第1話 奇跡の誕生


「嫌~、絶対に嫌~、この子を殺すなら、私も死ぬ」

女は病室のベッドで、気が狂わんばかりに叫んでいた。

悲しげな顔でそれを見守る夫がいる。

その夫は、先ほど先生に呼ばれ話をして帰ってきたのだった。

それは、とても辛いことだった。

「あのー、大変申し上げにくいことなんですが、今の奥さんの状態では、かなりの難産が予想されます。
かなり衰弱しているみたいなので、とても難しい状態です。
ハッキリ申し上げますと、子供は諦めた方がよいかと思われます。
このまま出産に挑むと、奥さんか子供、もしくは両方の命を落としかねません」

「そうですか…」

その夫は肩を落とし、妻のいる病室へ向かった。

その事を妻に告げ

「今回は諦めよう」

するとその妻は、発狂したのである。

「私はどうなってもいい、でもこの子だけは助けて」

自分の腹を痛めたことがない男にはわからない。

まだ見ぬ子供よりも、今 目の前にいる妻の方が大切なのだ。

しかし、何を言っても聞き分けのない妻に、夫はとうとう負けてしまった。

「おい、2人とも助けろ!
じゃないとお前を殺すぞ」

主治医の所へ駆けつけ、怒鳴り散らした。

その夫は、近所のヤクザでも恐れる暴れん坊で有名な男だ。

しかし、

「す、すみません、うちでは無理です、他の病院を探してください」

恐る恐るその医者は丁寧に断ったのだった。

夫は、妻を連れ別の病院へと向かった。

しかし、そこでもやはり断られた夫は更に次の病院へ…

そこでも同じことを言われたのだが、もうすでに3軒も病院を廻って かなり衰弱している婦人を見て、その先生は覚悟を決めた。

「分かりました、やりましょう」

手術が始まり、5、6時間が経とうとしていた。

「オギャー、オギャー」

元気な泣き声が聞こえた。
男の子だ!

「女房は、女房は無事なのか?」

手術室から出てきた医者に、夫は駆け寄った。

「えぇ、大丈夫なんですが…」

少し濁すように答える医者

「大丈夫だけど、何なんだ?」

すぐに突っ込む夫

「その、産まれた赤ちゃんが…」

「子供なら、元気な泣き声が聞こえたじゃないか!」

話を最後まで聞かないで、怒鳴る夫

「いや、あの元気なんですが、その、未熟児でして、当分は保育器の中ということになります」

「そうか、でも2人とも無事なんだな」

2人が無事なのを確認して、ホッとしたのだった。

奇跡的に2人とも無事に出産を終え、3週間は保育器の中で過ごしたものの、その後はすくすくと元気に育っていった。

こうして、父と母の執念に支えられ、みつおは奇跡の誕生を果たしたのである。



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