第62話 兄貴とヤクザとヤンキーと…

「はい、ありがとうございます。カラオケハウス◯◯でございます」

「おい、今から行くから部屋空けといてくれよ」

「あ、お客様、本日は土曜日で混み合っていますのて、只今2時間待ちでございます」

「はぁ、2じかんも待てるわけねぇだろ、とにかく今から行くから空けとけよ」

土曜日のカラオケハウスは夜中の12時を過ぎてからがピークだった。
常に2時間待ちの状態である。
それを伝えたのだが一方的に予約を入れて電話を切られてしまったのだった。

「まいったな」

「どうしたんですか、金城さん」

「今予約ので強引に部屋を空けとけって言われたんだけど、2時間待ちって言ってるのに、今から来るからって電話を切られちゃったんだよ」

「失礼だね、お店の都合もあるのに誰だろう全く、そんな奴は無視していいからね」

オーナーの息子は強気だったが…

「おい、さっき電話した者だけど、部屋はどこだ」

店に来たのはほんま物のヤクザだった。
みつおとその息子は焦ってしまった。

「あのすみません、今2時間待ちでして、まだ空いていないんですよ」

「はぁ!だからさっき空けとけよって電話したじゃねぇか!おまえなめてるのか?」

「いいえそういうわけではありませんが、ただ現実的に部屋がいっぱいでして…」

オーナーの息子がたじろいでいたので、みつおが出ていった、

「あっ、すみません先程電話に出た者ですが、今すぐになんとかしますので、もうしばらくお待ちください」

「お前かさっきの電話は?」

「はいあの後、部屋が空いたらすぐにキープする予定でしたが、まだ空かないんですよ、先にお名前を書いてお待ちください」

「まったく、すぐに部屋を用意しろよ」

とりあえずその場をつくろって、どこか部屋が空くのを祈るしかなかった。
そのヤクザは素直に予約用紙に名前を書いた。

「タマキさんですか?今日はお待たせして申し訳ございません。今度からは僕に直接電話ください、タマキさんってわかれば、どんな事をしてでも部屋を空けますよ、僕は金城ですので、僕あてに電話くださいね」

「おぅ、お前話が分かるじゃねぇか、そういう事なんだよ、今度から気をつけろよ」

そう言いながらもそのヤクザは喜んでいた。自分が特別扱いされるのが嬉しいのである。

とっさに閃いたのだが上手くいってホッとした。
特別扱いをされたいからイキがっているんだろうと思ったのである。

ここには、若いヤンキーがよく来るのだが、アイツらもそうだった。特別扱いをすると喜んで素直に言う事をきくのである。
しかし、中にたちの悪いやつもいた。
みつおはムカついて怒鳴ったことがあった。

「おい、お前らいい加減にしろよ、勝手に他の部屋に入るなって言ってるだろ」

「は?なんだお前、お客様は神様じゃねぇのか?」

「神様でも、ダメなことはダメなんだよ、他のお客様に迷惑かけるなら、出禁にするぞ」

「ちっ、わかったよまったく」

酔っ払って女子同士で来ているへやに勝手に入ってナンパしようとする輩が多かったのである。

ある程度は我慢していたが、それだけは放っておく事はできなかった。
店長が丁寧に説明して出てもらうのだが、同じ事を3回繰り返したときにみつおが切れてしまったのだった。

それから、そのヤンキーグループに目をつけられてしまったのだった。
その後みつおがトイレに入った時にそのヤンキーグループの中の1人が入ってきた。

「おいにいちゃん、舐めてるのか?」

みつおの後ろから声をかけてきた。

「はぁ、どっちが舐めてるんか?仕事が終わるまで待っとけ相手してやるよ、今は仕事中だから今手出したらすぐに警察呼ぶからな」

「上等だよ、何時に終わるんだよ」

「朝の7時だよ」

「バカかお前、7時まで待てるわけねえだろ」

「じゃ、明日の昼間に来い、住所教えてやるよ」

「はっ?どうせ嘘の住所だろ」

「嘘なんかつかねぇよ、おまえこそ逃げるなよ、家で待ってるからな」

みつおは、本当に家に来てくれたら最高だなと思っていた。
今日はみつおの兄貴が家に泊まると言っていたので、兄貴と鉢合わせたら都合がいいと思ったのだ。

兄貴はこのいったいのヤンキーの親分連中を舎弟にしていたので、兄貴を知らないヤンキーはいなかったのだ。

今では時効だが、みつおが中学の時にこの集落で事件があった。
道に停めてある車のタイヤが全てパンクしていたのである。
学校に行きながら、パンクしているクルマを見つけては騒いでいたのだった。

その事件は新聞にまで載っていた。
車庫に入っている車は無事だったが、路駐している車だけを狙ってパンクさせていたのである。

それから10年後にその話をしたら

「あれは、俺がやったんだよ、路駐ばかりして邪魔だから、ヒートー達を集めて路駐している車全部パンクさせてこいって命令したんだよ」

「マジか…」

それは本当の犯罪である。
しかし、警察も手をこまねいていたのだった。
犯罪は犯罪なのだが、そもそも路駐していた車も駐車違反なのである。
しかし、その集落では暗黙の了解というのがあって、勝手に警察が駐車違反を取り締まることはできず、住民から苦情が入った時だけその車の主に忠告にくることしかできなかったのである。

だから、路駐が普通になっているので路駐が多いと車が通るのが困難な時もあったので、兄貴がブチギレてパンク事件を起こしたのだった。

ヒートーというのは、みつおの一つ下の学年でこの辺りでは、超ワルで有名だったので誰も知らない人はいなかった。
一度カラオケハウスにも来た事があったが、見た目のガラの悪さはハンパじゃなかった。

そんな奴を舎弟代わりに使っている兄貴は何者なんだと思っていたが、まぁ住む世界が違うので関わらないようにしていた。

そんな兄貴だったので、みつおの用心棒がわりだったのである。
だから楽しみにしていたのだが、奴らは来る事はなかった。

金曜日、土曜日はかなり忙しくて2時間待ちが普通だったのだが、平日の夜中はヒマだった。
平日に朝までカラオケを歌っている人はほとんどいない。
それでも朝の7時まで空けないといけないので眠気を我慢しながら、退屈な時間を過ごしていた。

後から入ってきたバイト生と仲良くなり、2人で協力して、一人ずつ空いてる部屋でカラオケを歌って遊ぶことにした。

ヒマな時間帯は一人充分である。
30分交代でカウンターのすぐ目の前にある部屋を使ったカラオケ大会をしていた。

そんなこんなでカラオケハウスで働いていたみつおだが、また肝心な事を思い出したのだった。

カラオケハウスで働くことが目的ではない。 
再出発のために腰掛けでバイトしたことを思い出したのである。
だから夜中の仕事を選んだのだった。

午前中に睡眠をとり、午後こら別の活動をしようと思っていたのだった。
別の活動とは、リフォームの営業である。
自分で名刺を作って、営業し仕事が取れたら仲良くなった下請け会社に直接回せばいい。

こうなったら独立して会社を作ろうと思っていたのだった。

その目的を忘れていたことを思い出してみつおは行動を起こしたのだった。

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