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ある希望に関する物語

昨日、シャワーを浴びながらぼんやりと、導入部が好きな映画について考えていた。真っ先に思い浮かんだのが、ポーランドの名匠クシシュトフ・キエシロフスキが旧約聖書の十戒をモチーフに様々な人たちの人間模様を描いた全10話からなる連作『デカローグ』、その10話目、『ある希望に関する物語』だ。


※以下、デカローグ『ある希望に関する物語』のネタバレを含みます


会社員の兄とロックシンガーの弟、生き様も考え方もまるで違う兄弟は、父親の死をきっかけに久しぶりに再会する。父の遺品を整理する中で見つかったのは、どこかのアパートの鍵だった。真面目な仕事人間だった父。隠れて借りていたアパート?不倫でもしていたのか?と勘繰りつつもアパートを探し当てる。そこにあったのは、父が家族にも言わずにずっと集めていたらしい、切手のコレクションだった。そのあまりにも膨大な量に唖然とする兄弟。それでも処分すればまあいくらかの金にはなるだろうと、適当なファイルを1つ持って、切手マニアの集まる即売会に持って行く。

「これ、売りたいんだけど」

渡されたファイルを手に取ってパラパラとめくった店員はおごそかに顔を上げて言う。

「あなたは○○さんのご子息ですね?」

戸惑う兄弟。

「この度は突然のことでご愁傷さまでした。お父様には生前大変お世話になっておりました。このコレクションの価値が分かっておられないようなので説明させていただきます」

そう言って丁寧に、注意深くファイルをめくる。

「こちらの切手は1枚で高級外車が買えるくらいの値段になります。これは小さな家が建つくらい。こちらだとその家に庭が付きます」

顔を見合せる兄弟。

「……お父様のコレクションの価値がお分かりになったでしょうか?どうぞ少しお考えください」


あまりに完璧で、あまりにもワクワクする冒頭部分。僕が最初に見た時は家でレンタルビデオで観たのだが、思わず「おお!」と声を上げて笑ったのを覚えている。ここから切手に振り回されてゆく兄弟、巻き起こる様々なトラブル、やがて兄弟は、父が生前追っていた幻の切手に関するノートを見つけ、それを手に入れようと奔走するようになる。そして……と、ここからの展開も素晴らしい。見終わってから、曲がりなりにも物語を書く身として、非の打ち所のないと言っても過言ではない完璧過ぎる脚本に感嘆したものだ。

こういう作品に会えるのが嬉しくて、僕は映画が好きなのかもしれない。こういう作品をいつか書きたくて、こういう作品にいつか出演したくて、僕は創作に身を置いているのかもしれない。そんな大好きな作品。今日これを書くにあたってちょっと検索したら、なんとデカローグ、舞台化が決まってこの春に新国立劇場で上演されるらしい。10話だけでも観に行こうかなぁ…

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