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中小企業は悪なのか?

こんにちは!中小製造業応援団のたつみです。

この記事を読んで色々考えさせられました。

アトキンソン氏に反論するとか菅総理の政策に意見を言うという意図ではなく、中小企業の方々と一緒にこれからを考えて行ければと思い、私の考えを整理して書いてみます。

なぜ中小企業が問題だと言われているか

元々はデイビッド・アトキンソン氏がベストセラーとなった著書で「日本経済の最大の問題は中小企業」と明確に書いたことが、中小企業が問題と一部メディアで大きく取り上げられて「(中小企業を改革しようとしている)菅総理はアトキンソン信者」という記事まで出た最初のきっかけです。

アトキンソン氏の主張をものすごく簡単に書くと、以下の理由で中小企業が問題と言っています。

日本の経済が悪いのは生産性が悪いからで、大企業と中小企業を比べると中小企業の方が悪く、7割の労働者が中小企業で働いている。中小企業は生産性を上げるのも極めて難しいので、中小企業は減らすべき。

日本経済の何が悪いか、中小企業の生産性を上げるのは本当にムリなのか、など論点はありますが、それより「中小企業が多い日本の生産性をどう上げる」について考えるべきです。

アトキンソン氏の考え方に反発している人の多くは、感情的な部分が大きいと私は考えます。

・中小企業が日本経済の問題
・賃上げが必要で、それでつぶれる企業があっても問題ない
・中小企業を保護するのは「外資の植民地化から日本の宝である中小企業を守るため」


などなど、感情的に反発したくなる表現を批判覚悟で書いているようですので仕方ありません。「安くて美味しいものを提供してくれている飲食店はダメ」と言われると思うと私も感情的になってしまいます。しかし自分の考えを明確に主張すること自体はいいことで、氏を批判する話ではないと思います。私たち一人一人が国と中小企業の課題とそれに対する政策を考え、菅総理の政策に意見したり投票すればいいですね。

中小企業の問題の簡易分析

では、改めてできるだけ客観的に中小企業の問題点を考えてみます。

人口全体、生産年齢人口が減少し高齢化率が上がる社会では生産性の向上が必須だと考えます。引退した高齢者を支える、お金も労力も現役世代に重くのしかかります。

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日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じています。生産年齢人口はもっと早く、1995年の8716万人をピークにとっくに減少に転じています。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、2060年には総人口8,674万人、生産年齢人口4,418万人と約半数が65歳以上!

だいたいですが、今は現役2人で高齢者1人を支えているのが、2060年には現役1人で高齢者1人を支えることになります。3人分の生活を2人で支えていたのが2人分を1人、つまり生産性を1.3倍には上げないといけません。1995年は4人分を3人でしたので、2060年は1995年の1.5倍の生産性が必要ですね。

厳密には子供がいたり高齢者も蓄えがあったり働いたり、社会保障費を削ったり負債が積み重なってたり、と様々な要因があるのでこの倍数にはなりません。しかしかなりの生産性アップが必要なのは確かですね。

日本の生産性は、G7で最下位が47年間続いているそうです。

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日本生産性本部が発表している「労働生産性の国際比較(2019年版)」のデータですが、ここでは20位近辺をウロウロしていて、2018年は21位でした。日本の生産性が低いというのは色んなところで聞くようになり、もう通説になっていますね。

ただここの分析には大きな疑問があります。この指標を真に受けて評価していいのでしょうか。バブル期も20位ですが、20位だから問題とはならなかったですよね。今もGDPは低いが伸びており、生産年齢人口は減っていますので、生産性は伸びているのです。

さて、一旦ここでは各国との比較は置いて、「生産年齢人口減少と高齢化率上昇を考えると生産性は上げる必要がある」、という前提のみで話を進めます。

業種と規模で生産性を見てみましょう。

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なんと大企業は中小企業の2.5倍ですよ。国全体の生産性を上げようと思ったら労働人口の70%を占める中小企業の生産性に着目するのは当然ですね。多くの中小企業の方々も、生産性を上げて自分たちの待遇を良くしたいとは思っておられると思います。

次に業種別に見てみましょう。

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業種別に見ると、ダントツで「宿泊業・飲食サービス業」が低くなっており、「その他サービス業」「卸売業・小売業」が次いでいます。これら業種はあまり大企業と中小企業の格差もないです。規模関係なく一部のサービス業に改善の余地が多いように見えますね。

格差があるのは「製造業」の生産性で、中小企業は大企業の1/2強と大きく差がついています。非常に近いのが「学術研究、専門・技術サービス業」「情報通信業」で、これらはさすがに大企業と中小企業の差が大きいので中小企業の生産性を上げた方がいいと思います。

ただ、ここで重要なのは企業数にして99.7%、従業員数で約70%を占めるのは中小企業なので、結局中小企業に焦点を当てて生産性改善策を考えなければなりません。

中小企業の給与の問題

アトキンソン氏の主張である「最低賃金を上げる」についても考察してみます。

まず、大企業と中小企業の正社員の給与額を比較したデータを見てみます。ちなみに正社員のデータなので、ここにはパート・派遣は含まれていないことには注意してください。

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おおよそ2割中小企業の方が少ないですね。やっぱり中小企業は生産性を上げ、給料を上げた方がいいです。しかし、労働分配率(会社が生み出した付加価値を人件費にどれだけ分配したか)を見ると・・・

