#7 アメリカで飲食店を開業するためには就労ビザが必要
「よし、カリフォルニアでベーカリー・カフェをやろう!」
駐在員時代の2015年にワイフと二人で決断した。
パン社会のはずなのに、当時、ニューヨークにもロサンゼルスにも美味しいパン屋さんがなかった。
素敵なカフェに行っても、パンまで手作りしているようなサンドイッチはほとんど皆無だったし、
具材もパストラミやBLTなどありきたりなものばかりのところが多かった。
ワイフが試作する天然酵母を使ったブリオッシュや、自家製パンを使ったサンドイッチを食べる度に、
これならいけるんじゃないかと思った。
週末の度に人気のパン屋やカフェに足を運ぶ度に、
その思いは確信に変わった。
やることは決まった。
でも、そもそも外国人である僕たちがアメリカで簡単にビジネスを始められるのだろうか。
アメリカで合法的に働くためには就労ビザが必要となる。
日本で外国人が合法的に働くのが難しいのと同じで、アメリカで外国人が合法的に働くのも簡単ではない。
会社の駐在員の時は、会社が就労ビザの手続きをやってくれたが、
個人でビジネスを行う場合、どんなビザが取得できるのだろうか。
アメリカで就労を目的とする場合のビザは、
E-1ビザ(通常貿易ビザ)、
E-2ビザ(投資家ビザ)、
H-1Bビザ(特殊技能職ビザ)、
Lビザ(企業内転勤者ビザ)などがある。
既に日本でそれなりの規模のビジネスを行っている場合はLビザも候補となるが、
僕の場合も含めて、脱サラしていきなりアメリカで起業する場合は、E-1ビザかE-2ビザに絞られる。
Eビザはアメリカが貿易通商条約を締結している相手国の国民にのみ適用される非移民ビザ(永住を目的としていない)で日本人も対象となる。
E-1ビザとE-2ビザに共通する要件はアメリカに設立した会社のオーナーシップの50%以上を日本人もしくは日本の法人が所有しており、
且つビザ申請者自身も日本国籍を所持していること。
その他の共通要件として、「経営者・管理職、または会社の運営に不可欠な高度な専門知識を有する特殊技術者」とされているが、
この点は大きな嘘でない範囲で自身の経歴をどうやってよく見せられるかということ重要だ。
僕の場合だと、三菱地所勤務時代に実際には管理職業務をしていなかったものの、
ある一定年次以上は自動的に肩書上は管理職になる制度であったため、
ビザの申請にあたっては、自身の経歴について5年の管理職経験と記載し、
直接の部下ではなかった後輩たちを部下だったように記載して提出したが、
この辺は米国大使館・領事館も詳しくは調べないと思うので、出来るだけ膨らませた方がいい。
上記要件に加えて、最も重要となるのが、E-1ビザの場合は日米間で相当量の貿易を継続的に行っており、且つ全世界の貿易額の51%以上が日米間の取引であること、
E-2ビザの場合は米国内にリスクを伴った相当額の投資を行っていることという要件である。
「相当量の貿易」及び「相当額の投資」は明確な金額が定められておらず、
審査を行う在日米国大使館・領事館の担当領事が業種や投資の種類などによってケースバイケースで判断することになる。
両ビザとも、ビザの申請前に相当量の貿易もしくは相当額の投資を行っている必要があるため、
順番としてはまず米国に会社を設立し、ビザの要件が満たされたと判断される時にはじめてビザの申請を行うこととなる。
このように聞くと、基準も分からないのにそんなリスクを冒せないという声も聞こえてきそうだが、
実際には移民弁護士に相談すると、過去の事例を参考にしてこのくらいという目安を教えてくれる。
より多くの人が取得し、実際僕が取得したのもE-2ビザなので、E-2ビザについてもう少し詳しく説明すると、
「リスクを伴う先行投資」とは、積極的に事業経営を行うものでなければならず、単に不動産を買って誰かに貸すとか、
日本の口座から米国の口座に資金を移動させるなどの、
大きなリスクを伴わないものは対象とはならない。
分かりやすく言うと、アメリカで本気で事業をする気があるかどうかが問われているということだと思う。
E-2ビザで相当額の投資とされる水準は年々上がっていると言われており、昔は10万ドルくらいでも取れたようだが、
最近は最低でも20万ドルは必要、出来れば30万ドルとアドバイスされるケースが多いようだ。
20万ドルと聞くとそんな資金は用意できないと思うかもしれないが、
実際アメリカで事業を開始しようとすると、ビザとは関係なく、そのくらい投資しないと何もできないような気がする。
