道路を安全に保ち、より安全運転を心がけるドライバーに報いることができる」と熱く語った。



[日経産業新聞 SmartTimes「アジアの新興とつながれ」2021年1月20日付]

※ この記事が出たあと、2021年夏にCarroはユニコーンとなった

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