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コタロウ 10

【幻獣としての立場をわきまえず、召喚魔法無しに勝手に出てきてしまい、申し訳ありません】

【そうですね。いくら救いが目的だったとはいえ、今のあなたは幻獣。神を纏める闘神として何かしらのペナルティーを考えなければいけませんね。】

『ちょっと待ってください!オーディーンさんは私達を助けてくれたのです。ペナルティーなんて酷いです!』

珍しくトーエが声を荒げた。

【トーエさん、これは神の世界のお話です。いくら貴女方を助けたとはいっても幻獣のオーディーンがやってよい事では無いのです】

『それでは。オーディーンさんの召喚士は私です、つまり私が召喚しなければオーディーンさんは出てこられなくなるわけです。もちろんそうなれば神様にもなれません。それにあの時私、見ていました。ハーデスが何か投げつけた時にアテナさんがこちらに跳んで来ようとするシヴァさんとイフリートさんを止めたのを。だから、オーディーンさんは・・・私にとって必要な神様なのです・・・』

泣きながら訴えたトーエの言葉にオーディーンから幻獣特有のうっすらしたぼやけた感じが消え、帯刀していた一振りの刀の他に背中に越しに何百本もの刀を従える刀神オーディーンへと姿を変化させた。

【トーエさん、お礼を言うのはこちらの方です。貴女の想いが、貴女の願いが私を再び刀神へと戻してくれました。ご心配なさらずに、私の幻獣は変わらず召喚できますから。それと戦いを見ていて思ったのですが、コタロウ。君はムーンの漆黒の刀を持っているのにも拘らず、充分に力が発揮できていない。炎神が力を貸してくれている事に安堵している、今の君はコジロウに及ばない】

さすが刀神オーディーン、的確だ。これではコタロウもグウの音も出ない。

【そこでだ、今の君は五属性だが六属性と力を等しくする方法がある、聞くかね?】

オーディーンの問いかけに、しょぼくれてたコタロウが咄嗟に反応した。

『もちろんだ、オレに可能なら教えてくれ』

【それは現在君が持っている刃属性を強化させる事、即ち私が君のその、ちぎれた腕になるという事だ】

『なんだ、お見通しかよ』

おそらく神々は気づいていたと思うが口にはしなかったのだろう、出血のあとも何もなかったから誰も気付かなかったが、コタロウの利き腕は確かになくなっていた。

『コタロウちゃん・・・いつから・・・?』

【オレが説明しよう】

炎神イフリートが姿を現した。

【冥王のヤツ、実は破片を二つ飛ばしていやがってな。一つはミレイ・もう一つは希望の石を壊すような軌道で小さいのを飛ばしていたんだ、要するにトーエを狙ってたって事だ。でかいのはオーディーンに任せると闘神が決めた。小さいのはってなった時にオレがコタロウに訊いたんだよ。「オメ―、片腕無くしてでもあの女守るか?」ってそしたらコイツ「当たり前だ」なんて言いやがるからよ、コイツに小さい方やらせたら本当に片腕持って行かれてな。「気づかれない様にしてくれ」って言うもんだから、身体の内側からオレが焼いて止血したってわけさ。まあ、男の決断だ。誰が悪い訳でもねえ、受け止めてやれ】

『そんな・・・コタロウちゃん、私の為に・・・』

[トーエさん、コタロウさんは君を守りたかったんだよ。私は不甲斐なく動けなかったがやはり勇者は違う、それでも動いて大切な人を自分の身で救ったんだ。責めないでやってくれないか]

【コイツはよう、確かに炎神であるオレ様をその身に呑み込んだ。そして地獄で何度も死にかけて強くなったけどよ、「愛する女の為なら命を捨てる」っていう覚悟はあっても「愛する女を守って生きる」っていう覚悟が足りねーんだよ。テメーが死んじまったら女泣かすだろーが!って覚悟だ】

炎神の言う事はもっともだ。命を粗末にする事と、愛する人を守るのとは等価値ではない。命を救って自分も生きて初めて等価値なのだ。

【そこで人間には聞こえない様に俺達神の中で話をした。「そういうことだから、もし今回の事でオーディーンをお嬢ちゃんが神として救う事が出来た時には、コタロウの腕になってやってくれ」ってな。トーエはオーディーンを救った、コタロウはトーエを救った。だから刃神オーディーンはコタロウの右腕として宿るって事だ】

【痛みも苦痛もない、君本来の力が発揮できるようになる。安心したまえ】

そういうと刃神オーディーンは無くなったコタロウの右腕として、見た目何の違和感もなくその力を宿した。

【さあコタロウ、刃神の神技をあの廃城に打ってみるがよい】

刃神に促されたコタロウはいつもの様に腰を落とし、地面がめり込むほど一歩を踏み出すと神速の抜刀で技を繰り出した。

『伐神の斬・・・炎雷水刃癒の神技(刀神オーディーン)』

同じ五属性でも神を二人宿すとこんなに違うものなのか!廃城は跡形もなく消え去り、まっ平らな更地に姿を変えた。

『す、すげえ。何だこの力は・・・』

コタロウ自身が一番驚いている。刃神オーディーンがコタロウの腕に宿った事で、こんどは闘神アテナが話し始めた。

【炎神と刃神から説明があった通りです。ムーンに欠けていた物は自分を大切にするという心、それを知ってもらう為にこの様な形になってしまいました。貴方の力を必要としてくれる人が居るという事は、貴方は生きなければならないのです。どうかムーンの意志を正しく背負ってください】

そう言い残し、アテナはコジロウの中に戻っていった。

重度のうつ病を経験し、立ち直った今発信できることがあります。サポートして戴けましたら子供達の育成に使わせていただきます。どうぞよろしくお願い致します。