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中小企業は75%を人件費に分配しています。たくさん人件費に分配しているとも言えますが、人件費を上げると大変なことになります。大企業はまだ他に削って労働分配率を上げることはできるかもしれませんが、中小企業は厳しいです。

中小企業は給与が低く、上げづらいことまでは見えました。

営業利益は他のデータで大企業より中小企業の方が低いというのは見えています。普通に見れば人件費に分配しづらい根拠となりますが、「わざと利益調整している中小企業がある」という声がネットを見るとチラホラあります。これを証明することは難しいですが、大企業も調整していますし、余裕がある企業がマクロデータに影響するほど多いとは実感値では思えません。

なお、業種別に国税庁の「民間給与実態統計調査結果」で平均給与を見てみると・・・

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やっぱりサービス業が低い!サービス業の生産性を上げることは非常に大切ですね。

今度は格差を見てみます。

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先ほど給与データには「パート・派遣は含まれていないことには注意してください」と書きました。職業までデータにないですが、恐らく「200万円以下のパート・派遣・アルバイトが増えている」ということが言えるのではないでしょうか。

「中小企業および規模関係なくサービス業、パート・派遣・アルバイトの給与は低く、生産性を上げて給与を上げた方が良さそう」とは考えられると思います。

この章の最初の「最低賃金を上げる」に戻りますと、まず最低賃金であるパートとアルバイトの費用が上がることになります。恐らく真っ先にアルバイト等で成り立ってて利益の薄い小さなお店や施設が淘汰され、次にパートさんに頼っている中小製造業の淘汰や統廃合が起きる、という想像ができます。「生産性の高い企業を残す」という考え方が、アトキンソン氏の理論ということです。

もう少し説明すると、放っておいても生産年齢人口が減ると人材確保が困難になりますが、給与の低い中小企業には人材は自然と集まらなくなり、成長できなくなります。結果、まず事業承継できずに潰れる企業や、人が入らなくて営業できなくなって潰れるところが今以上に増えます。自然淘汰されるのですが、そのスピードを速めようとするのが氏の理論です。

うーん、、、いい悪いではなくイヤです。成長が難しい中で安定がなくリスクが見えてしまうのは、確かに不安すぎるので改善したい点です。ただ、一定の給与があり、安くて美味しいものを食べる生活は悪くないですよね。例えば、今ドンキホーテに行って家電やら化粧品やら高級品から生活用品など全部見たとして「メッチャクチャ欲しいけど買えなくて困る!」というものはそんなないですよね。スマホはAndroidの比較的安いのでもいいですし、動画と音楽配信サービスで月々数千円使って、普通に食べて、という生活は決して卑下するほどではないと考えます。

中小企業の問題は政策が浸透しづらいこと

角度を変えて中小企業の問題点を見ると、さrに色々出てきます。以下はすべてデータで確認できる(今回省略)中小企業の問題点です。

・女性が活躍できていない
・有給取得率が低い
・教育投資が少ない
・IT投資が少ない
・社員人材の流動性が低い
・海外進出・輸出が少ない

政府が力を入れようとしている政策が軒並みダメですね。確かに中小企業の方々が楽しく心豊かな生活を送れているかは疑問です。経済的にはギリギリ何とかなるレベルで、労働環境が悪く自分の将来も描けないようでは心豊かになりにくいです。

これはなぜかというと、中小企業に体力がないだけではありません。法律でしばりにくく、数が多くて総当たりができない中小企業に対して、政策を浸透させることは非常に困難なのです。結果、すべてが「経営者任せ」になります。

まとめ:中小企業が悪ではないが、今後は大変だ!

まず結論を書くと、、、

中小企業ということ自体が悪いわけではないです!

ただ、淘汰に向かうとは思います。

・高齢者を支える人と金を確保するためにも、中小企業やサービス業を中心とした企業の生産性を上げることは重要
・中小企業やサービス業は給与を上げたい!じゃないと人が来ず、貧困も広がる可能性がある。そのためには、収益性・生産性を上げる必要がある
・中小企業には政策が浸透しづらく、問題視される状況は続いても仕方がない
・このような状況を考えると中小企業は大変で、近い将来、生産性が低く人件費をかけられない企業から淘汰に向かうのは間違いない

私が大好きな飲食店もこれまでの業態では生きていけないお店が出てきて、店舗数も減るでしょう。非常に残念なことですが、これは新型コロナウィルスの影響をダイレクトに受け、淘汰のスピードが早まりました。早まっただけで、元々安い労働力に頼りすぎているリスクが明るみに出ただけです。

生産性が低く、企業数が多いところには、飲食店に限らずタイミングがズレてこの流れは来ます。そして菅政権はこの流れを速めようとするかもしれません。

国の借金、主に高齢者の社会保障費、格差拡大、といったところが経済的な問題で、それ以外そこまで悪いのかというと腐っても世界4位の大国なので、現時点ではそこまで悪くはないでしょう。ただ将来は悪化のリスクがあり、そのリスクを抑えるためには、企業数にして99%、労働者数にして70%を占める中小企業の改善は必須です。

私もビジネスを変えているところです。一緒に変わりましょう!

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