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レム・コールハースのレクチャー

2015年と2018年にロンドンと東京でレム・コールハースのレクチャーを聴いた時のメモを再構成。

2015年3月11日@ロンドン

AAスクール
にてコールハースのレクチャーを拝聴。チケットは売り切れていたためダメもとで駆けつけると既に長蛇の列。なんとか中継会場で座って聴くことができた。

AAスクール前の長蛇の列

コールハースのレクチャーは3回目だったが、いずれも日本で聴いたものだったので久しぶりにヨーロッパで建築家のレクチャーを聴いた気がする。

レクチャーのタイトルは「Venice and After」。昨年のベニス建築ビエンナーレでレムがディレクションした展示「Fundamentals」の解説が主な内容であった。展示は昨夏ベニスで見たのだが、レムの説明でニュアンスがよく分かった。

レクチャーでは「Window」「Door」「Toilet」など建築のエレメントに分解するという展示の解説を展開しつつ、ICT、オープンネス、スメートシティ、セキュリティなどトレンディな話題を次々と掲げながらそれらがいかに馬鹿げているか徹底的にこき下ろすいつものレム節全開。

「トイレ」の解説で日本のウォシュレットの紹介があり、会場が沸いていた。ウォシュレットが素晴らしい、というよりは日本企業の高い技術力で日本人は機械にお尻まで洗わせてしまう、なんて素晴らしいんだ!みたいなややアイロニカルなニュアンスであった。

観客からの質疑応答ではエレメンツに分解した後建築をどう組み立てるのか、なぜ文法を避けるのか、エレメンツによる都市の設計は可能か、など建築設計に関わる質問が繰り返されていたが、レムはいずれも白けたように参照項を挙げてとうとうと自説を述べた後、最後に質問そのものがいかにくだらないかを明らかにしてにやっと笑うのであった。この感じ、懐かしい笑

建築家として社会の現実に深く関わりながら、徹底的にシニカルに、あるいは仕事での鬱憤をレクチャーで晴らすような語り口。聴衆全員をお客様として暖かく迎え柔らかく説明しようとする大衆社会の日本のおもてなしレクチャーと異なり、エリートと大衆が二層分化したヨーロッパならではの雰囲気だが、オランダ留学で1年過ごした際、こういうヨーロッパ人独特のシニカルな雰囲気に慣れ親しんだ後、日本に戻ってきたら日本人建築家のレクチャーが作品解説だけで基本的には新作発表と裏話しかしないのに驚いたことを思い出す。

この日のレクチャーでも作品のことはゼロ。「一般の人にもわかりやすく」という配慮もゼロ。文脈を共有していない客のことは徹底的にバカにして嫌味たっぷりに扱う。他方で観客はそんな演劇的なパフォーマンスや質疑応答のやりとりを熱気を持って見守っている。

まるで観客を吊し上げるようなシニシズムの是非はともかく、観客と建築家が一体になって作り上げるヨーロッパの建築学校で繰り広げられるレクチャーイベントの熱気はやはりうらやましいなと思う。

2018年11月1日@東京

レム・コールハースの最新刊『elements of architecture』の発売イベントが六本木で開催された。レムから30分のレクチャーのあと、太田佳代子さん小林啓吾さんのトークを拝聴。

レクチャーするレム・コールハース

『elements of architecture』 「床」「壁」「天井」など建築の要素についてのリサーチで、2014年ベニス・ビエンナーレでの展示「Fundamentals」で発表された内容をブラッシュアップした2400ページのマッシブな本。展示同様、地味な内容にもかかわらずとてもスペクタクルな書籍であった。

『elements of architecture』

レムの著作には歴史のなかに隠れたアーキテクトを探す方向(『錯乱のニューヨーク』『プロジェクト・ジャパン』等)と、新しい変化を捉える方向(『ミューテーションズ』『カントリーサイド』等)がある。今回の『elements of architecture』には例えば「ランプ」の欄でクロード・パランが紹介されるなど、両方の方向が含まれているのかもしれない。

終了後、拙著『ちのかたち』をお渡しできた。内容の説明を求められ順番にご説明すると、「グーグルチェア」あたりでこちらのアイロニーが伝わり「Deep Learning Chair」を見て笑ってもらえた。「日本語と英語が完全に併記された本は珍しい、美しい本だ」と言って頂き励みになった。


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