日本の失われた30年の間に日米の物価水準には大きな差がついたため、アメリカの物価は日本の倍くらいになっているからだ。
僕の場合だと、最初の計画段階では35万ドル程度の投資を考えていたものの、
物件のサイズが当初の想定より大きかったことに加え、内装に拘り過ぎてしまったこと、及び最悪の設計会社を選んでしまい、
結果として工事費が大きく膨らんでしまったことから、
最終的な投資額は約2倍になってしまったという痛い経験をすることとなった。
この点についてはまた別の機会に詳しく書きたい。
また、ビザ取得のハードルは高く、ただ相当額の投資をして既にビジネスを開始していますというだけではビザは取得できない。
その事業が十分な収益を継続的に上げていく蓋然性が高いかどうかも大きなポイントとなる。
そのためにも審査官が納得するような事業計画書を作成しなければならない。
事業計画書についても改めて別途詳述したいと思うが、ビザの申請書は事業計画書に基づいて作成することになるし、
例えビザ申請に必要がなかったとしても大金を投じてビジネスを行うからにはちゃんとした事業計画が必要なことは言うまでもない。
その他の要件としては米国人(グリーンカード保持者含む)を継続的に雇用するという要件がある。
要するに投資と雇用、納税の面でアメリカ経済にしっかり貢献してくださいということなんだと思う。
Eビザの有効期限は通常5年で、その事業が存続し、その企業に勤務する限り無期限で延長が可能とされており、
帯同家族(配偶者及び21歳未満の未婚の子供)にもEビザが発給される。
注意しなければならないのは、Eビザで米国に入国する際はEビザの有効期限に関わらず、
入国管理法上1回につき最大2年間のアメリカ滞在しか認められないこと。
Eビザは非移民ビザのため(移民ビザはグリーンカード)、永住する意思がないことを証明するために
少なくとも2年に一度出国する必要があり、そのことを忘れていると不法滞在という事態になってしまうのだ。
因みに、不法滞在が180日以上の場合は3年間米国入国が禁止され、1年以上の場合は10年間米国入国が禁じられるとのこと。
尚、弁護士の選定は慎重に行った方がいい。
なぜならば米国でビジネスを開始し20万ドル以上投資したものの、ビザが取れなかったため、
現地に継続滞在できないという最悪のシナリオを避けなければならないからだ。
僕の知り合いは移民法を専門としていない弁護士に安い報酬で依頼し、ビザを取得できなかった。
E-2ビザ申請に係る報酬・経費は僕の場合、合計で約120万円だった。
120万円と聞くと、小型車一台買える金額だが、
申請書の作成(添付書類含め合計267ページ)や大使館との綿密なやり取りなどを考えると、適切な水準だと思う。
どういうタイムラインでビザを取得することになるか分かりやすく説明するため、
僕の場合を例にすると、
① 物件取得の目途を付ける(基本合意書締結:2019年3月)
➁米国内に会社設立(2019年4月)
③リース契約締結(2019年5月)
④投資実行(設計費、工事費、リースデポジット等:2019年4月~2020年4月)
⑤事業計画書作成(2019年4月~2020年1月)
⑥ビザ申請書作成(2019年11月~2020年1月)
⑦実際に投資額がある程度に達した段階でビザ申請書提出(2020年1月)
⑧ビザ面接(2020年6月11日)
⑨ビザ発給(2020年6月15日)
というタイムラインであった。
ビザの申請時期については、出来るだけ早くビザを取得したいという思いがあった一方で、
弁護士から、投資額を出来るだけ積み上げてビザ取得の確率を高めた方がよいとのアドバイスがあったため、
工事費の中間金支払い後の2020年1月に申請書を提出することとした。
当初はビザを申請してから2ヵ月半後の2020年4月1日にビザ面接が決まっていたが、
コロナにより面接日が無期限延期となり、
その後、緊急ビザ面接を要請し、6月にビザ面接が設定された経緯がある。
日本の企業は海外駐在員の異動辞令を4月に出すところが多いため、
毎年2月から4月頃まではビザの申請から面接までの時間が通常より長くかかるため、
あと1ヶ月早く申請していたらコロナ前にビザが取得出来ていたかもしれない。
尚、ビザが発給されるまでの間はESTA(ビザ免除プログラム)を利用して出張ベースで事業を取り進めるのが適当だと思う。
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