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レンタルビデオ屋という文化

映画は配信サブスクで観るか、映画館に行くか、よほどの映画好きならソフトを買って映像特典を楽しむか……という時代になった。あちこちにあったTSUTAYAやGEOは潰れ、或いは本屋になったり古着屋になったりしている。「TポイントカードのTって何なんですかね?」なんてことを言う若者もいるのだと聞く。時の流れは早いものだ。しかし、レンタルビデオ屋さんでビデオを借りて映画を観るという文化も悪くなかったなと思うのだ。

昔住んでいた家の最寄りのTSUTAYAは、旧作1本1週間レンタル300円のところ、4本で1000円になるサービスがあった。4本借りた方がお得だから、お目当ての映画以外にも見繕って4本にして借りる。1本は恋愛モノを借りたからアクションやコメディにしようかなんて思いながら様々なジャンルの棚を周りながら物色する。パッケージを手に取って裏表を見て吟味する。公開中の話題作に合わせたオススメや、「夏だ!ジャパニーズホラー特集!」みたいな季節のイベントに合わせたオススメの棚から選ぶこともあった。そうやって厳選した今週の4本。当然大ハズレを引くこともあったが、お目当てじゃなく数合わせで選んだ作品の中から思わぬ掘り出し物を引き当てて、それが今でも忘れられないような映画になることだってあった。

1週間で返却しなければ延滞料金が発生する、というのも悪いシステムじゃなかったなと思う。来週の水曜には返さないといけない、だから何とかして観る時間を作る。たかが300円なのだから別に1本くらい観ないで返したっていいのに、持ち前の貧乏性でせっかくだから4本全部観てやろうと時間を捻出したものだ。返しに行ったついでにまた次を借りるサイクルが出来やすいのもまた良かった。あの新作が旧作になってお得に借りられるようになってる!ならもうあと3本借りようかな……そうして毎週4本映画を借りるということが習慣になっていった。映画だけじゃなくてアニメやお笑いやスポーツ、時にはエロが混ざることもあったけれど。

20歳くらいの時によく通うようになったのは、新宿のTSUTAYAだった。ちょうど世間はビデオからDVDに移り変わっていく過渡期。新宿のTSUTAYAには当時既に絶版になったような珍しいビデオがたくさん置いてあったのだ。クローネンバーグやロメロの古いB級ホラー、チェコの巨人トルンカの人形アニメ長編、伝説のカポエラアクション映画『オンリー・ザ・ストロング』は未だにDVDも出ていないしどのサブスクにもないレアモノだった。プロレスや格闘技、サッカーのビデオも充実していた。毎週ワクワクしながら通ったものだ。

サブスクで、定額料金で、いつでもどこでも気軽に映画が観られるようになったのは、基本的にはいいことだと思う。昔なら新宿のTSUTAYAに行かなければ観られなかったようなレアモノがしれっとサブスクにあって観られたりもする。凄いことだ。それでもふらふらと棚を周って映画との出会いを楽しんだあの時代のあの文化も悪くなかったなと思うのだ。あの形式だからこそ出会えた映画、1週間で返さなきゃいけないからこそ最後まで観られた映画があって、それらの映画体験が積もり積もって今の自分を形成する糧になっている。懐古厨などと言われるかもしれないが、あれはあれでいい文化だったなと思うのだ。

我々よりも上の世代だと、「飲んでて終電をなくした時はオールナイト上映をやってる映画館に行ったもんよ。そこで観た市川雷蔵の3本立てが素晴らしくってね……」なんてことを言っていたりする。その時代それぞれ、その時代ならではの文化があるものなんですよね。

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