第4話 みつおの血筋


「やな、くさぶっくゎーひゃー」

みつおの父親が怒鳴った。

※ここで説明しておこう。
この言葉は、相手を罵るときみつおの父親が口にする、一番醜い言葉である。

標準語に 訳すと、
「ぶっきらぼうの醜い顔」
と言う意味だが、みつおの父親がこの言葉を発するとき、それは空襲警報のようなものであり、避難する必要があるのだった。

その言葉が聞こえると、みつおは心の準備をする。

そして、

「みつお、センリ、おいで」

という母親の声に従い、僕と妹と思っていた姪っ子と三人で家を飛び出すのである。

父親が暴れる前に避難するのだ。

「お前らみんな出て行けー」

と背中から、父親の怒鳴り声が聞こえ

ガチャン

と、何かを投げて壊れる音がする

みつおはとにかく必死だ、恐怖映画で、悪魔が追っかけてくるような恐怖感を味わいながら、毎回逃げるのだった。

夜中から、母親とみつおと妹(正確には、姪っ子)と3人でさまよい、知人の家に一晩お世話になるのだった。

そして朝方、家に帰る。

必ず後ろの勝手口が空いているのが不思議だった。

そして、母親は何事もなかったかのように、朝食の準備

父親はいつもの時間に起きて、朝食を食べ、いつものように仕事に出かける。

昨日のケンカは何だったんだろう。

毎回意味不明のみつおである。

そして、夜になるとまた始まる。

日課のようなものだった。

幼い頃のみつおには、母親をいじめる父親の印象が強かった。

しかし、小学生になると、段々と意味が分かってくる。

ケンカのほとんどは、母親の天然が原因だった。

「おい、皿は?」

父親が叫ぶ

その日の夕飯は刺身のおかずだったのだが、醤油差しの皿が無かったのだ。

「はい」

何故か逆ギレした母親がドンと皿を置く

(えーーーーーー?)

みつおは焦る。

(なんでーーーーー)

母親は何を勘違いしたのか、カレー用の大きな皿を持ってきたのである。

「ゔぉっほん」

父親が咳払いをする

間が空いたあと

「こんなので刺身が食えるかー、
このすっとこどっこい」

と言って、皿を投げつける。

それでも気づかない母親

「あんたが、皿持って来いって言ったんでしょー」

出たーー逆ギレ

これでケンカが始まるのは確定である。

「何ーー」

怒り狂った父親が立ち上がった

ヤバイ

しかし、母親は逃げることが出来ない

父親が向かってきた
母親は、大きな腹を突き出した。

まさか、よけると思っていた父親は意表をつかれ、母親の大きな腹に体当たりしたが、逆に突き飛ばされて転げてしまった。

みつおの母親は、近所でも有名なデブおばさんだったのである。

切れるのを通りこした父親は、

「やな、お前は横綱か」

と言って笑い出してしまったのであった。

毎日が、こんな感じで夫婦ケンカの絶えない家庭であった。
だから、上の姉や兄貴は、学校卒業とともに、すぐに自立して家を出て行くのであった。

みつおの妹(姪っ子)もいなくなり、家には父親と母親とみつおの3人である。

そんなある日
その日は、珍しく平和な夜だった。
何事もなく、食事も終わり、父親の機嫌がいいのか、円満にテレビを見ていた。

しかし、みつおの不安は消えることはない。
いつ始まるかわからないからである。
安心しているときに始まったら余計にショックである。

半分は平和を楽しみながら、半分はいつ始まってもいいように心の準備だけはしていた。

嫌な予感がよぎった

母親が、ソファで居眠りを始めたのだ。
母親のイビキは半端じゃない。
今ここでイビキをかきだしたら、確実に父親の怒りを覚ますに違いない。

しかし、母親はイビキどころか、もっととんでもないことをやってしまったのだった。

「はぁ?!、私が何したの?意味わからん」

と言って怒り出したのである。

父親とみつおはビックリだ!
意味分からんのは、こっちである。

母親は、また眠りこけてしまった。
きっと、変な夢を見たに違いない。

段々と父親の顔が曇り始めた。

(ヤバイ)

みつおは覚悟した。
頼むから、このまま目が覚めないでくれと心で祈っていた。

しかし…

「何ね、本当に、あんた頭おかしいんじゃないの?」

アウトーーーーー

「おいっ、眠いんだったら向こう行って眠ってこい!何かっ、さっきから意味分からんこと言って」

ついに父親が切れた。

本当にそうだ、向こうへ行け!
みつおも思った。

これで、今日の平和もぶち壊しである。

「あんたがさっきから怒ってるんでしょ、私が何したの?」

「俺は何も言ってない、お前がさっきから寝言言ってるんだろ、フラーといるむん」(馬鹿と同じ)」

と父親が怒鳴り、一瞬 間が空いて静まり返った瞬間だった。

「やな くさぶっくゎーひゃー」

3人の頭に????

「ヤナクサブックヮーヒャー
ヤナクサブックヮーヒャー」

何と…

あの九官鳥が叫んでいたのであった。

3人が、犯人は九官鳥だとわかった瞬間

父親は怒った手前、後にはひけなく、機嫌が悪い顔のまま黙り込んでしまった。

母親は…

「まったく、この九官鳥よ、こんな変な言葉も覚えてるの?」

九官鳥の愚痴を言い出す。

みつおは、笑いを堪えて、自分の部屋に入っていったのだった。

そして間違いなく、この母親の子供だと悟った瞬間だった。
母子で九官鳥にしてやられたのであった。

当時は深刻だったみつおも、大人になって思い出すと、ドリフターズ以上に最高のコントだと気がつき、今の感覚で、あの頃に戻って生のコントを見てみたいと思ったのであった。


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